第7話「初陣Ⅱ」
第七話「初陣Ⅱ」
「我が国が誇る
傍観していた、ヘルベルト・ギレは、高らかに言い放つとニヤリと嗤った。
「ベルトラム・ベレンキ中尉!」
「ヤー!」
ギレの命令に大声で応えた大男は、再びターゲットの俺に向かって突進し、その巨大な右腕を振り上げて襲いかかって来た!
「くそっ!」
俺はそれを横に飛んで回避した。
ドカァァァ!
先ほどまでいた地面が大きく
「くらえ!でくの坊」
ガシィィ
俺は側面から、右腕の武装兵器でベルトラムの鳩尾辺りに渾身の一撃を放った。
「ぐおおおおおーーー」
ダメージを受けるどころか、大男は全くその動作を止める事無く、反撃してくる。
ブォォォーーーン
しゃがんだ俺の頭を掠めて通り過ぎる巨大な凶器。
風圧で歪む俺の頬が、非常識なその威力を物語っていた。
「ハイナー!エーレンフリード!」
巨大な凶器を振り回しながら、ベルトラムが部下の二人の名を叫ぶ。
「ヤー!」
大男と渡り合っている俺に、二匹の
「九五式装甲”
俺は両方の腕を左右に開き、襲いかかるそれぞれの人狼に向け銀円光の壁を展開した。
瞬時に左右に浮かび上がる白銀色の光のサークル。
ガシィィィィーーン!
二匹の狼はそれに遮られ、ターゲットに辿り着けず、剥いた牙をガチガチ鳴らした。
……だから、超こわいっていってんだろ!
「五式無反動砲”
続けて俺は次の技名を叫んだ!
ズバァァァァァァーーーーーー!
「ぎゃぁぁぁーーーーー!」
瞬時に銀円光のサークルがキャンセルされ、光の塵になって霧散する、そして、解放された左右二匹の狼が俺の喉笛にたどり着く直前に、間髪置かず新たに展開された二本の光の槍が、どう猛なる者達を貫いていた。
「きっ貴様ーーー!」
今度は怒りに狂う巨人が、無防備な俺の頭を目がけて巨大な右拳を振り下ろす!
防御は間に合わない!ならっ!
「三式百五十番”
俺は、ほぼ同時に、白銀色に輝く右腕の武装兵器を振りかぶり、巨人の腹に打撃を放つ!
そうだ、俺は無防備な自身の頭に対応すること無く、その技を繰り出していた。
ああ、やってやるよ!トコトンだろ!
瞬間、俺と巨人の間に先程までとは違う、一回り小さい青色光のサークルが展開される。
俺はそれを突き破るように、渾身の右ストレートを放っていた。
ドゴォォォォォーーーーーーーーーーン!!
瞬きの何分の一程の差で、俺の武装兵器の一撃が炸裂する。
青色光のサークルを貫いた拳は光を纏った一撃となり、そのまま巨人の屈強な腹筋に突き刺さった。
「ぐふぉぉおおおおーーー」
人間のそれとは明らかに一線を画くする重厚な腹筋、巨士族の鋼鉄の体は、ミサイルの直撃でさえ貫けぬ……そう揶揄されるほどの肉体を分断する俺の武装兵器”三式百五十番”
巨士族の英雄、不沈の巨人ベルトラム・ベレンキは二つになり、弾け飛んだ。
プシューーーー
一撃を放った右腕の武装兵器、その表面装甲から蒸気の様な湯気が激しく噴き出す。
威力を飛躍的に増強する加速フィールドを打ち抜く突貫打撃、三式百五十番”
俺は使用不能になった右の武装兵器を確認するように見ると、左手で右の武装兵器の肘の辺りにある出っ張りを引き抜いた。
ガコンッ、カラララー
乾いた音を立てて、長方形のカートリッジのようなモノが姿を現す。
銃の弾倉のようなそれを逆さにするとカランカランと小粒の石が複数個、地面に落ちた。
空になったカートリッジをポケットに入れ、同じポケットから別のカートリッジを出して元の場所に装填する。
「あと一戦くらいは持ちそうだな」
俺はそう言って、苦虫を噛みつぶしたような顔で
辺りには全滅した、第八特殊処理部隊、通称”アハト・デア・ゾーリンゲン”の兵士達が骸を曝している。
「ドクトーレ、これでもおもちゃだと?」
ここに来て、俺は皮肉たっぷりに言い返すのだった。
「曲がりなりにも、この世紀の天才、ヘルベルト・ギレの門下であった者が、その体たらくか!」
「!」
この状況に、流石の天才博士もすっかり意気消沈かと思いこんでいた俺は、思いもよらないかつての師の一喝に言葉を失う。
どういうことだ?なんであんなに怒ってるんだ……戦況が悪いから?いや、なんだか違うような気がする……まさか俺の兵器というか行動に不満が?いや、それは……
俺が若干混乱している間に、ヘルベルト・ギレは無数のしわが刻まれた眉間に深い溝を落として俺を睨み付けながら胸に装着していた軍用無線に命令を出していた。
「あれをここに!至急だ!……ん?……なんだと!かまわん!……却下する、命令だ!」
無線の向こうで何か反論する相手を無視して老人は乱暴に指示を出しているようだ。
なんなんだ一体?昔からちょっと、いや、大分変わった人だったが……
ギレはギロリと老人らしからぬ鋭い視線を再び俺に向けた。
「!」
俺は思わずビクリと姿勢を正す。
恥ずかしながら、まだ昔のクセが抜けていないようだ。
「
そう言ってかつての師、ヘルベルト・ギレは、敵味方とは思えないくらいに無邪気に笑った。
「芸術……創造、研究が?」
俺は老人の言葉を繰り返す。
「そうだ、なにも研究成果たる兵器や技術だけに留まらない、人間の行動、つまり大きく括れば、人生そのものをどう行動するか、理に適った計画性のある存在そのものが結果を凌駕する芸術なのだ!」
熱弁を展開するかつての師には申し訳ないが、俺にはさっぱりだ。
「解らないかね?そうか、それもまた良きかな……
俺は黙ったまま、しかし油断無く老人を見る。
「ふふふ、あれだよ……
「あれ……?」
俺はヘルベルト・ギレの言葉を戯れ言と無視できない。
それは……
「
離れて成り行きを見ていた、竜の美姫の濡れ羽色の瞳が、嫌悪で鈍く光り、心配そうに呟いた。
「なにを?……」
俺が老人にそう言いかけたときだった。
ガガガガーーーーー!!
