大物と大手
事務所に帰ってすぐにコーユー笠原店の休業に伴う廃棄物がどこに委託されたかを調べた。
「廃棄物処理を請け負ったのは巽興業でした。さすがコーユー、調査は迅速でした」担当した喜多が報告した。
「ほう、そこなら県連の役員じゃねえか」大手スーパーチェーンが関与しているとあってか仙道も調査の行方に興味津々の様子だった。
「まさか役員をやるくらいの会社があんなおそまつな不法投棄をやったとは思われませんが」伊刈の口ぶりは用意周到な不法投棄なら産廃連盟理事の会社だってやると言いたげに聞こえた。
「そらそうだ。自分でやるようなバカじゃないだろうな。巽の本社はパチンコ屋だよ。そう言えばおまえならわかるだろう。いろいろ裏があるめんどうな会社だけどよ、とにかく呼び出せ」長嶋がぞんざいな口調で言った。
「わかりました」
巽興業の辻専務がその日のうちにかけてつけてきて弁明した。「確かにうちが笠原店の閉店時の内装ばらしを請け負いました。うちの社長が知り合いの解体業者にうっかり頼んでしまったようでして。そのゴミが不正なダンプに積まれてしまったようでございます。現地に置かれていたものは当社で回収の手配をいたしました」
「え、もうですか」手際のよさに伊刈もあきれた。警察なら証拠隠滅になるからダメだというところだったが行政に証拠保全を命ずる権限はなかった。
「経過をもう少し詳しく説明していただけませんか」
「清掃を頼んだだけで産廃の処理までは頼むつもりはなく当社の処分場に持ち込むように指示しておりました。間違って持ち帰ってしまったようでございます」
「それでやマジに運ばせたんですか。清掃をしたのはなんて会社ですか」
「坂木原(さかきばる)という個人の解体業者です。うちの社長と同郷だということでして。まさか無許可の焼き場だったとは。いやはやどうも市の許可があると聞いたものですからうっかりしてしまいました」
「なるほどそういう事情ですか。マニフェストは元請責任で切らないといけないでしょう」
「ほんとに恐縮至極でございます。あの何かほかに当社でご協力できることはございますでしょうか」
「調査はまだ始めたばかりですよ。法令違反が明らかなら行政処分もありますよ」
「それは承知しております。あのどのようにすれば」撤去すれば一件落着と高を括っていた辻は処分と聞いて冷や汗を浮かべた。産廃業者に対する行政処分は廃業を意味する。
「今日のところは巽興業が持ち込んだということがはっきり分かればいいですよ。片してしまったんなら顛末書を出してください」
「すぐにお出しいたします。どうか穏便なご処置をお願いいたします。それでそのなにとぞコーユーさんには内密に願えませんでしょうか」
「もう知っていますよ。そこから巽興業さんの連絡先を聞いたんですから。閉店しちゃったのでもうどうでもいいって感じでしたけどね」
「大手でございますからほかの店舗もございますので客先に迷惑をかけたくございませんので」
「つまりほかの店舗とも契約があるってことですか」
「さようでございます」
「あえて言いふらすことじゃないですからもうコーユーには電話しませんよ」
「ありがとうございます」辻専務は平身低頭で帰っていった。
「やけに低姿勢じゃねえか」辻専務が帰ったのを見ると仙道が伊刈を呼びつけた。
「そうでしたね」
「俺はあいつには因縁があるんだ。徹底的にやれ」
「どういうことですか」
「まだ県から産廃を引き継ぐ前のことだけどな、市内で医療系が投げられた現場があってよ、マスコミが騒いだんで県が代執行をやったんだよ。その時県が予算が足らないってんで俺も手伝って連盟役員の会社に十トンでも二十トンでもいいから無償で受けてくれねえかって頼んで回ったんだよ。どこもそれなりに引き受けてくれたんだけど巽興業だけはあの専務が無償ではだめだって断りやがったんだ。ふざけた会社だ。いいか今度のことは絶対許すな。巽を潰すまでやれ」
「それとこれとは別じゃ」江戸の敵を長崎で討つじゃあるまいしと伊刈は思った。
「無許可の焼却場に持ち込んだんだろう。当然許可取消しじゃねえのか」
「それは本課が判断することですし解体業者が間違って持って帰ったという辻専務の話もまるで根拠のないことじゃないと思います」
「嘘に決まってんだろう。間違って持って帰った? そんな話真に受けてんじゃねえだろうな。それにコーユーは巽興業にゴミの始末を頼んだんだろう。そのさかきばらとやらがよ、たとえ許可業者だとしたって再委託したことになんだろう」
「さかきばるですよ。社長と同郷って九州でしょうかねえ」
「社長なら海の向こうだよ。だいたいそのさかきばらってのもよダミーじゃねえのか」
「さかきばるですよ。とにかくまずは顛末書を持ってこさせてから裏をとります」
「どうせでたらめ書いてくるよ。とにかく徹底的に洗え」
「わかりました」
仙道はいつになく興奮していた。江戸の恨みをこの期に晴らそうという腹積もりのようだった。
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