第4話同盟、爆誕!!!

朝学校に来て、下駄箱を見るとそこにラブレターらしきものが。なん…だと…!?


遊馬の占い通りこの俺にもついにモテ期が来たらしい。周りに人の目がないことを確認して、恐る恐る手紙を広げる


今日。放課後。屋上。


手紙にはそれだけが女の子らしい筆跡で書かれていた。

なるほど…。確かに放課後の屋上は誰もいないだろうし、告白にはうってつけの場所かもしれない…って…うわっ!???


手に持っていた実質ラブレターが何の前触れもなく紙の端から発火する。

はあ!?なにごと!?


俺は動揺する。炎はみるみるうちに拡大し、手紙は瞬く間に消滅した。

落ち着かぬまま自分の席について、あれこれと考える。


どうやって紙を燃やしたのか原理は気になるが…それよりも燃やした意図だ。


単純に恥ずかしいから?それとも何らかの証拠隠滅?

そういえば差出人の名前すら書かれていなかったからなあ…。ある意味ホラー。

でもまあ…いいか。どうせすぐわかるし。


俺は隣の平田さんをチラ見する。今日も相変わらずお美しい。


万が一…万にひとつもなさそうだが――あれが平田さんからのラブレターだったら…最高だな。

俺は頭の中で勝手に妄想を膨らます。


「好きです」と恥じらいながら告げる彼女。ミステリアス美少女の鉄仮面が剥がれ落ち、俺だけに見せる表情…。そのうるんだ瞳は一心に俺のことを捉えていて―――。


やべえ。ドキドキ&ニヤニヤが止まらない。



授業なんかそっちのけで俺は手紙の差出人との巡り巡るラヴストーリーを展開させていた。

人に話したら若干引かれるようなことまで含めて。


そして今日は珍しく屋上に行かなかった。胸が張り裂けそうで、とても昼飯を食べるような気分じゃなかったのだ。昼休みは机につっぷしてやり過ごす。


ふおおおおおおお…!あと三時間…!これを乗り切れば…!!



キーンコーンカーン…。

キタ…!しかし、焦って行くのもみっともないな。


俺はあくまでも強者の余裕を漂わせながらゆっくりと歩を進める。


やあご苦労さん。そこの非リアくんたち。俺はぼっちでありながら君たちより大人になってしまうようだ。すまないね。


満を持して屋上に到着。緊張で小刻みに震える手を制御して、ドアノブを回す。


そこにいたのは―――。


「は…?は…?」


言葉を失うとはこのことか。


遊馬。そこにいたのはなんと遊馬だった。


いやいやいやいや…うそーん。俺、ノーマルだからね!?


不測の事態に備えて自分の取るべき行動を整理する。

遊馬からのまさかの求愛…これはきっぱりお断りだ。お断りしないと互いのためにならない。…でも断わり切れるのか?オラつかれたら覚悟決めるしかなくなるような…。


絶望感にうちひしがれる。その時は…世界の終焉だな…。


「ああ…すまん鹿島。もしかして告白の場所をここに指定されたのか?だったら俺は帰るが…」

「えっ…あ、うん。そうそう。そんな感じ…」


この反応…どうやら最悪の事態は免れているようだ。


屋上を後にする遊馬の背中を見て、俺はほっとする。


遊馬がいなくなった後、すぐに誰かが階段を駆けあがってくる音がした。

扉が開き、同時にかちゃりと鍵がかけられる。


その女の子の顔を見た時、俺は一瞬だが内臓の裏を舐められたような居心地の悪さを感じた。志水真理…俺の幼馴染…コイツがラブレターの差出人!?


心臓の鼓動が徐々に速くなってゆく。


「あの…」

「ふぁい!?」


俺は思わず頓狂な声を出す。両者に暫しの沈黙。な…なんだよ…。早くしろよ…。


落ち着かなくてしょうがないだろうが。頬を赤らめ、伏し目がちに考え込む姿に、俺はコイツのことを…その、なんというか…。久しぶりに…か…可愛いと思った。


美少女は口を動かし、必死に言葉を紡いだ。



「好き…―――なの。女の子が」



「…は?」

デスヨネー。…ってちょっと待て。今、なんて?


「だから…好きに…なっちゃったの……女の子を」

「そう…好き…なんだ」

「うん」


志水はさらに顔を赤くする。


鎮まれ、俺。ここは冷静に対処しないと。


「オーケーオーケー。正直色々と頭の中パニックだが、それはさておきだ。なんで俺にそんな話するの?」


実に不可解。俺にそんなエキゾチックな告白をしたところでいったい何をさせたいんだ…。


「それは…轍は私が唯一『弱味』を握っている人だから…」

「弱味?どんな?」


志水に知られているような弱味って…まったく心当たりがない。…俺自身は弱味だらけの人間ではあるが。


「…秘密」

なんだそれ。ブラフか?ブラフなのか?


