第12話「ふたりⅠ」
第十二話「ふたりⅠ」
臨海市の港区域にあるリゾート施設”マリンパレス”
休日になると家族連れやカップルで賑わうアミューズメントパークで、その敷地内には、遊園施設のみならず、海産物の卸売市場や、天然温泉施設まで揃った、他府県まで聞こえる人気施設だ。
また、オーシャンビューのリゾートホテルが並ぶ一角には、一流ホテルのそれに匹敵する、リゾートマンションが聳え立つ。
全室ぐるりと百三十度、海が見える事と高度なセキュリティを誇ることがセールスポイントの高級リゾートマンション。
「
目付きの悪い少女は、見るからに面白くなさそうに、ラグジュアリー感溢れる一階ロビーで難癖をつけてきた。
「どういう意味だ……てかなんでお前までここに?」
「何で?、
「連れ込む?……人聞きの悪いこと言うな!
俺は小柄な
ほんの数十分前、俺達は、鋼鉄の魔神、ブリトラに追い詰められ、絶体絶命であった。
結局、あの状況から何とか逃走することに成功し、取りあえず、一時的に臨海中央公園からは離れたW県の代表的な名所の一つである、お城の二の丸広場に待避していた。
「いったい何なのよ、あの非常識なポンコツは……」
「
俺がその問いに答える。
「非常識と言えば、
一緒に逃げて来た
「あれは……命中精度が極端に低いんだ、今回当たったのは、まぐれと言ってもいい」
「衛星……兵器?、
今度は
「前に裏の仕事の方で某国の軍幹部と取引があってな、それでその時、衛星を一つ打ち上げてもらったんだ」
「……あんた、たまに本当に、私でも呆れるような滅茶苦茶してるわね」
はぁとため息を吐く
「随分と資金もかかったのでしょう?あの武装兵器にしても……そのための裏家業なの?」
今度は俺の肩を借りて寄り添う、黒髪の美少女、
「まあ……そんなところだ」
彼女の肩を優しく支え、答える俺。
ーー!
「!いつまでお嬢様に馴れ馴れしく触れている!
「……」
「……」
近い距離で、一瞬お互いを見る俺と
ーー
「……いずれにしても、あの
「そうね、全力で無いにしても、私の
そうして何事も無かったように、そのままの体制で会話を続ける二人。
「お嬢様!」
おまえは往年のギャグ漫画のキャラクターかよ……
「
「ああ、特殊な波動で、対象物である力場から、エネルギーを供給する、俺が考案し、ドクトーレ・ギレが実用化に成功した技術だ。ただ、ドクトーレ・ギレのブリトラはこれを竜士族の
そう言って俺は
「これから行う」
「……
「!」
「!」
そうして彼女は急に問題発言を発した。
突然の展開に言葉を失う
「……今回の事もあるし、色々と確認したいことがあるのよ」
目を丸くする女二人を尻目に、
「……あなた、そういえば私にも聞きたいことがあるって言ってたわね」
「それはもういいわ、大体分かったし」
「……なにそれ?本当にいけ好かない女!」
そんなこんなで、ここから比較的近い、俺のマンションに一時待避することになったのだが、一行から、
如何に自由奔放な
今回は流れから、なし崩し的に敵対することになったが、流石に正面切っては不味すぎるのだろう……少し検討する必要があるわ、彼女は少し申し訳なさそうに、俺にそう告げた。
まあ、そりゃそうだ、俺は寧ろ、よくあの状況で護ってくれたと感謝しているぐらいだ。
ただ、少し落ち込んだ様な、彼女にしては珍しいテンションは、疲労やダメージのせいばかりでは無いような気がする。
もしかしたら、
「私は一旦退くけど……大丈夫かしら?」
去り際、それでも
「ブリトラは流石に今日の所は使えないだろう……他の軍勢が攻め込んで来た時は、そうだな、分かった、心当たりに連絡しとくよ」
「……あいつね……面白くないけど、今はそれがベストだわ」
