年貢の納め時
県警が焼却炉の無許可設置でヤマジの検挙に乗り出した。焼却炉の内径が届出の図面よりも大きいという問題は環境事務所の検査でも把握していた。そのデータが県警に漏れていた。庄野麗子、ヤマジの名義上の社長になっている庄野鶫、庄野麗子の内縁の夫で不法投棄の前科のある西清、西の連れ子の西一成が、次々と県警に呼び出された。四人とも巽興業のとばっちりで検挙されたことは知らなかった。庄野麗子と西一成は嫌疑不十分として釈放された。西清と庄野鶫には逮捕状が出て、そのまま拘留された。釈放された庄野が伊刈に電話してきた。
「あたしと西は逮捕されてもいいの。嫁入り前の娘は何も知らないの。娘だけは助けて。お願いしますよ」庄野は電話口で涙ながらに訴えた。
「名義上の社長なのでどうしても捜査対象にはならざるを得ませんよ」
「有罪になるの?」
「名前だけの社長で焼却炉のことは何も知らなかったとがんばれれば大丈夫かもしれないです」
「どうやってがんばればいいの?」
「弁護士さんに頼むしかないですね。逮捕された以上弁護士さんしか接見できないですよ」
「わかった。いい先生をつけるわ。誰か知ってたら紹介してちょうだい」
「ヤメケンさんがいいんじゃないですか」
「元検事の弁護士さんね。たとえば誰がいい」
伊刈は何人か心当たりの弁護士の名前を言った。「でも私から紹介するわけにはいきませんよ」
「わかった。ありがとう」庄野麗子は素直だった。「それから一成がおかしいのよ」
「どういうことですか」
「焼却場に火をつけて全部燃やしてやるとかってやけになってるのよ。そんなこと言う子じゃなかったんだけど自分だけ釈放されたことでかえって動揺してるみたいなの。どうしたらいいの。八方塞がりで、あたしもう死にたいわ」
「もしかして一成さんはお嬢さんと付き合ってるんじゃないですか」
「そんなはずないわ。血はつながってないけど子供の頃から兄妹みたいなものでしょう」
「それじゃどうしてお嬢さんが逮捕されたことでやけになるんですか」
「それはわからないけど」
「こっちも現場の様子は注意して見てみますよ。たとえ自分の会社が積上げた木くずでも放火したら罪になりますよ」
「そうよねえ」
西清が自分一人の判断で焼却炉を大きくしてくれとメーカーに頼んだと自白したこともあり、ヤマジの名義上の社長にすぎなかった庄野鶫は不起訴となって釈放された。その翌朝、鶫と一成は海岸に停めた車の中で心中未遂事件を起こした。やはり二人には特別の関係があったようだった。二人とも軽度の一酸化炭素中毒で入院した。幸い障害も残らずに回復した。西清は一回だけの公判で罰金刑が確定し即日支払って釈放された。処分場に戻ってみると焼却炉が消えてなくなっていた。西清が収監されている間に庄野麗子がスクラップ屋に売ってしまったのだ。材木問屋の一人娘として庄野麗子が親から受け継いだ財産は産廃のせいで、あるいは西清のせいですべてなくなってしまった。
産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 8 残党狩り 石渡正佳 @i-method
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます