No.7 男の娘ドール
ガラス越しに目が合ったのは、チェーンのリサイクル・ショップだったね。
探してたのは、お姫様みたいなお人形さん。
それなのにキミはボクから目が離せなくなった。
ガラス棚の下のほうで、暗い色の服を着て、男の子ドールの中でも目つきの鋭いタイプのボクは、キミの好みとは違ってた。
同じ棚の、もっと目立つ場所には、有名な高級メーカーの少女。
それでもボクの瞳はキミを吸い寄せた。
キミは困惑して、その日はそのまま立ち去った。
次に来てくれたのは、二週間後だったね。
ボクは待っていたよ。
だって運命だもん。
それでもキミは慎重だったね。
店員を呼んで、同じ棚のドール全員とボクを丁寧に丁寧に見比べて。
やっぱり女の子がいいなとか、男の子でもあっちのほうが目がパッチリしているなとか、考えに考えてた。
だけどやっぱりボクを選んだ。
そうじゃないと、後悔するから。
家に帰って最初にキミは、ボクの靴下を作ってくれた。
ボクは服は着ていたけれど、靴下はなかったんだ。
キミの部屋には六分の一ドール(リカちゃん人形のサイズ)はたくさんいたけど、三分の一ドールなんていう大きな人形はボクが初めてだった。
リカちゃんのドレス製作の本の型紙を拡大コピーして、初めて作った三分の一サイズの靴下は大成功だった。
もともとの、黒とグレーのワイルドなカットソーと、パンク系のハーフパンツに似合う、黒い靴下。
だけどここからは大変。
女の子の型紙ばっかりなのに、男の子の洋服作り。
胸囲やウエストだけじゃなく、手足のバランスとかも違うから、単純に型紙を大きくするだけじゃダメ。
キミは本の上に突っ伏して、自分がもともと、自分で作った服を着せるためのマネキンとしてドールを求めてたのを思い出した。
そうさ、キミはお裁縫がしたいだけだったんだ。
ねえキミ、あの時、選ばなかった女の子ドールのことを考えたよね?
スカートならすぐ作れるもんね。
だからボクは、心の中で「いいよ」って言ったんだ。
声に出したわけじゃないけど、ボクとキミは通じ合っているから、キミは引き出しを開けて、ボクのカットソーに合う色のハンカチを取り出して、ささっとウエストを縫い縮めてスカートにしてボクに履かせた。
似合ってたって、自分でも思うよ。
だってほら、ドールだからさ。
ちょっとぐらい目つきが鋭くっても、やっぱり可愛い顔なんだよ。
男の子でもさ。
それから毎日、キミはボクのハンカチスカートを履き替えさせた。
ピンクのガーゼ、白のレース。
フェミニンなのばかりだなと思ったら、いきなりドクロ柄なんて出してきたりしてね。
二重にしたり、プリーツをたたんだり。
どれも可愛かったよ。
うまく折って巻きつけたハンカチは、トップスとしても着られたね。
一週間後、キミは決意を固めた顔で、ボクの服をすべて脱がせた。
ボディが傷つかないように、包帯を巻いて保護した上に、印をつけてメジャーで計って。
ボディに紙を押し当てて体のラインを写したりして。
太ももやかかとが通る太さを確かめて、君はズボンの型紙を描き上げた。
そうしてボクは今、さわやかなチェックの長ズボンを履いている。
ベルト通しまで作り込まれた、初めてとは思えないほど良くできた長ズボン。
お気に入りだよ。
トップスも新しく作ってもらって、上品なお坊ちゃんって感じの格好だ。
スカートになっていたハンカチは、糸を抜かれてハンカチに戻った。
ねえキミ、ボクはこのズボン、ちゃんと気に入っているんだよ?
本当だよ?
だからキミが外から帰った時に、ハンカチが床に落ちていたからって、心配することないんだよ?
ただちょっと、クセになっちゃっただけなんだ。
ヘアゴムでウエストを押さえたら、縫わなくてもスカートとして履けるんだよ。
ねえ……キミはまだ……ドレスを作りたいって、思っていたりしないかな?
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