第17話夏だ!!海だ!!水着だッッ!!ヒャッハ―ッ!!(合宿編 前半)
時間は緩やかに過ぎた。
学校に行き、部室で談笑、そして帰ってからはゲームとアニメ。
そのルーティーンの繰り返し。
特筆すべきことはここ二週間はなにも起こらなかった。
季節は徐々に夏へと移り変わってゆく。
帰宅部は居心地がよかった。よすぎて気持ち悪いくらいだった。
美少女4人とショタ1人。
彼らとの会話に俺はあまりにも馴染んだ。
まるでパズルのピースのように、事前に用意されていたみたいに、俺はそこにいた。
俺と安藤の濃密な絡みを見て、美少女たちは笑った。
俺は志水と平田さんのもどかしいやり取りを見て、ハラハラした。
そんなことにも慣れつつあった。
そして今日。待ちに待った合宿。
眼前には宿泊予定のホテル。
「予想以上に立派だな…」
「でしょでしょ。僕たち去年もここに泊ったんだ」
俺のぼそりとした独り言に、みちるさんが反応する。
「でも知ってますかぁ?ここってお化けが出るっていう噂があるんですよぉ」
「えっ。そうなの?」
π子さんの見事なフラグ建築発言に志水が驚く。
お前去年行ってるんだよな。その情報力の違いはなんだ。
「なんでもこのホテルで不倫相手と一緒に寝ているところを奥さんに見られて、刺殺された国会議員の怨霊が出るらしいですぅ」
「自業自得よね。それ」
平田さんが呆れて言い放つ。
たしかに自分が不倫しておいて他人を祟るというのは筋違いも甚だしいな。
「怖いよ。ダーリン」
「…」
俺はすりよってきた安藤を無言で避ける。
ゆるせ。お前とくっついてると他人の目が痛いんだ。
「まあ去年行った時はなんもなかったし平気だよ」
みちるさんがはにかんだ。
俺は女子たちとフロントで別れ、安藤と一緒に男子に割り当てられた部屋に向かう。
安藤と二人きり…か。
事が起こってしまいそうな状況だな…。お月さま送りにならなければいいが…。
「ダーリン♪二人きりですね♪」
「先に言っておこう安藤。部室みたいに安易にべたべたひっつくな」
安藤はきょとんとする。
「なんでですか?」
「勘違いされるだろ?他の人に。常識を持て常識を」
「ボクは…勘違いされてもいいですよ?」
「俺が嫌なんだ!」
部室ならいいさ部室なら。
カワイイ子にひっつかれる気分は捨てたもんじゃない。
だがしかし、公衆の面前でアレは羞恥プレイにも程がある。
俺は安藤が簡単に引き下がるとは到底思えなかったので、半ば祈りをこめた眼差しで凝視する。
「そう…ですか。そうですよね」
あれっ。すんなり引き下がった。
いつもなら「そういう設定なので無理です」とでもいうだろうに。
さすがに常識は理解できるのか。
…だんだんと安藤のドM属性が薄れてきている気がする。
出会ったばかりの時は何されても喜んでいたのが、最近はそうでもない。
これが学習というヤツだろうか。まったく、乙女心は難しいなあ(哲学)。
「ほら、さっさと荷物置いて行くぞ。遅れるとみちるさんに怒られちまう」
「はい」
俺たちはバッグから必要最低限のものだけを取り出して、早めに海水浴場に向かった。
ぬるい砂が足に付着して、ザラザラする。
えーと…パラソルの色は青と白…。あれかな。
海水浴場は大勢の人で賑わっていた。その中で自分たちのパラソルを見つけるというのは中々に骨が折れた。
パラソルの下には吉川先生が既に座っていて、ビールを飲んでいた。
「早いですね。先生」
「そりゃ一応監督者だからな」
俺は一定の距離を空けて先生の横に座り、そのまた横に安藤が座った。
美少女4人衆はまだ来ていない。
ナンパでもされてなきゃいいけど…可能性はあるな。
「どうだ?楽しみか?女子の水着ってのは」
吉川先生がいきなり返答に困る質問をしてくる。
この場合なんて答えるのがいいだろう。
素直に楽しみって言うべきか。それともクールぶって「別に…」と言うべきか。
普段の俺のキャラからしたら圧倒的に後者だが…。
「楽しみです。楽しみ以外の何者でもありません」
嘘はよくないよな。うん。
俺のこの言葉を聞いて、隣の安藤が少しむくれる。
「ははっ。正直ものだな、轍君は。先生嫌いじゃないぞ君のそういうところ」
「…ありがとうございます」
波の音と、蝉の鳴き声と、人間の言葉が混じる。
俺はこの海水浴場特有の音を聞くと、海に来たんだなと実感できた。
しかし頭が痛い。眠い。がんがんする。
昨晩は悪夢にうなされたせいで寝不足だ。内容は全然覚えていないが、気味の悪いものだったということだけは確かだ。
本当は今すぐにでも寝たかったが、先生が)隣にいる手前、一人ぐーぐーと寝るのも失礼かなと考える。
うつらうつらしながら美少女たちを待つ。
「お待たせ―」
やっと来たか…。
マ…マーベラス…!!!
