No.4 女装×男装=????
私立プロッサム女学院。
その名の通り、
事実上は男子校である。
だが、生まれ持った肉体が食い違うからこそ、真摯に彼等は女を装う。
そんな
「ふふ……なんて素敵なのかしら。俗に言うメチャシコでしてよ!」
校舎の五階にある生徒指導室から、窓の外に目を細めて笑う変質者。
シコるなにものも持ち合わせていない、この女教師の名は
生徒達が皆、
彼女は今日も、エロ画像を探す深夜のニートみたいな目で見ていた。
放課後の校庭で汗を流す、
「うっ、やばいですの……
言い忘れていたが、
説明の必要がない変態なのである。
だが、彼女はそれでも学年主任としての仕事を
今日もまた、お
「どうぞ、お入りになって」
いかにも
彼女の前に「失礼します」の声と共に、問題の生徒が入室してきた。
眼を見張る程の美形だ。
ショートカットに中性的な顔立ちは、ほっそりとして芸術的な目鼻立ちである。やや切れ長の
そして、
そう、これが彼女が……この女学院では女装する生徒を彼女と形容するが、どう見ても
名は、
「お呼びでしょうか、調布女史。嬉しいですよ、
「周防さん? 生徒同士がどう呼ぶかは、それは自主性に任せています。調布女史ですとか、蘭お姉様とか、女王様とか……でも、私は常に生徒の前では教師でしてよ?」
「……失礼しました、調布先生」
「よろしい。呼び出された理由はわかってますわね?」
爽やかな笑顔で悪びれず、環は「さてさて……?」と
クラクラするくらいの
蘭はその姿を、心のエロ画像フォルダに保存しつつ詰め寄る。
「我が校は、心と身体の不一致に悩む子供達の約束の地……それがなんですか! 制服はどうしたのです……
私立プロッサム女学院の制服は、それはもう
そして、男子が女装することで消したい男の
ブレザースタイルの上着にチェックのプリーツスカート、胸元のリボンに制帽……そのどれもが、目の前の環にはない。
「女装する必要がないならば、この学校に来る必要はなくてよ? 周防さん。ここには、ただただ女性として生まれたかった、そういう子達が居場所を求めて集まってますの」
「ええ、存じています。だから、ボクもここではボク自身でいられる」
「なら、どうしてそのような格好で振る舞うのです! 校則違反ですわっ!」
だが、悪びれぬ笑顔で環は詰め寄ってきた。
見上げる近さで、蘭は思わずドキリとして身を引く。
窓辺でいわゆる壁ドンの状態に持ち込まれ、
「調布先生、ボク……ちゃんと女装してますよ? それに、ボクは間違いなく心が女なんです。ここでの暮らしを知ったら、もう男ではいられない。そして、男をやらなくてもいい生き方をさがしてるんです」
「で、では、どうして……詳細キボンヌ、じゃなくて! ……何故?」
「この格好ですか? これはちゃんと女装です……
「……はぁ?」
オスカル的なアレか、セーラーウラヌスなのか!?
そういうやつなのかと思ったが、その前例を即座に脳裏に並べる程度には、蘭はオタクだった。それも、ちょっと
だから、ついつい環に向かって背伸びし身を乗り出す。
「お前は……お前はっ、
ここで
女体化島風くんとは、大人気ゲーム『艦隊これくしょん』の二次創作におけるジャンル、というか、薄い本がアツくなる中で生み出されたオタクの
帝国海軍最速の
しかし、その体型や可愛らしさ、そしてゲーム内の言動から「もしや島風は男の娘なのでは」とファン達が考え出したのが、島風のコスプレをする男の娘……通称『島風くん』である。
そして、その島風くんを
あまりよくわかってもらえないと思う。
実際、書いてる俺も訳がわからない。
だが、そういうものがある……世界は広い。
「えっと、調布先生……その、女体化? 島風、くん、というのは……?」
「い、いいえっ、いいわ! 忘れて
「ああ、そのことですか」
クスリと笑う環は、本当に王子様のようだ。
鼻息も荒くつんのめっていた蘭は、慌てて環から離れる。
「ボク、かわいいものが好きなんです。それに、綺麗なもの、美しいものも」
「答えになってなくてよ?」
「先生、この世で最もかわいいもの、最も綺麗で美しいはなんだと思いますか?」
さらりとそんなことを言ってのける環。
思わず蘭は、そんな照れますわ……などと場違いな上に勘違いな