そう言って、
結局、俺のマンションには、俺と
そこに残った無数の横たわる兵士達と大型トレーラー、そして巨大な鋼鉄の魔神……。
金属製の杖をついた白髪の老人は、地面に散乱している、少しくすんだ色に変色した碧の宝石を拾い上げた。
「
ヘルベルト・ギレは呟く。
それは
彼の武装兵器から引き出されたカードリッジに収まっていて、廃棄した物だ。
「愚かだな、
一人呟きながら、不出来の弟子を思い返す老人。
「ドクトーレ・ギレ、やはり
杖をついた白髪の老人、ヘルベルト・ギレに、現場の臨海中央公園に到着したブリトラの回収班の男が進言する。
ギレは不機嫌な顔で、ゆっくりとそちらを向いた。
「ですから、私は言ったのです、最終調整の点検がまだであると!」
男は上官であるヘルベルト・ギレに、顔を真っ赤にして猛抗議する。
ギレがこの鋼鉄の魔神を、半ば無理矢理参戦させたのは、あの時の無線のやり取りからも明白で、その相手がどうやら彼のようであった。
「ハラルドくんか、済んでしまった事をとやかく言っても仕方在るまい、それより妨害したのはやはり、過日取り逃がした
老人は自らの非を意に介することも無く話を進めた。
「……」
自分勝手な上官に憮然とした態度で、閉口するハラルド・ヴィスト技術准尉。
「ふん、フォルカーくん、どうだね?」
ギレ老人は明らかに不機嫌な目の前の男を見限って、その後ろで戦場の後処理の指揮を執る精悍な男に声をかけた。
ファンデンベルグ帝国が誇る第八特殊部隊、通称”アハト・デア・ゾーリンゲン”隊長フォルカー・ハルトマイヤー大尉である。
「はっ!そう思われます、ご命令通り、私の部隊が消息を追っているのですが……」
「そうか、ではその男は、
ギレが何かに納得したかのように頷いた。
「少佐殿、わが隊のベルトラム・ベレンキ中尉を打ち破ったのもその
フォルカーは努めて冷静に戦況の確認をするが、彼のカミソリのような鋭い眼光には熱い感情が垣間見える。
「たしか、ベルトラム・ベレンキ中尉は、君の第八特殊部隊の結成時からの盟友であったな」
フォルカーは言葉は発せずに、ただ頷く。
ファンデンベルグ帝国の第八特殊処理部隊、通称”アハト・デア・ゾーリンゲン”
上級士族達も含まれ編成されるこの特殊部隊は、上級士族特有の強力な特殊能力と、数多の戦場で培った豊富な実戦実績を誇る超実戦部隊。
実は、その部隊の呼び名の由来は、第八部隊からアハトという訳では無く、”八本のナイフ”、フォルカーやベルトラムを含む八人の最強の軍人達から結成された部隊という意味であった。
「元だよ、元准尉……
どちらにしても、これ以上情報が無いのなら、その意思とやらが何で在るのかは詮索しても仕方が無い、ただ目の前の障害を排除するのみ。
技術者と生粋の軍人、一見、畑違いに見える二人の思考は意外に一致していた。
「なかなかどうして、用意周到ではないか……
状況とは裏腹に、ヘルベルト・ギレは楽しそうにニヤリと笑う。
「
フォルカーも、記憶にあるその名を呟いていた。
「お嬢様のご実家に比べたら全然ですね」
「百三十度パノラマオーシャンビュー?こんな田舎じゃ夜景も大したことないですよ」
そう貶す彼女の足下はがくがくと震えている。
「そりゃそうだろ、同じ夜景でも、
ったく、何でこいつはこんなに無理に威張ってるんだ……
俺は呆れながらもそう答える。
当主代理という立場上、普段は東日本の帝都にある別宅で仕事をこなす
対して俺の居住する部屋は、
実際、学生である俺がこんな場違いなところに住んでいるのは訳がある。
セキュリティ、研究の設備部屋、そしてなにより立地条件、そういう理由があるのだ。
「か、勝ったと思うなよ、おまえが偉いんじゃ無い、このマンションが、マンションが……」