目の前の美少女たちの水着姿を見て、眠気が秒で消え去る。
まさに目の保養。生きててよかった。
「あまりじろじろ見ないでよね」
「無理」
「なっ…バカ!」
「いてっ」
俺は志水にこづかれる。
いやしかしだな…。みちるさんもπ子さんもまぶしすぎて直視できないレベルでお美しいのだが、どうしても目が。目がね。言うこと聞かないんですよ。
平田さんのたわわな果実がこの一枚布でっ…!!!
平田さんが動く度にそれはぶるんぶるんと揺れた。
俺があまりにも見すぎたせいか、弥勒さんは少し恥ずかしそうな表情を浮かべる。
「…さっさと泳ぎに行こう」
「行こー!ですぅ」
「おー!」
「鹿島君は行かないの?」
平田さんが気遣って尋ねてくれる。
「お…俺はいいや。調子悪いし」
「鹿島君が行かないってことは安藤君も行かないのよね」
「はい」
それだけ聞いて仕方ないと思ったのか、平田さんは美少女3人に合流しにいった。
俺今せっかくのチャンスを棒に振ったよな…。エロゲだったらフラグばっきばきに折れてそう。
俺がパリピのウェイウェイ系なら臆せずヒャッハ―できるんだろうが…。
純情な感情を持ち合わせたチキンにはレベル1の初期装備で魔王を倒すくらいに難しいウェイ。
美少女4人が水をかけ合って戯れているのがここから視認できる。
絶景かな絶景かな。
「轍君、君はあの4人ならどの子がタイプなんだ?」
「タイプ…ですか。全員ですね」
断言できる。それは間違いない(真顔)。
「一人に絞ってくれ。それじゃ君が好きなのはただのカワイイ子であって、彼女たちの話にはならないだろう?」
「…」
俺は頭を悩ます。一人…か。
「やっぱり志水なのか?」
「志水はないですね。一番先に切ります」
俺は即答する。
「意外だな。てっきり付き合ったりしてるのかと思ってたが」
「そんなこと、ありえません」
俺と志水が付き合うなんてありえない。
だって俺、志水の好きな人知ってるし。
「じゃあ平田はどうだ。男なら惹かれるだろ。あの薄幸な感じ」
「平田さんは…」
平田さんもありえないな。
たしかに惹かれる部分はあれど、彼女は遠くから眺めてるくらいがちょうどいい。
俺にストライクなタイプとは違うような…いや、どうだろう。
「どうした?顔赤いぞ。やっぱ君も一人の男なんだな」
ん?顔赤いのか?俺。自覚症状はなかった。
「日焼けじゃないですかね」
「そうか。日焼けか―――日焼けといえばだな。この日焼け止めを塗ってもらいたいんだが」
「俺にですか?」
「そう、君に」
俺はぎょっとする。
パーカーの下から覗く白い肢体。
平田さんほどではないが、大きめの胸の膨らみ。
二十代後半という年齢はがっちり俺の守備範囲内だ。
教師に日焼け止めを塗るというシチュエーション…なんともいかがわしい。
「…それはちょっと」
「ほら早く塗ってくれ。日焼けしたら君のせいだからな」
吉川先生はパーカーを脱ぎ、そのすらりとして美しいボディを白日のもとにさらす。
そして、うつむせになった。
ええっ…。ナニコレ。
ろくに女性の体に触ったことのない俺がいきなり日焼け止めを塗るだと…!?
AVとかでよくあるローションプレイと大差ないじゃないか。
…正直塗りたいが塗ったら最後禁断の関係に―――。
その時俺はひらめいた。
安藤に耳打ちする。
「お、いいぞ。上手いじゃないか轍君」
吉川先生はまだ気付いていない。日焼け止めを塗っているのが安藤だという事実に。
「そうそう。まんべんなくだな…――――ひゃっ!?」
吉川先生が嬌声にも似た変な声をあげる。
「轍君どこ触って…え?」
そこで先生は気付く。
「すみません。ダーリンの要望なので」
先生の顔がみるみると赤くなっていく。
素晴らしい。我ながら妙案だった。
「ひゃっ…んッ…」
どこに塗られているんでしょうかねえ。ニヤニヤ。
唐突に視界が歪む。
限界か…。俺は少し寝ることにした。
周りが騒々しいので快眠というわけにはいかないだろうが、いくぶんマシにはなるだろう。
…おやすみなさい。
「…だち!」
誰だ?女の子?
太陽の逆光のせいで顔が判然としない。
これは…夢の中なのか?