他に比べる女性が存在しないから、この女学院では皆に慕われ
それも計画的で、この女学院に赴任した目的の一つであった。
そんな蘭のことなどいざしらず、環は白い歯を見せて笑う。
「それはね、先生……恋する乙女なんですよ。そして、恋する乙女に性別なんて関係ない……恋に恋する少女であっても、そうあれと努力する少年であっても、恋する乙女は美しい」
「
「ボクはだから、この女学院の誰もが憧れてくれる王子様をやってるんです。皆に恋してもらって、綺麗になってほしい……その
蘭は自分のことを
やっべ、変態キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! と。
だが、実際には自分の願望を隠さず堂々としてる分、環の方が健全と言えるだろう。
「先生……ボクは男装の麗人をやってるけど、それは『男装の麗人へと女装してる』というもので、ボクなりに気をつけているんです。それに……ボクも恋する乙女だから」
「そ、そうかしら! その格好、どう見たって……って、ちょ、ちょっと! なに脱いでますの! おやめなさいな、理性が……ちょ、おま!」
突然、環が学ランを脱いだ。
その下のシャツも脱ぎ捨てる。
すると、きめ
意外や意外、環はさりげないレースが散りばめた色気のあるブラジャーをしていた。
下のズボンも脱ぐと、上下揃いのショーツも似合っている。
ささやかな股間の膨らみに、思わず蘭は心のプリントスクリーンボタンを
「って、下着が意外に派手っ! ……ま、まあ、校則は下着までは明記されては……」
「どうですか? 先生……調布先生だから……蘭先生だから、見せるんですよ?」
「え、あ、ちょっと」
「いいですよね? ボクのことも、環って呼んでください。ふふ、男装した女性へと女装すれば、みんな喜んでくれる……ボクに向かって、咲いてくれるんです。大輪の花となって」
それに、と環は言葉を切って頬を赤らめる。
その表情は、鋭い
完璧に刺さった。
「それに、蘭先生とここでいつも二人きりになれるから」
「お、おう……えっと、あ、うーん……と、ととっ、とりあえずっ! 周防さん!」
「環って、呼んでください。でないと……ボク、大声で泣き叫びますよ? 職員室から先生達が飛んでくるかも」
「ア、ハイ。じゃ、じゃあ……環さん」
「はい、蘭先生。なんでも言ってください……貴女の声が聴きたいし、貴女が震わせる空気に包まれていたいんです」
「……ちょ、ちょっと下着が派手じゃないかしら。これ、
白い環の肌に、漆黒の薄布が映える。
モノクロームの魅惑的なそれは、レースの中に
だが、その蝶の
ついつい股間を凝視してしまって、慌てて蘭は
そんなことをしていると、環は優しく笑って背を抱いてきた。
「蘭先生もジャスコ、行くんですか? ボクも時々……この辺は
「そっ、そそ、そう! それは、よかった、わね……彼氏なんて……私なんか」
「あ、そうだ。先生、はいてみます? La Perla……シルクの肌触りが最高なんですよ。
抱きすくめられて、環の声を耳元に感じていた。
その呼気がうなじを撫でて、蘭はパニックになりそうだった。
だが、環の体温が離れてしまい、慌てて振り返る。
そして「グハッ!」とオタク丸出しな驚きの声をあげて、再度後ろを向いた。
環はとうとう下着も脱いで、全裸になっていたのだ。
「先生にも似合うと思うな……あ、今度よかったら一緒に買物に行きませんか? 勿論、ジャスコじゃなくて……ボク達二人を知ってる人がいない場所で」
「ふっ、ふふ、不潔だわ! 不純よ! 教師と生徒よ? 萌え死ぬわっ! じゃなくて、ええと、その……」
「ボク、見てみたいな……先生みたいな女性にこそ、こういう下着は似合うと思うから。それに……いつか、恋してる蘭先生を見たい。それはとてもかわいくて、綺麗で美しいと思うから」
無邪気に笑う環が、ついさっき脱いだ下着を差し出してくる。
肩越しに振り向き、その裸体を盗み見ては蘭は追い詰められた。
それでも
それが、彼女なりのイェスの返事で、環の一番の笑顔が受け止めてくれたのだった。
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