第6話ゆりゆり妄想たーいむ❤

休み時間。


いつものように読書をする。


俺は現在平田さんの隣の席であり、平田さんと志水を付き合わせるには絶好のポジションだといってよいだろう。

けれど、具体的に何をするのが最良の選択肢なのかさっぱりである。人生の攻略wikiが欲しいものだ。


(なにかしなさいよ)


いっこうにアクションを起こさない俺に痺れを切らしたのか、志水は脳内で話しかけてくる。


(なにかって言われてもなあ…)

(じゃあ消しゴムを落としなさい。それで弥勒ちゃんに拾って―って)


消しゴムをわざと落としてみる。


その消しゴムは平田さんの席に向かって放たれたが、予想だにしないイレギュラーを起こし、俺の前の席の子の方に向かってゆく。


「あ、消しゴム落としてるよ」


俺の前の席の子は気前よく消しゴムを拾ってくれる。


「あ…ありがとう」


しどろもどろ消しゴムを受け取る。


(…ポンコツ)

(うるさいなあ)

(さすがに二回も消しゴムを落とすのは不自然…いや、まだ二回目なら…)

(…消しゴムから離れようぜ。普通に話しかけるから)

(じゃあ最初からそうしなさいよ)

(心の準備というものがあってだな)


俺はぼっちではあるがコミュ障ではない…たぶん。

問題は話しかける内容なのだが…。


俺は覚悟を決める。


「平田さん。平田さん」


平田さんは外を見ていた顔をこちらに向ける。

うわあ。改めて見るとやっぱり抜群の美少女だ。


「なにか…用?」

「いや、用ってほどでもないんだけど…。いつも外眺めてるよね?なに見てるの?」

「…別に。なにも見ていないわ」

「じゃあ何か考えてるの?」

「そんなこと…あなたに話す義理があるかしら?」

「ごごごごごめん!」


やばい!こわい!いきなり好感度下がったか!?


…クスッと平田さんが笑った。


「冗談よ。あなた面白いわね」

「え…?」

「鹿島君…だっけ?クマ濃いよね。寝不足?」

「クマ?…ああ、これは遺伝で…」


平田さんはきょとんとする。


「クマって遺伝するの?」

「…してるけど」

「ぷっ…あははは。ご…ごめんなさい…!」

「腹抱えるほど!?」


あれ?俺のイメージの平田さんとはちょっと違うような。ツンツンでもっと高飛車な人だと思っていたが…。


俺は違和感を覚えた。この気さくな感じだと友達の一人や二人いたっておかしくない。


それにもかかわらず、平田さんは異性は言わずもがな同性と話している姿すらあまり見かけない。はっきり言って、俺と同じようにクラス内で浮いている。…考えすぎか?


その時、周囲の視線を感じた。


なんだ?皆別々の会話をしているのに、注意だけこちらに向いているような―――。



その日の平田さんとの会話はそれっきりだった。印象は…まずまずではなかろうか。


(轍にしては上出来ね)

(上から目線やめろって…。お前さ。平田さんとちゃんと喋れるの?できなかったら付き合う以前の問題だって)

(だ…大丈夫)

(じゃあ明日、お前と平田さんが話せるように切り出すから。いいか。最終的にはお前の問題なんだ)

(…それはそうだけど)