「轍!」
俺ははっとする。声をかけていたのは志水だった。
「なに?」
「なにって…。もうお昼よ。皆海の家にいるわ」
もうそんな時間か。寝すぎたな。
「昼は…いいや。お前は食べたのか?」
「うん」
志水が俺の隣に座る。
「水着、似合ってるじゃないか」
「…人間のゴミ」
「辛辣すぎないか!?」
「ごめんごめん。でも下心が隠せてなかったから」
「うぐっ」
まあ下心はあったが人間のゴミ呼ばわりされるとは思わなんだ。
「私ね…。今日なんとしてでも弥勒ちゃんとの距離を縮めたいの」
「俺にどうしろと…」
今度は何を要求するんだ。また無茶なことじゃないだろうな。
「轍は別になにもしなくていいわ。ただ…『頑張れ』って言ってほしい」
…そんなことを言われたいがためにわざわざ俺に話しかけてるのか。
半年前には想像だにしてなかったな。
「おう。頑張れ」
「…ありがと」
そこで皆が海の家から戻ってきて、ホテルに戻るため後片付けを始める。
「ホテルに戻ったら何するんですかぁ?」
「UNOでもしよっか」
π子さんとみちるさんの会話が耳に入る。
ホテルに戻ったらしばらくは安藤と二人きり。
気が抜けないなあ。寝ようものなら何をされるか…。
俺は安藤の方を見やる。
彼は俺の視線に気付いてニコッとした。
なんなんだその笑顔は…。まるで「やっと二人きりですね」とでも言いたげじゃないか。
怖い。でも…カワイイ…!
***
お風呂の時間まであと二時間ちょっと。
私たちは暇なので、しばらく定番のUNOで遊んでいたのだが――――。
「弥勒に勝てない…何故だ!?」
「面白くないですぅ」
「つ…強すぎじゃない?」
「そう?」
弥勒ちゃんはさらりと言ってのけた。
運も絡んでくるUNOで勝率100パーセントは…。
弥勒ちゃんの魅力は天すら味方につけてしまうというのか。
「別のことしましょうよぉ」
「といっても何しようか…うーん…」
みちるは指を顎に当て、本気で悩む。
「あ!いいこと思いついた!」
突然何かが降ってきたようで、π子を手招きし、ひそひそと会話を始める。
「真理ちゃん、弥勒ちゃん、『カワイイところ言い合いゲーム』しませんかぁ?」
「…具体的には?」
弥勒ちゃんの質問にみちるが答える。
「そのまんま。この席で時計周りに次の相手の『カワイイと思うところ』を言うの。π子は僕の、僕は弥勒の、弥勒は真理の、真理はπ子のってね」
「え…いや…それは」
私はその急な提案に頭がパニックを起こす。
弥勒ちゃんに私のカワイイところを言われるだと!?
精神が持つ気がしない。かといって「言う順番変えない?」と提案しようものなら弥勒ちゃんに失礼すぎるし…。
ど…どうしよう。
「じゃあπ子からいきますねぇ」
「さあ僕のカワイイところを思う存分言っておくれ!」
π子はそのまま硬直する。そして一分経過。
「そ…そんなに思いつかない?」
みちるが不安になって話しかける。
「…『話し方』。みちるの『話し方』はとってもカワイイと思いますぅ」
「『話し方』?」
「はいですぅ。お姉さんみたいな『話し方』ですよねぇ」
「みちるの口調って独特よね。年上っぽいっていうか」
「あはは…そ…そうかなあ」
明らかに照れている。めちゃくちゃ嬉しそう。
普段から部長らしく振舞おうと気を付けているのは薄々感じていたが…。
まあ確かにカワイイと思う。そういうところ含めて。
「いやコレ自分で提案しといてなんだけど恥ずかしいな…」
「次、みちるから弥勒ちゃんにですよぅ」
「うん」
みちるは弥勒ちゃんの全身を一見してから言った。
「『髪』…とか」
「『髪』…」
弥勒ちゃんの髪は芸術品みたいに綺麗だ。
さらさらで、まるで宝石みたい。
「めっちゃカワイイと思う。弥勒の髪」
「…ありがとう」
みちるに髪を褒められて弥勒ちゃんはどことなくウキウキしているような。
み…みちるめええええええ…!
私は嫉妬の炎をめらめらと燃やす。
なんかみちるに先越されたみたいで悔しいッ…!
「真理ちゃんのカワイイところか…」
弥勒ちゃんが私の方を向いてうーんと考える。
な…なんて言われるだろう。
私は冷静さを保つために、π子のカワイイところを考える。
うーん…『雰囲気』?
『ぽわぽわした雰囲気』…これだな。
「『くりんとした髪先』」
髪先!!??ぐはっっ!!!(残HP 10000)
「『ぱっちり二重の目』」
ぐふうっっ!!!(残HP 8756)
「『林檎みたいに赤くなるほっぺ』、『ぷにぷにのお肌』、『透き通った声』、それから―――」
ぐひっ!!!だんふぉっ!!!ひでぶっ!!!(残HP0)
「もうやめて!真理のライフはもうゼロよ!」
私はだばだばと鼻血を流し、軽く意識不明になる。
「―――『そういうピュアな反応』」
あああああああああっ!!!(残HP -50000)
私はとどめを刺されて絶頂する。
と…とにかく鼻血止めないと…。
そうこうするうちに吉川先生が来たので、私たちはお風呂の準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。