第2話 ある日の入学式 その2

この俺、嘉本三烈よしものみれつは正門を入り、校庭と体育館の入り口の横を通ると目の前に見える校舎を見上げた。


 ここは、三年間通う場所であり野球という部活を精一杯やる場所。

 野球部の先輩はどんな人なんだろうか、担任の先生、クラスの人たちはどんなんだろうと、考えながら昇降口の方へ向かう。


 昇降口の前に着きバックから上履きを取りだそうとしたとき。突然、俺のことを「みっちゃん」と呼ぶ声が聞こえた。


聞いたことがあるというか久々に聞いたというか、小学校の卒業式ぶりに聞いたというか、その声は小学生の時によく聞いていた声だ。


 昇降口から二歩下がり首を上に曲げ校舎全体を見た。多分教室らへん。その中の一つの窓から身を乗り出して手を振っている少女と目が合った。


「みっちゃーん」


「うるさい。みっちゃん言うな!」


 みっちゃんと呼んでくる人物に向かって思いっきり叫ぶ。


 少女の名前は白菊多恵しらぎくたえ

 俺のことを「みっちゃん」と呼んでくる。俺はそう呼ばれるのを好まず注意するがいつまでも直してくれない。


「えー、みっちゃんと私の仲じゃん」


「いやいや、愛称を直せと言ったのに直さないやつに仲じゃんと言われてもね」


「まあ、酷い。四年間も一緒だったのにそんなことを言うなんて」


「チームメイトで同じクラスだっただけだろうが、なんだその言い方は」


「あ、そうだ……」


 白菊は何かを思い出したかのように話題を変えた。


「あ……まって何だっけ」


 おい、自分から話題出そうとしといて忘れんな。


「しっかりしろよ、ばあさん」

 

「ばあさんじゃない! おばあちゃんと呼べ!」


「突っ込むとこそこ!? ……忘れたんだったら行くぞ」 


「まってまって、えーと」 


 白菊は右手で頭をポンポン叩き考え始める。少し経つと「あっ!」っと言って思い出した。


「みっちゃんと私。二組で同じクラスだったよ」


「は!? またかよ」


 小学生の時と合わせて五回連続だぞ。南海同じクラスになるつもりだよ。


「やっぱ、みっちゃんと私は赤い糸で――」


「結ばれてません」


 話を強制的に区切り、昇降口の中に入る。上履きを履き廊下に貼り廻られているクラス表を見た。


一応、一応ね。


 二組に書いてある名前を上から順にみた。

 まあ、結局「よ」だから一番下なんだけどね。

 出席番号十二番の所に白菊多恵と書いてある。


「あ、本当にあいつ二組だ。うわ、本当に俺も二組だわ」


 また、騒がしくなるじゃん。……他に知ってるやつはいないかな?

 そう思いながら一組から順に見ていく。


「お昼の奴は一組か……それよりもあいつ今日来るのか?」


 そう思いながら出席番号十二番までしか見てなかった二組に再び目を向ける。


 ……どんっ。


 何かが横からぶつかった。

 なんだと思って一歩後ろに下がって、ぶつかったものをみた。そこには一四〇センチぐらいの少女がいた。


 ちっさ! いや、一〇センチくらいしか違わないが周りが一五〇センチ近くで一四〇センチは小さく感じる。


「えっと……ごめん」


 そう言うと、少女は助けを呼ぶかのように首を左右に振り、目も泳いでいる。


「大丈夫?」


 心配するように聞くと少女は思いっきり謝るように顔をさげてきた。

 少女は頭を上げると顔を合わせないまま俺の横を通って廊下を走っていった。

 ……一切声が聞こえなかった。


「うーん、なんか言ってくれても良かったのにな」


 そう一人で呟いていると「お前が怖くて逃げたんじゃね」と下駄箱の方から笑い声交じりに聞こえた。


「あん?」と答えながら下駄箱の方を見るとそこには気に食わない知っている人物がいた。


「げ! ……お前も同じ学校かよ」

 





~この日の自己紹介~

 

 名前・嘉本三烈よしもとみれつ

 出席番号31番

 クラス・1年2組

 誕生日・5月20日

 身長・160センチ

 好きな食べ物・レバー

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