第4話「黄金竜姫Ⅱ」
第四話「
そこには、少し垂れ目気味の瞳と艶やかな唇が特徴の目鼻立ちのハッキリとした美人。
薄い茶色のカールされた髪をトップで纏め、サイドに垂らしたポニーテールの快活そうな美人が、美しく長い黒髪の美少女をにこやかに睨んで立っていた。
「力尽く?面白いわ、相手になるわよ、竜のお姫様!」
彼女は、そう言うと艶やかな唇の端を上げ、不適な笑みを浮かべる。
「……」
変わらない?いや、滅茶苦茶怖いんですけど……
微笑むポニーテールの少女と無表情な黒髪の少女。
一見、特に問題なさそうなシチュエーションだが、張り詰めた空気がそれを真っ向から否定している。
「お嬢様!あれが、先程報告致しました女です」
「随分なものね……三年前に、彼を一族から追放しただけでは飽き足らず、今度は、こんな田舎まで追いかけてきて、その居場所まで奪おうって言うの!」
「
ポニーテールの少女のその言葉の内容に、俺は即座に窘める。
「本当の事でしょ?」
当の
「……名を聞いておこうかしら」
「おい、
静かにヒートアップしていく空気に、俺はたまらず割って入っていた。
「行き違いではないわ、
しかし、
おいおい……勘弁してくれ。
「ふっ!」
ーーザザッ!
獣もあわやと言うような俊敏な動きでターゲット目掛けて駆ける
ーーザッ、ーーザザッ、ーーザッ!
肉眼で捕らえることの限界を超えた速度で跳ねる体は、ほぼ視認することが出来ない。
「はやっ、速すぎる、何これ!」
主の援護射撃を準備していたであろう
俺は幾多の強敵を屠ってきた、
「ふっ!」
ーーガシィィィ!ーーー
ほぼ捉えることの出来ない程の速度から放たれる、何らかの攻撃!
「!」
何かを打撃する衝突音が響いたかと思うと、その姿を、二、三メートル程の空中に再現させるポニーテールの少女。
先ほどまでの動きとは一転、ゆっくりと宙に舞う
そして、象徴とも言えるポニーテールを揺らせてターゲットを見据える彼女は、一瞬少し驚いた表情を見せた後、ニヤリと艶やかな唇の端を上げた。
まぁ、いくつか推測はできるけどな……
対照的に、見目麗しき竜の姫は、全く動じぬ姿でそこに立っていた。
艶のある美しく長い黒髪が一本たりとも乱れず、高貴さと清楚さを兼ね備えた比類ない容姿のまま佇む美少女。
ただ、澄んだ濡れ羽色の瞳の波間に時折ゆれるように顕現する黄金鏡の煌めきが、僅かにその黄金色の濃度を増している様であった。
先ほどまでと僅かに違うのは、白い繊細な右手を前面に翳すようなポーズをとっていることのみだ。
「
俺は思わずそう叫んでいた。
「……へぇ……そんなこと出来るんだ、
目にもとまらぬ速度で攻撃を仕掛けた
「……
自らの敵に値する相手だと認めたって事か……
もう、中途半端な決着は
俺は頭を抱える。
「
「
俺の気苦労も、
「久しぶりに面白そうじゃない」
呟いた
「ちっ!」
不味い!それを始めたら本当に後戻りできないぞ、
ーードサッドサッ
公園の石畳に、百万円単位で束ねられた札束が無造作に放り出され、ばらけた何枚かの一万円札が宙に舞う。
俺はそんなモノにはお構いなしで、アタッシュケースの内側の底部分を勢いよく剥がす。
ーーベリリィィー!
「に、二重底!」
「よし、これで……」
そこから何か
「
目を閉じて何か仕掛けようとしていた
ーーザシュゥゥゥ!
「!」
後ろへ飛び退いて、それの
「……」
距離を取り、油断無く
そして、チラリと俺の方を確認する。
俺はというと、情けないことに、
「くっ、
右手を後ろ手に極められ、顔を地面に押しつけられながら、俺は必死に弁明する。
俺を組み伏せた
「……」
「お嬢様はそれを望まれていない、
「しょ、正気か、こんな争い……とにかく一度話し合いを…ぐっ!」
何とか二人の争いを回避しようと説得する俺の腕をひねり上げる、目つきの悪い少女。
「……人質、っていうわけじゃ無いみたいね」
様子を確認した
「今は
整った美しい少女の容姿と対照的に、発せられる威圧感が桁違いだった。
「部外者?」
いや、殺気の籠もったともいえる垂れ目がちの瞳は、怖じ気づくどころか寧ろ
「……続けるのでしょう?」
今度は
恐らく、彼女が今まで感じたことの無い感情を覚えていたに違いない。
「……」
再び目を閉じ、何かに集中する
くっ!
俺は
ーー数秒後、その瞳を静かに開く。
ポニーテールの少女の肌はうっすらと朱に染まり、程なく全身に梵字のような黒い模様が浮かび上がっていた。
「
俺を押さえながら、同様に様子を伺っていた
そう、それは
上級士族がもつ能力、それの根源たる”証”は、種族別に様々である。
しかし、今、目の前で
「……
呆気に取られる
「
この国の上級士族の中でも最強を誇る十二の士族家。
その中でも滅多に現れる事の無い、最高の能力の持ち主。
その対象が男なら”
その対象が女なら”
人々は敬意を込めてこう呼んでいた。
「……」
ーーバシュッーーーーーー!
大気を引き裂く破裂音と共に、衝撃波が放たれる。
「ふっ!」
ーーザザッ!
刹那、
そして、その直後、大地をとらえていた彼女の両足があった地点に遅れて砂塵が上がり、その上を衝撃波が通り過ぎる。
ーーバシュッーー!、バシュッーー!、バシュッーー!
構わず
ーーザッ! ザザッ! ザッ!
しかしそれは文字通り虚空を引き裂く空砲となり、それどころか、おそらくは距離を詰められて、次第に追い込まれていくのは、竜の姫の
鬼の
”
そうして、
ーーズザァァァァァーーーーー!
雨あられと放たれた、
「
ーーガシィィィィィィーーーーーン!
鬼の
打撃を伝える、
”
鬼の能力、その
鋼鉄をも容易く粉砕する打撃技、それは真に伝家の宝刀に他ならない。
ーー!
「?なっ!」
しかし、驚きの声をあげたのは、またもや
鬼の姫は後方に大きく飛び退いて下がる。
ーーザッ! ザザッ! ザッ!
その神速で、ジグザクに移動しながらさらに距離を取っていく。
ーー
やがて辺りは一時的に静寂を取り戻していた。
艶のある美しく長い黒髪、透き通った透明感のある肌と整った輪郭。
可憐で気品のある桜色の唇。
高貴さと清楚さを兼ね備えた比類ない容姿の少女。
凄まじい攻撃を受けたはずの少女が、何も変わらぬ状態で、そこに存在する。
いや、違う!彼女の澄んだ濡れ羽色の瞳が、輝くばかりの黄金色に変貌し、神神しい光を孕んでいた。
第四話「
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