どうしても認めたくないのかよ……
俺はヤレヤレとあきらめ顔で
「たしかに夜景とかはだけど、俺は他に気に入ってるところがあるんだ」
「なに!、なに?それって何?」
無理に見下そうとしていた割には、興味津々で主人と俺の会話に割り込む、わりと失礼な
「
落ち着きの無い従者に一言いう
「お、お嬢様、危険です、こんな素敵な……じゃなかった、如何にも女を口説く為にしつらえたようなオシャレな……じゃなかった、
割とぽろぽろ本音がこぼれる説得力の無い従者の少女。
「いいから、
少し強めの主の言葉に、しゅんとしてしまった少女は、頷いて部屋を出る。
「あ、
多少いたたまれなくなった俺は、そう言って彼女を見送る。
「……相変わらず優しいのね、
俺の態度を
「そうか?普通だろ」
そう言って俺は、リビングのソファに彼女を促す。
良く磨かれたフローリングの上に鎮座するソファーは、二人で座っても十分くつろげる大きさである。
腰を下ろす黒髪の美少女を余所に、俺はカウンターの向こうにある少し本格的な大きさの冷蔵庫を開けた。
「何、飲む?」
そう聞く俺に、
「水でいいわ、今はそれが一番飲みたい」
俺は頷くと、冷蔵庫から、ペットボトルのミネラルウォーター二本と、ガラスコップを二個持って彼女の所へ戻った。
一息つくと、彼女はすっかり落ち着きを取り戻した美しい濡れ羽色の瞳で、隣に座る俺を見据える。
「それで、どうしてこんな事をしたの?これからどうするつもりなの?」
落ち着いた声ではあるが、冗談を許さない真剣な言葉だ。
「こんな事?今日の事か?それとも三年前の?」
俺は、少し誤魔化すように答える。
「両方よ、三年前、あの事件の後どうして失踪したのか、今日、どうして闘ったのか」
苛立ちを滲ませて
「三年前は、正直、成り行きだ、俺を助けてくれた男に頼んで
「私に迷惑をかけないため?そんなに私は頼りにならない?」
そう問い詰めてくる彼女であったが、その心は複雑そうだ。
一族の為とは言え、自身が見捨てた相手が俺であった、その対象が俺であると知らなかったとはいえ、それは同じ事だ。
そして、見捨てた張本人である自分が、俺に厚かましくもこんな事を言えた義理では無いと知りつつも、もし俺があの時、自分を頼ってくれたら、必死にお願いされたら……あの時、自身の決断は違っていたかもしれない。
彼女には、きっとそういった葛藤があるのだろう。
そして、同時にその想いが自分勝手な思いだと言うことも十分承知している……
気高く、人一倍責任感が強い
その
……わかっている……それは……
「……ごめん」
俺は本当に心から謝った。
「!」
「なんで!なんで
珍しく頭に血が上る
「あなたの……あなたのその
みるみるうちに、彼女の美しい双眸から涙が溢れた。
「
そう言って俺の肘を痛いくらいに握る彼女の手を、自身の手の平で包んでいた。
だめだ……今はまだ……駄目なんだ……
「……」
涙に濡れる瞳で、ただただ、謝罪の言葉を繰り返す俺を見上げる
でも、それでも……話せることもある……三年たった今なら……
俺は決断していた、少しだけ、少しだけなら……と
それが後に、俺の計画を狂わせることになるとは思いもせずに……。
「三年前の……件は俺が仕込んだんだ……俺がファンデンベルグの研究所に俺の竜因子の情報をリークした。」
「……?」
思わぬ告白に、俺の顔を上目遣いに見上げていた彼女は言葉を失っている。
「
今度は、俺が苦しみながらも告白する。
「話して……」
黙り込む俺に、
第十二話「ふたりⅠ」END
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