俺はため息をつきたくなった。なんでコイツはこんなに恥ずかしがり屋なんだ。


気持ちはわからんでもないが…。フィギュアを買ってくれるのはいつになることやら…。



***



うう…。弥勒ちゃんと沢山お話したいし、いつかは話さなければいけないことはわかってる…わかってるけど…。


私は弥勒ちゃんとの会話を妄想する。


二人は放課後、誰もいない教室で濃厚なキスを何度も繰り返し、お互いの愛を確かめ合う。


「んっ…んっ」


私は弥勒ちゃんを求め、弥勒ちゃんは私を求める。


脳がとろけてあまり上手く思考できないけど…幸せな気分。


「だめっ…んっ…だよ…。こんなっ…ところで」

「なに言ってるの?自分から誘ってきたくせに」


弥勒ちゃんは頬を紅潮させて微笑し、そしてまた舌を入れてくる。


優しいキス。


甘いキス。


静かな教室には二人を邪魔する者はいない。ただ、キスの音だけが響く。


弥勒ちゃんの唾液と私の唾液が混じる。意識したら余計えっちに思えてくる。


「んっ…私…もう帰らないと」

「…そう残念ね」


最後に弥勒ちゃんはわたしのほっぺにキスをする。


私はよろよろと立ち上がり、カバンを持って教室を出る。弥勒ちゃんの唾液がまだ舌に残っていて、変な感じだ。


「真理ちゃん」

「?」


急に呼びとめられ、あわてて振り返る。


「みそスープ…落ちてるよ」


私はフリーズする。状況を把握するまで約五秒。


「うそ…私…」

「なに顔赤くしてるのよ。はいコレ。真理ちゃんのみそスープ」


みそスープを手渡した時の弥勒ちゃんの少し冷たい体温。


もう一度相手を求めたくて、体がうずき出す。


「んもう…真理ちゃんの欲しがり屋♡」

そうして第二ラウンドへ―――第二…ラウンドへ…



「M・I・S・O!!!」


ぶっしゃあああああああああ!!!


「うわっ!?どうした真理!?また鼻血!?」


私は部室で赤い打ち上げ花火をぶちまける。


「成長期ってやつですかねぇ」

「そ…そうかも」


とりあえずティッシュを鼻に詰めて応急処置。


「ところでさ。じきに中間テストなわけだが」


みちるは何事もなかったかのように話題を転換する。


「テストは嫌いですぅ」

「私も嫌いだ」

「実を言うと僕も嫌いなんだけど…。ここで一発勝負をしよう」

「勝負?どんな?」

「一番成績の良かった人に一番悪かった人に対して好きなことを何かひとつさせる権利が与えられるってのはどう?いわゆる絶対服従」

「うへえ。鬼畜ね」

「負ける気しかしないですぅ」

「そう言わずに。どう?やってみない?」

「…限度があるなら別にいいわよ」

「…じゃあいいですよぅ」

「決まりね」


みちるはイタズラっぽく笑う。


…はっ!?限度があるとはいえ、好きなことを何かひとつやらせていいって言ったら…。


もしかしてあーんなことやこーんなことも遠回しかつ合法的にできるってことよね…。


想像したらまた鼻血が…。でもダメダメ!二人は私の大切な友達なんだから…。そして何よりも弥勒ちゃん一筋を貫きたいっ…!でも二人ともカワイイし…。いや、やっぱりダメよっ…!うう…でもっ!でもっ!


「ん?真理?おーい!」

「魂が抜けちゃってますねぇ」

「こらたまげた」


徳永は志水の救出に向かう。


「おーい!戻ってこーい!!」

徳永は背中をバンバン叩く。返事はない。ただの屍のようだ。


「んー…どうしたものか…」

「コレ、使ってみてはどうですぅ?」


π子が取り出したのは発明品でもなんでもなく、ただの洗濯バサミ。


「待てπ子。それは…最終手段としよう」

「了解ですぅ」


「そうだな…まずは脇腹!」

徳永は志水の脇腹をくすぐる。返事はない。ただの(ry


「ん―…。真理は脇腹がきかないタイプかあ…。じゃあ次は膝!」


手際よく机をどけ、膝をくすぐる。ぴくんっと体が動いたが、意識が戻った様子はない。


「さて…膝もダメとなると…あっ!」


にやり。徳永は徐に志水に近づいたかと思うと、髪をかきわけ、ふっと息を耳に吹きかけた。瞬間、びくんびくんと志水の体は痙攣し、嬌声を発す。


「んっ…ああっ…」

「ふーっ…」

「んっ…ああああっ!」

「ふーん。真理は耳が弱いのかあ」


正気に戻った私は状況が呑み込めず、ただ羞恥がこみあげる。


「真理ちゃん!とてもえっちでした!」

「…えっ?」


π子が興奮気味で話しかけてくる。そこで、大体の状況を把握した。


「み…みちるううううう…!!!」

「あはは。真理コワいってー」

「π子!それ!プリーズ!」

「はいですぅ」


私はπ子から洗濯バサミを受け取ると、じりじりとみちるに歩み寄る。


「え?何?冗談でしょ?冗談ですよね?」

「これで…おあいこだああああああああッ!!!」

「ひぎゃあああああああ!!!」


今日もみちるの絶叫はよく響く。


「平和…ですねぇ」


π子はお茶を一啜りした。

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