第5話 記憶→研究室

「大きいなぁ……」


夏美はその建物を見上げて呟いた。


「まぁでも、周りが山だから見つかりにくいっちゃあ見つかりにくいしねー。──ささ、入ろっか」


建物の門の端には、インターホンのような機械が設置されている。それに未来が近づき、


「あー、えー、博士?戻りました!」


と言って、カメラに顔を近付ける。

するとピピ、っと音がして門が開き始めた。


夏美は、目的の部屋に着くまでの間、未来達に今回のことを細かく話した。



「……………ん?ここ、何処だよ………ってか眩し」


意識が覚醒する。


最初に目に入ってきたのは、照明。

体制からして寝ていたのだろう。


何故ここにいるのかさっぱり分からない。

最新の記憶は…。

確か、日直で職員室に行ってプリントを提出して、帰ろうとして───あれ、そこから何かあったか?


何かあった気がする。胸の奧でつっかかっている。

──しかし、思い出すことはできない。


とりあえず上半身を起こしてみる。


「不気味だな………ここ」

この部屋をざっと見回した感想は、簡単に言えばその言葉通り。


白を基調とした広めの部屋。壁に向いているものと、中央に並べられた会議室のように並べられた机が目にとまる。


壁側の机には大量の本が積まれている。

壁側の机の間には棚があり、ファイルのような物と、薬品らしき物が置かれている。


なんか、シンプルすぎて怪しい感じがする。


──直感だが。


ふと、

「全く、失礼しちゃうなぁ。これ、僕好みの研究室なんだけど」

という声が聞こえた。

声の方を見ると、白衣をまとった男性が立っていた。


「じゃあ、あなたの好みはなかなか理解できませんよ……」

と言っておく。


「はは」

男性は少し笑う。愉快に。


さて、本題を問う。

「あの、ここ何処ですか?一体何でここに?」


「ん、あー。やっぱりそこ気になるよねー。えっと、ここは妖幻の研究室だよ。君は、妖幻という生物に襲われていたんだけど、草川夏美ちゃんって子がここに電話をしてくれてね。それで、我々の組織から、未来と香という子が君を救出した次第だ」


えっと……。


襲われて、夏美が発見して、電話して、助けてもらって、──研究室?何故、研究室なんだ?

まぁ、それは置いておくとしようか……。


「それは、どうもありがとうございました。──ところで、妖幻というのは……?」


「──妖幻は、記憶を喰べる生物。人間の姿をしている。記憶は、喰われると、その人の記憶から消える。そして、その妖幻に記憶が保存される」


そう言ったのは先の男性ではなかった。

静かで大人しそうな、落ち着いた女性の声。


研究室には三つほど、扉が存在する。そのうちの一つの扉の前には白衣の男性。それとは別の扉の前に女性が三人いた。

知らない女性が二人、一人は夏美だ。


夏美に声をかけようとするが、体の痛みがそれを阻んだ。


ぐっ、と胸が締め付けられるとともに、頭が痛くなったのだ。

原因は恐らくこの言葉。


『記憶を消す』『妖幻』


なんか、聞いたことがあるような、無いような。


「うっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


呼吸が荒く、速くなっていく。

頭を手で押さえつけ、痛みをまぎらわせようとする。


すると、白衣の男性の表示が明らかに変わった。


「ここまで強い反応か。やはり、『妖幻』に関する記憶を喰われた、という訳か……香、薬を」


「了解」


必死に、周りの状況を理解しようと目を凝らす。


冷静女性の立っていた場所の後ろには、同じ年くらいの少女が二人立って、こちらに視線を向けている。


先程の落ち着いた女性が、棚から錠剤のようなものを持ってきて、白衣男性に水と共に渡す。


白衣男性は、俺の上半身をベッドに押さえつける。

そして、肩を冷静女性が抑え、白衣男性が俺の口に錠剤と水を流し込む。飲むように促され、飲み込む。


物凄く眠くなる。

あり得ないくらい突然の眠気に、対抗できる訳もなく。

再び俺は眠りに落ちる。


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