第5話救いようのない人類へ。救いようのない人類より。

夏の匂い。


蝉の声。


青い空。


そして、高くそびえる向日葵。


これは夢。そう、夢だ。遠い…遠い記憶。

己の無力さを知った日。世界の限界を知った日。


近所といえるほど近所ではなかったが、子供がひとりで歩いて行けるくらいの距離に、ぽつんと向日葵畑があった。


そこは蝉がけたたましく鳴くだけで、都会の喧騒とはまるで無縁の場所。


俺はよくその場所で昼寝をしていた。

誰にも邪魔されず。自由を謳歌して。


真夏の日射しに照らされ、体の輪郭が融け出す感覚を覚える。


大気、土、空、光、青、黄色―――そして自分。それらがすべて一体となって、心地よい。

俺はふと「こういう一場面が記憶となるのだろうな」と悲観する。


泣き声が近づいてくる。

たぶん、女の子だ。

その泣き声は何かを必死で我慢しているみたいで―――悲痛だった。


ゆっくり、ゆっくり近づいてくる。


女の子は俺の顔を覗き込む。しかし、逆光のせいで女の子の顔は判然としない。




そこで夢は終わる。



俺はただやりきれなくて、何もかもを投げ出したい気分になった。

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