第8話 切り刻んでやる→青春キター!
母さんの熱弁からはや一週間。
俺は決意が固まっていた。
人の命を助ける仕事。それで思い浮かべるのはやはり、警察や消防などの公務員だろう。
しかし、自分の一番のライバルは自分というくらい、人間は人間が敵であることが多い世の中だが、ある存在を知り、それに対抗する組織も知った俺は、裏で活躍する仕事を知った。そして、その隠された存在──妖幻を倒すことを決めた。妖幻の存在が表に出されていない以上、知っている人には限りがあるし、実際に襲われることだってある。何も知らない一般の人でも。
──助けたい。これまでに無いってくらいに強い意志、という感じが俺の中にはあるのだ。心のざわめきというか、何というか、表現しずらいのだが…。まぁ、使命感のようなものがある。平凡に人生を歩んでいき、平凡に死ぬようなつまらない道なりの人生にはしたくない。それに、消防や警察になろうとは思ってもいなかったし。ずば抜けて勉強ができる訳でもないし、強く誰かを叱れる訳でもないし、火の中に飛び込んでいけるほどの勇気も持ち合わせていないし……。
──と、まぁ、言い訳のように言葉を並べてみたが、やはり説得力に欠けるというものだ。何故なら、大部分をしめる、ある一つの理由は、即決で、『格好いいから』なのだから。やはり、俺も男子高校生だし、単純思考もいいところだが、『格好いい』に勝てるものなんてそうそう無いのである。
例えば、プラモデルやモデルガンを欲しがったり、作って飾ってみたり、スポーツを極めてみたり、中二病になってみたり……などなど、人間にとって意外と本能的にも『格好いい』は決め手になっていたりするのかもしれない。
──所詮、俺の勝手な考えなのだが。
結局のところ、俺は単純思考なのである。
『格好いい』と『助けたい』だと、『助けたい』が勝っているが。
夏美は、というと。
まるでやるのは当たり前だと言わんばかりに楽しみにしているのだった。
『ふっ、私に選択の必要などないのだよ!はっはははははははー!』
と有り余る元気でいい放った。
家の人は許可したのだろうか……。
そういえば最近会ってないが…。元気してるかな。
──チャイムが鳴る。
こんなことをずっと考えているので、あっという間に毎日が過ぎていくのだった。
★★★★
「二人とも、ちゃんと考えた?」
俺たちはこくりと頷く。
ついに今日は、最低でも考えなさい週間の次の日。つまり、結論をだす日だ。
俺と夏美はリビングで座り、目の前には母さん、その後ろに発人さんが座っている。
固まった空気のなか、俺は話しだす。
「俺は、やっぱり何回も考えたけど、人を助けたいんだ。妖幻という存在を知って、こんな恐ろしい奴らがいることを知って、もし自分の大切な人や他にもたくさんの人が襲われたとき、傍観者にはなりたくないんだ」
続いて夏美が話し出す。
「私も同じ気持ちです。誰かを助けられて、人に誇れるような立派な大人になりたいんです!ちなみに、保護者の許可はとってあります」
「そう、あなたたちの意見は尊重するわ。んじゃ、発人さん」
「では、いつ転校しようか?なんなら次の日からでもいいよ?手続きは速やかで迅速にこっちで済ませるから。もう大体話はついてるしね」
発人さん、断る訳がないだろうと言わんばかりに仕事が早かった。意外と真面目なのか?
いつ、と言われてもなぁ。そうだ、あれを聞かないと!
「あの、編入試験は中学範囲でいいんですか?」
「ん、あー編入試験?二人とも、中学からの成績と内申と先生方からの聴取、入試ともにかなりバッチリベリーグッジョブな感じだったから別に受けなくてもいいよ?竹高くらいなら全然楽勝。梅だったら編入試験は強制だけど?」
おっと、前言撤回。やっぱり適当だった。
どっちにしろ、俺は竹でいいと思っていたのだからかなり安心している。今また試験をやったとしても受験生現役時代に勝てる気がしないし。
夏美に視線を向けてみる。ガッツポーズをしてるようだった。
「試験ないー!無い無い無い無い無いー!ヤッフォー!」
と小声だけれど、夏美は叫んでいた。
──と、いうことで。
「来たぜー!竹高校ー!!イェーイ!」
夏美のハイテンションぶりはいつにも増している。勿論、俺も心のドキワクが止まらないといったところだけど!
