ビーフシチュー
絵に描いたような<美女と野獣>カップルが道路の端でいちゃついてるのを、通りがかった人間達は、ある者は「何あれ」と嗤いながら、またある者は「チッ」と舌を鳴らしながら、次々と通り過ぎた。
「いつまでやっとるんだお前らは」
私が呆れて声を掛けると、
「あ、はい! そうですね……!」
と慌てて
対して
「あの…
私が立てておいてやった自転車に掴まりながら、玖島楓恋が心配そうに問い掛けてくる。あんな怪物がうろついているとなれば大変だと考えたのだろう。
こんな状況でも他人を心配するとか、どこまでもお人好しな奴だ。
そんな玖島楓恋に私は応えてやる。面倒だがな。
「あ~、それなら心配要らん。今度は
「そうですか。よかった……」
私の言葉に、ホッとした様子になる。
「だから後は好きにしろ。ただし、公序良俗に反するようなことしていれば、今度は人間相手にトラブルになるぞ。そこまでは私も面倒見きれん」
そう言い捨てて、私は自宅へと転移した。今、山下沙奈と夕食を食っていたところなのだ。早く戻らんと心配するからな。
「だって」
私の言葉を受けて、玖島楓恋は少し照れくさそうに微笑みながら貴志騨一成を見た。
「……」
で、貴志騨一成の方は、そんな玖島楓恋を見詰めている。仏頂面に見えて、実は本人としては穏やかな表情で。
玖島楓恋にはそれで通じるから、ことさら愛想良くする必要がないのだ。
そんな貴志騨一成の視線を受け止めつつ、
「あ、これ、さっき言ってた作り過ぎた夕食。ビーフシチューなんだけど、貴志騨くん、好きだよね」
自転車のカゴに入っていたタッパーを手に取り、差し出した。
「うん……」
やはり不愛想にも見える態度でタッパーを受け取った貴志騨一成だったものの、本当はニヤケ顔が止まらないくらいに喜んでいたのだがな。
まあ、このツラでニヤニヤしてるとそれこそ犯罪的な気持ち悪さだろうから、喜んでいるのが玖島楓恋にだけ伝わればそれでいいのか。
「家まで送る……」
自転車に乗り、自宅に戻ろうとする彼女にそう声を掛けたが、玖島楓恋は、
「ありがとう。でも自転車だったらすぐだから。じゃあ、またね」
と笑顔で言い残して去っていった。
そして、ビーフシチューを手にした貴志騨一成が自宅に戻り、それを一人で食ってしまったのは、言うまでもないだろう。
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