第3法 阿鼻叫喚と共々に

 一時間目の小休止で質問攻めを食らって面食らった彩翔は、時間割りの一通りを疲労感漂わせながら過ごした。そして、今日のメインイベントと言えるものは――放課後に友人に校内を案内してもらうこと。


「ここが図書館だね」


 放課後を利用して彩翔はハクトに校内を案内してもらっていた。ここはどこの施設も広く、天井も高い。一度入り込むと抜け出すことの出来ない迷宮のようだ。


 今回の案内で特に気になったものは食堂。びっしりしていなく、間隔が広めでなおかつ席の多いところには圧巻せざるを得ない。

 因みに、食堂、食料などの支出などもブルーパスで行われる。この辺の科学技術は本当に彩翔も感心していた。


「次は運動場だね。運動場はクラブが多いから外と中に両方整備されてるよ。どっちから行く?」

「外の運動場でお願いする」

「りょうかーい」


 ハクトは軽い足取りで彩翔を先導する。

 するとハクトはくるりと後ろに振り向き彩翔に尋ねる。

 

「そういえば彩翔は、何でこの学校に来たの?他にも一杯良いところがあるじゃないか」


 ――じぃに頼まれた。そんな安直な言葉で良いのだろうか?仮にも転入生。その事も考えれば家の事情と偽るべきだろう。


「親が……親が少し他国に行っていてね。やむを得ず着いていってたんだ。家の両親は家庭能力が乏しいから」

「そうなんだ!僕の両親も家事が苦手でね。分かるよ、その行動」

「ありがと」


 会話が終わり運動場に向かう。そこでは三者一様、十人十色の生徒達がそれぞれスポーツに熱狂していた。

 

 ふと目を向けていると、陸上をしている雛と目があった。雛はおろしている長い金髪を陸上用にか一つに括っている。その姿は遠目から見ても美しいもので、悔しいながらも彩翔は見とれてしまう。


 一方の雛は、彩翔を愚昧に見ながら考えた。


(何をしているのかしら?)


 と怪しむ様子で彩翔を見ていたが、やはりすぐに練習に戻った。まだまだ、興味が湧かないからだろう。


「お、さすが彩翔だね、お目が高いよ。よく速攻で舞姫さんを見つけるなんて」

「ああ、すごく速かったからな」


 後で聞いた話だが、実際とても速く、陸上部のエースだそうだ。この辺りは、まさに文武両道といえる。


「あら、もしかして君が噂の彩翔クン?」


 二人で談笑していると見知らぬ少女がやって来た。少女の外見は明るい茶髪のショートカットでブラウスから窮屈そうにしている大きめの胸が特徴だ。


「そうですけど……誰ですか?」

「私、新聞部で活動してる火旋かせん水蓮すいれんよ。一応同じクラスだから挨拶をね」


 同じクラスだというのに、と彩翔は申し訳なさげに謝った。


「それは火旋さん、すみません……」 

「いいわよ、まだ来たばかりでしょうし。因みに近江クンとはどんな関係なの?」


 多少の幼さを孕んだ笑みに反芻し彩翔は焦った。女子の間で高い人気を誇っているらしいハクト。そんなハクトと転入初日から一緒に行動していては女子からの反感や妬みが多いのかもしれない。


「あ、別に近江クンのファンって訳でもないから安心してね」

「そうなんだ。俺とハクトは今日からの仲で特にないから大丈夫だよ」

「そっかー。じゃあまたね!」


 結局水蓮は挨拶を交わしただけで寮に帰っていった。


「僕たちもそろそろ帰ろうか。夜も遅くなってきたしね」

「ああ、今日は助かったよ。また明日な」


 二人ともそれぞれの帰路に還った。


 ††† ††† †††


 ――寮生活の高校生にとって、一番苦しく、かつやる気がでない行事がいくつかある。

 その中でも凸するものの一つに、荷物整理となるものがある。


「あぁー、面倒だ。やる気がでん」


 この長ったらしい作業。時間を進めてもその場所にあるのは作業。


 彩翔は長い夜を過ごすのであった。


 ††† ††† †††

 

 朝のホームルームが始まった。彩翔は残念ながら朝に弱いもので一時間目はなかなか授業に対してのモチベーションがでない。


「みんな……結月以外は知っていると思うが来月に行われる実技戦のタッグの発表を行う。みな、静かに、ジェスチャーのみで頼むぞ」


 彩翔は目を擦った。現実なのか、と――

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