第3話 始まっていたんだ→高校生活は!?その3


もう5時だというのに、窓からさしこむ光が異常に明るい。彼女は、俺が来たことにほっとした様子だった。


───ふと、廊下から夏美の声が聞こえてきた。


「もしもし!…………そうなんです!なるべく早く来てもらえますか?」


どこに電話したのだろうか……。


それはともかく、目の前のやつが問題だ。


「えっと……。君がさっきから呼んでたのか?」


恐る恐る質問してみる。


「そう。もう一人は?」


「さぁ……?何で?」


「別に」


さっきまでと違って、頭の中にまで響くことはなかった。


「……それで、呼んでたみたいだけど…何?」


ごくりと喉をならす。


「そのうち、分かる……。」


「!?」


背筋にすっと刺激が走った。彼女のオーラは異彩を放ち、全身の震えを呼び起こした。


逃げようかとドアに目を向けた。──が、結界によりドアは開かなそうだった。窓もである。


一体何が起きるんだ!?


そして彼女は、靴の音を響かせながら、こちらに近づいてくる。


「………っ」


切なげな表情をしながら。


『ドシッ』

「……っぐっはっ」


にぶい音。彼女は、女とは思えないほどの強い蹴りを一撃、俺に炸裂させた。


経験したことのない強い蹴りに、全身が悲鳴をあげる。お腹をおさえながら床に倒れこむ。

数秒すると、視界がぼやけ始め、意識がうやむやになってきた。


「こ……い…ん…よな…」


彼女が小声で呟いた。何て言ったのかはよく聞き取れなかった。


────


「んっ...あ?」


俺は目を開ける。パチパチと瞬きをするが、周りに景色といえる景色はない。あるのは暗闇のみ。出口も見当たらないし、壁もなさそうだ。


一応自分のところにはライトのようなものが当たっていて、少し明るい。劇のスポットライトのように一点に集中して明るい。


他に何かがあるかもしれないが、見える範囲内では何も無く、分からない。


「どこだよ、ここ...。誰かいませんかー?」


問いてはみたが、返事はない。


――夏美は何処だ!?


返事がないということは、ここにはいないということか?どうすればいいんだ...?とりあえず周辺を散策してみるか。


俺は立ち上がる。そして、数歩歩く――


「痛っ!?」


何かに当たった、のか...?学校の時と同じ壁っぽいな。

これじゃ全然動きがとれないじゃないか。いつまでぼーっとしてなきゃならんのだよ。


...まぁ、そんなに時間は無いかもしれないのだが。


俺はなんとなく、壁らしき物をじっと見つめてみる。歪み、コンクリのように固く、アニメ的に言えば『結界』。


アニメや漫画が好きだということもあってか、結界というのが一番格好いいと思うし、しっくりくる。


「――ん?」


暗闇だからだろうか。ふと、壁――もとい結界に色があることに気付いた。シャボン玉の色みたいに、形は一定に保たれず、カラフルな色が歪みながら波うっていく。


といっても、色は全体的に薄めだが。じっと見て、やっと分かるくらいのレベル。


マジで結界っぽくね?


そんなことを考えながら、時間を過ごした。三十分ほど経過したくらいだろうか。


さっき俺を蹴った少女が現れた。小さなブラックホールのような、円形の空間から、すっと出て来た。


「ん...起きていたか...普通だったら数日は昏睡状態だぞ」


「は!?どういうことだよ!?」


「お前は普通ではないということだ。なにせ...いや、この話はいいか。安心しろ、妖幻には性的な欲望は存在しない」


「そういうことじゃねぇし!ってか、妖幻って何だよ!?」


何だよ、こいつ。ってか、普通じゃないって...意味分かんね。


すると何故か、無意識的に俺は立ち上がり、呟いた。


「...父、さん...」


一瞬、父さんの口から血を吐き出す姿が浮かぶ。それは、何処か懐かしい公園で――。


まさか、な。


この記憶も不確かだし、その前後も思い出せないし――


「まずいッ!おい、川崎康也!思考を停止しろ!それは夢だったんだ!」


「ゆ、夢...か。夢夢...」


夢、かよ。随分と酷い夢だな。

なぜこいつが、夢だと知っていたのかは考えなかった。

本能的にも思考停止を喚起していた。


「仕方ない、もう一度...」


彼女はそう呟いてから、結界に手を触れた。


「溶、けたのか?」


溶けたみたいに結界は消えた。そのかわり、黒い地面からは鎖が出てきて、俺の手足を拘束する。立ったまま身動きがとれなくなる。


『ゴキッ』と鈍い音がした。鎖が消える。


「また、かよ...うぇ」


彼女はまた蹴った。さっきよりも強く。再び意識は遠のいていく。


      ★

【蹴り女(妖幻)side】



やっぱり、あいつに似ていると思う。顔が、というのもあるとしても、性格としゃべり方が似ている。


そして、私は川崎康也の記憶を喰う。


彼の頭に指を触れる。私は目を閉じ、『妖幻』という文字を強くイメージする。それから、流れてくる映像から妖幻に関するものを選択。SDカードのようなものとして出てきたそれが、記憶――情報――の塊。


それを、喰う。SDカード的な物は光を放ち始め、その光が口に入っていく。喰った記憶が頭に刻まれることを確認。


「これで終わ――――ッ!?」


『バリンッ』

「あちゃ、遅かったかーどーしよ」


ガラスが割れるような音と共に、二人の少女が見えた。


暗闇の異空間である、人間なら接触も発見も出来ないはずの空間を壊しやがった。


「どうやって来た?」


「うーん、そだねー。超能力かな☆」


「そう。その通り。ズバリその通り。素晴らしい能力。すごーい能力、使った」

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