第7話消しゴム落としの練習の成果!!
駅から学校までの道のりで、よくわからん奴の声がずっとつきまとっていた。
「おいっ!!聞こえてるだろ!!」
うるさいなあ。しゃべるならもっとボリューム下げろよ。よくいるよな。声だけ無駄にデカい奴。悪いことじゃないけどさあ。公共の福祉うんぬん。
…てかコイツさっきからひとりでしゃべってないか!?こわっ!!
「えーと…確か…誰だっけ…名前」
声がデカい奴はどうやら誰かの名前を忘れたらしい。まったく。しっかりしろよ。
「か…か…」
なんだ蚊でもいるのか?時期は少し早いような。
「あっ…!鹿島!!」
「ふぁい!?」
…俺?
名前を呼ばれて、初めて俺に話しかけてるのだと気付いた。
ぼっちの俺に話しかけてくるなんて物好きだなと思いながら、相手の顔を確認する。
コイツは…えーと…蓋ふた 又男またおだっけ。典型的なリア充。絵に描いたようなリア充。どこにでもいる普通のリア充。頼むからその爽やかスマイルを一ミリ分けてください。
「ようやく気付いたな…。お前に話がある」
「俺に?」
「ああ…。といっても大したことじゃないんだが」
「はあ」
俺は嫌な予感がした。リア充が重い腰をあげてわざわざぼっちに話しかけてくるなんて、大したことあるにきまってる。
「平田弥勒には近づくな」
「!?」
「以上だ。俺はちゃんと伝えたからな。有意義な学校生活を送りたいなら素直に従っとけ」
それだけ言って、足早に去っていった。
俺はショックのあまり言葉を失う。
なるほど。これは『いじめ』の類だな。間違いない…だがこれは陰湿だ。
さて、どうしてくれようか…。
彼女はかがやかしい顔をしていた。それはちょうど朝日の光の薄氷にさしているようだった。彼は彼女に好意を持っていた。しかし恋愛は感じていなかった。のみならず彼女の体には指一つ触らずにいたのだった。
「死にたがっていらっしゃるのですってね。」
「ええ。―――いえ、死にたがっているよりも生きることに飽きているのです。」
彼等はこう云う問答から一しょに死ぬことを約束した。
「プラトニック・スウィサイドですね。」
「ダブル・プラトニック・スウィサイド。」
彼は彼自身の落ち着いているのを不思議に思わずにはいられなかった。
自席で本を開くと、ふと芥川龍之介のその一節が目に飛び込んでくる。
小説を読むふりをしながら蓋 又男の言葉の意味を考える。
生理的に気持ち悪いみたいな理由で平田さんがいじめられるとは考えにくい。
では何故?個人的な恨みか諍いさかいか。
(…轍)
(…わかってる。だが…)
(どうかしたの?)
俺は本人の了承を得ずにこんなことを他人に話してしまっていいいのかと躊躇ったが、打ち明けることにした。
この調子だとどうせ志水も知ることになるだろう。
(平田さんな…いじめられているかもしれないんだ)
(…嘘…よね?)
(嘘じゃないと思う。確かに証拠はないけど)
(じゃあいじめてる奴らみんなケチョンケチョンにして)
(簡単に言うなよ…。まだ実態も規模も把握していないし)
(こ・ら・し・め・て!!)
(…とりあえず。平田さんと関わろうとした人は排除される。このままだと付き合うのはおろかまともに会話することすら難しいかもしれない)
ここで俺は引っかかる。
これって人を顎で使えるくらいクラス内カーストが高くないと成り立たないよな。だとしたら、首謀犯の選択肢は限られてくる。
例えばあそこで騒いでいるヤンキーかぶれの女その1、その2、その3とか。
…いずれにせよ平田さんと直接話すのが重要だ。
しかし、俺はできればリスクを負いたくない。アイアム・ア・チキン。人の目が極端に少なくなる時間を考えた。
…昼休みが無難か。
ちょうど首謀犯の疑いのある層はばらけるし。
キーンコーンカーン…。昼休みである。俺は屋上には行かず、購買で謎パンだけ買って教室で食べる。
誰にも気づかれずに平田さんに話したい旨を伝えるには…。
ふふふ…。これは昨日志水にポンコツ呼ばわりされて深夜に密かに特訓した『消しゴム落とし』のスキルが遺憾なく発揮できるのではなかろうか。
俺は消しゴムのカバーを外して、油性ペンで『平田さん。話したいことがあります。返事ください』と両面に書いた。
この消しゴムは恥ずかしいから後で処分しよう。うん。
あとは、これを偶然を装って落とすだけだが、特訓したとはいえ運ゲには違いない。
俺は精神を研ぎ澄ます。珍しく勉強のフリをして、あたかも偶然かのように肘で消しゴムを落とす。
消しゴムよ!!!平田さんに届け!!!コロコロコロ…。
消しゴムは俺の願いを受け入れたかのように、平田さんの席周辺で動きを止める。
俺は精一杯の笑顔で平田さんに話しかける。
「あ、ごめん。それ拾ってくれないかな?」
自分で言うのもアレだけど俺演技下手だな。声がひきつってらあ。
「?」
平田さんは快く拾いあげてくれたが、消しゴムに書かれている文字を見た瞬間笑いがこらえきれない様子だった。
俺は急に恥ずかしくなる。なんてバカらしい手段に訴えたんだ、と。
平田さんはメモを取り出し、すらすらとペンを走らせて消しゴムと一緒に渡してくれた。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
メモ用紙を確かめる。
そこには『私と話したいなら放課後文芸部部室へ』と書かれていた。
へえ。平田さんって文芸部なんだ。
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