志水はにやりとする。


「ねえ。私と同盟を結ばない?轍の弱味を誰にも言わない代わりに…」

「こっちにメリットがないのだが」

「メリット…。メリットねえ」

「それがないならどんな頼みであろうと俺は下りる。弱味なんて好きにしていいよ。これ以上失うものなんてないし」

「…」


ビンゴ。こちらの弱味を秘密にしておくってことは当の志水にもある程度のダメージがあるってことだ。いわば諸刃の剣。使い方を誤ったらジ・エンド。


「すまないが面倒なことに巻き込まないでくれ」

「面倒って…どうせ轍暇でしょ」

「ギクッ」

「暇なら…別にいいじゃん」

「暇は謳歌するためにある。削るためじゃないぞ」

「そこをなんとか…!幼馴染のよしみで…!」


負けず嫌いの志水がここまで食い下がるのは珍しい。さすがの俺もむげに断ると良心の呵責さんが黙っていなさそうだ。


「…わかった。話だけは聞いてやろう。俺に何をさせたいんだ?」

「私と『あの人』を付き合せてほしいの」

「『あの人』?」


まあ、ありがちだな。『あの人』ってのが同性らしいってこと以外は。



「『あの人』―――平田弥勒ちゃん」



ファッ!?衝撃。平田…弥勒!?志水…おまっ…!!?


「弥勒ちゃんと出会ってから何かが変なの。今までこんなことなかったのに。

可愛い女の子を見るたびに…無意識なのかわからないけど…ドキドキしちゃって。

その『可愛い』って思うだけなら普通なんだろうけど…。その先まで想像しちゃって。

ふと…『アレ?自分の性別ってどっちだっけ?』ってなって。男性って何?女性って何?

考え出したらキリが無くて。次第に女の子に好意を抱く自分が許せなくて。不自然だって。気持ち悪いって頭ではわかってるのに。毎日『偏見なんかいけない。すべてを受け入れよう』っていう自分と『ありえない。そんなの本当の自分じゃない』っていう自分が喧嘩してて…。なんだかもう疲れちゃって。苦しいの。受け入れたいのよ。弥勒ちゃんを『異性』として恋をした自分を…」


俺はなんてアドバイスしたらいいのだろう。


志水は今、深い森の中で迷子になった子猫も同然だ。『答え』などない人の心の闇―――。


「…本当に好きなら俺に頼るんじゃなくて自分の思いを素直にぶつけるのが手っ取り早いし、成功率も高い。そりゃあ…気味悪がられるかもしらんが…」

「…わかってる。何度も、何度も言おうとした。今日こそは…今日こそは…って。

けど、できなかった。お話しすることさえ…。こんなこと他の女の子には相談できないし…。轍しか…いないの」


うわあああああ。やめろ。涙ぐむな。断るに断れない状況になってしまったジャマイカ!?


というか俺がいくら手伝っても最終的には志水の告白は必須なわけで。この様子でできるのか?正直、懸念事項ばっかだぞ…。


「…わかったよ。協力してやる。その代わり…ぐへへ」

「な…何よ?」

「『萌え萌え魔女っ娘チグリス&ユーフラテス・プレミアムフィギュア(完全塗装済み)』を要求する!!」

「…どのくらいするの?」

「そらもうべらぼうに」

「学生が買える値段なんでしょうね…?」

「ギリギリカナー?ははは…」

「わかったわ…。弥勒ちゃんと永遠の愛を誓い合えたら買ってあげる」

「あれ?ちょっとハードル高くなってない?」

「…じゃあ決まりね。轍、コレ触って」

「?」


志水に差し出されたアゲハ蝶を模したマスコットのキーホルダーを、俺はあまり深く考えずに触る。特になにも起こらないが…。


(轍?聞こえる?)


コイツ…直接俺の脳内にッ…!?

目の前の志水は口を開いていないのに、志水の声が脳内に響く。


(な…なんだよコレ)

(魔法)


志水はしれっと答える。


(魔法ってあの等価交換無視する全人類夢の技術のアレ!?)

(そう。これは私がこのキーホルダーに触れている間、私と轍は脳内通信が可能になる魔法)

(お前…さては…)

(いっとくけど。私そのものは何も特別じゃないからね。実はこの本のおかげなの)


そう言って志水はカバンから辞書みたいな厚さの本を取り出す。

タイトルは…『ホモと学ぶ魔法の書』…。アッーーー!!!


「それぜってーヤベ―奴…」

「ま、胡散臭いけど内容は本物だから」

「…確かに」


俺は脳内での会話を思い出す。…どこから仕入れたんだその本。


「でもね。この本自体は凄いんだけど、条件が厳しいものが多くってさ。今使えるのはたった二種類のみ」

「『脳内通信』と…もしかしてアレか。『発火』」

ラブレターの発火の原因はこれか。

「そう。だから必要な時は援護するわ」

「…無いよりはだいぶマシだな」


志水は改めてまじまじと俺の瞳を見つめる。


「じゃあ…明日からよろしく」

「…ああ」


こうして俺と志水の奇妙な同盟関係が爆誕した。

互いに振り向いて欲しい(切実)ヒトのために。


さあ日も暮れてきたことだし帰るか。

志水と一緒に屋上を出ようとしたらキレられた。


「あんた私と帰り道一緒でしょ!?十分後に出てきなさい!!」

「あー…はいはい」


このワガママ女めっ。そういうところ昔から変わらないよな。


夕陽に照らされた雲が流れるのを見て、時間が経つのを待つ。


何分経っただろう。

十分も経っていないだろうが、正確な時間がわからない。

まあ別にいいだろう。俺は屋上を出ることにした。


この時間のアバウトさが今の俺と志水の心の距離なんだろうなあと一人、苦笑しながら。

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