流石に昨日の今日で出発するのは少し名残惜しかったのだが、高校生にもなってお別れ会はしないだろうし、それぞれの中学グループで固まってた感じで、そこまで仲の良い人がいなかったしな。まだ五月なのにもう転校となると変な目でみられそうだし。
タオルとか服とかその他小物類はすぐにキャリーバッグに詰められた。そして昨日渡された新しい制服を詰めて準備完了。意外と早く準備できた。ちなみに、制服には既に生徒手帳と名札がセットになっていた。名札って彫るし、業者に頼むんだから三日はかかるので、編入はかなりの確率で想定されていたようだった。また、学校専用鞄も渡された。使う教科書は今の学校と同じらしいので、その手持ち鞄に教科書等を詰め込む。かなり重いな…。
発人さんの車に乗せてもらい、車で走ること四十分程度。
大きな山に囲まれて、その中心に建っている建物は、国立竹丘高校!この前お世話になった研究所と環境は似ている。
それもそのはず、大学、松高、竹高、梅高、研究所の順で施設がまとまって並んでいるのだ。
周りの大自然に見とれていたら、発人さんが行くよ、と声をかけたので、その後ろをついていった。
校門デカい。グラウンド広い。廊下広い。敷地デカい。
駄目だ。感想が単調になるくらい感動が大きい。
職員室でちょっとした自己紹介とあいさつをして、教室へ。
俺と夏美は同じ一年三組。知り合いがいた方が良いだろうとのこと。一学年十クラスもあるらしいが、一クラス十五人程度のため実質五クラス分の人数だとか。その分教室が広く使えて安全だからという理由らしい。
また、全校生徒が妖幻と戦う訳ではなく、一から六組までが妖幻専門クラス、七組から十組は魔物専門クラスというように分けられているそうだ。魔物とかいう存在は、妖幻や妖怪のなりそこないのようなもので、半透明。負の感情を振り撒いたりする。
そんな怪しげなものを倒すための学校だ。やばいクラスメイトも覚悟しなきゃな。
発人さんが教室のドアをノックし顔を覗かせた。──と、先生らしき男性の声が聞こえてきた。
『えー、今日、編入生が来る。仲良くしてやってくれ!』
ドアが開けられた。先生に、自己紹介と一言よろしく、と言われ、頷いて教室に入る。
やっべ、知らない人しかいないぞ……当たり前だが。
視線が怖い…!ふぅ、と深呼吸。
「編入してきた川崎康也です。よろしくおねがいします」
よし、よくやったぜ俺!自然だ!自然な感じだよ、今の!
次は夏美だ。頑張れ、と心の中で応援する。
「編入してきた草川夏美です!常にハイテンションです!よろしくおねがいします!」
緊張なんて微塵もしていないようだ。
『常にハイテンション』がもう別名みたいにしっくりくるな…。
「二人とも、よろしくな。──んじゃ、川崎は梅野の後ろ、草川は桐原の後ろに座ってくれ」
先生に言われ、席に座る。俺達は一番後ろという訳ではなく、ちゃんと番号順そのままになっているので、その席だけ空いていて分かりやすかった。
「STは終わりだ。号令ー」
「起立礼ありがとうございましたー」、と
瞬間、俺には男子生徒が、夏美には女子生徒が一気に周りを囲み、質問の嵐。
何処の学校から来たのか、好きなほにゃららとか、苦手なほにゃららとか、誕生日、呼び方……次の授業が始まるまで質問されたのだった。
二分前着席でみんなが座ったまま話しているころ、質問に疲れて俺は机に突っ伏していた。そのとき、
「お前も大変だなー」
と声が聞こえた。目の前の席の男子──梅野が言ったのだった。
「まぁなー」
と返すと、彼は、
「そーだ、今日一緒に昼飯食べないか?」
と言ってきた。来たぜ青春!確かここは食堂式だったな…。
弁当でもいいらしかったが…。
「弁当持ってきてないから食堂だけど…?」
「俺もだよ!男子はお弁当なんて作らねぇからな!」
「じゃあよろしく」
「おう」
『キーンコーンカーンコーン』
始業のベルが鳴る。
編入してすぐ友達が出来るなんて…!感動。
向こうは興味本位で声をかけただけかもしれないが、俺は友達だと思う!青春を分かち合う友情!やったぜ!
窓から入る春風に期待を膨らませながら。
俺の第二の高校生活が始まる……!
★★★★★
「くそっ、が…!」
目の前で堂々と立っている人物を睨む。
「お前、最初から…っ!はめたのか!?」
「いやいや、はめたつもりはないよ?だって一応目的は達成しただろう?」
「だが、会わなければあいつは知らずに生きていけた!」
「いや、君が行かなかったとしても、ね?」
「お前…っ!何が目的だ!」
「君に教える義理はないね」
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!」
奴は去っていく。
その後ろ姿をいつか切り刻んでやると心に誓おう。
もうすぐ力が吸収されて意識が保てなくなるが。
いつか目を覚ますことができると信じて。
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