大地を揺らし、巨大な鉄の塊、超大型の車両が轟音と共に突っ込んで来る!
公園内の植え込みを破壊し、若木をなぎ倒し、ブルドーザーもあわやという動作で一直線にターゲットである俺を目指して!
「勘弁してくれよ……」
電車の車両を楽々運べそうな大型の軍用トレーラーは、巨大な弾丸となって俺に迫る。
「
……今度はもつか?
俺は心の中で自身に問いかける。
ギュララーーギギギギーーーーーー!
速度を全く落とさず、俺の背丈より高く図太い片側四本タイヤを削って急ハンドルをきる鉄の凶器!
ゴムの焦げたにおいを立ちこめながら、それは俺の直ぐ目の前にまで達していた!
「三式百五十番”
ヴゥゥゥーーン!
トレーラーが俺を圧殺しようとした瞬間、俺と大型車両の間に青色光のサークルが展開された。
敵の巨人を屠った技が再現される。
子猫と巨象程の差があろうかという相手に、俺は右腕を振りかぶる。
ーードゴォォォォォーーーーーーーーーーン!!
青色光のサークル、”加速フィールド”を突き破り、俺の拳が巨大な敵に炸裂していた!
ビリビリと鼓膜を引き裂くような強烈な衝突音が波となって周囲に広がる。
ドガシャァァーーーーーンーー!!
その瞬間に物理の法則は崩壊した。
巨大トレーラーの運転席部分は、縮んだアコーディオンのように半分の長さに
ーー
ー
「ちょ、ちょっと……何なの、それ……」
流石の
「ありえない……ありえない……ありえないんだから!」
「……」
そして唯一人、冷静にそれを見ていた
「まだよ……まだこれから……」
警戒心の全く薄れていないトーンに、二人は彼女の方を見た。
今度は何とか持ってくれたか……しかし
俺は右腕の武装兵器の状態を確認した後、横転したトレーラーを厳しい目で見ていた。
ドーーーン!
ーードドーーーン!
先程に劣らない衝突音がトレーラーのコンテナ内から響く。
メキッ、メリメリッ
「なに!あれは!」
メリメリッ、メキキッ!
鉄製のコンテナは内側から、所々熱せられた餅の様に膨らみ、亀裂が入っていく。
分厚い金属壁がまるで飴のように容易く変形していくのだ。
「
その現象を注視する俺には、心当たりがあった。
もしそうだとすると、この状況で、この時に、最悪の心当たりだが、俺には確かにあるのだ。
ガコーーーン!
「!」
コンテナ内部から外壁を吹き飛ばし、突如そそり立つ鉄柱。
いや、一見、一本の鉄柱に見えた巨大なそれは、頂点に四本の鉤爪を掲げる蛇腹状の強大な鋼鉄の腕。
ガシィィィィーーン!
天を支える柱のように、そそり立っていた鋼鉄の腕は、見るからに強固な金属製であるにも関わらず、蛇腹状の特性を生かした柔軟な動きで、アーチを描いて大地に鋭利な鉤爪を突き立てた。
ドドーーン!
アーチが固定された衝撃で巻き上がる砂煙と揺れる大地。
ガシィィィィーーン!
ドドーーン!
続いてもう一本の腕が出現したかと思うと同様の動作を繰り返す。
「……」
コンテナ内部から、地面に連結する二本の強大な腕、俺はそれを為す術無く見上げていた。
ーーゴゴゴゴゴゴゴッ!
そして、地の底からでも響いてくるような重低音と共に、ゆっくりとそれが姿を現す。
二本の巨大な腕を支点に、コンテナ内からせり上がってくる忌まわしい鉄塊。
ーープシューーーーーシューーー !
内部の複数箇所から、空気圧をはき出す鉄の巨人。
その表面は、深淵に潜む泥のように淀んだ鉛色。
その風貌は、唯唯、貪欲な大食漢の魔王。
首無しの鉄騎士、無骨な鉄塊。
殺戮の限りを体現するであろう両腕は、直立していても地面に到達するほど。
鈍く光る強靱な四本の鉤爪を携え。
胴体の前面を殆ど占める巨大な鉄の顎は、鋼の虎の所以である。
「完成……したのか、本当にこんなモノが……」
それを知る俺の表情は、恐怖に引きつる……ちがうな……これはちがう……過度の興奮……それは恐怖から来るものばかりでは無い……だって……
俺は見上げたまま、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
……だって、俺の口角は、確かにあがっているのだから……
「
「…………」
ヘルベルト・ギレの得意満面な言葉にも、俺は満足な反応が出来ずに、ただそれを見上げて立ち尽くしていた。
ギレは頭を左右に振って俺に再度語りかけていた。
「だから……言ったのだ……おもちゃだと」
第七話「初陣Ⅱ」END
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