この五人しか
『あの黒い獣はどこに行ったんだろう……?』
起きているのか寝ているのか、自分でもよく分からない状態で、綾乃はそんなことを思っていた。
ここ数日、黒い獣が彼女達の前に姿を現すことがなかったからだ。
『いなくなってくれたんならいいんだけど……』
そんなことを考えながら頭を動かし視線を巡らせると、みほちゃんとエレーンとシェリーの姿がなかった。
「…え?」
ハッとなって体を起こそうとすると、ぐわっと景色が回り、上下の感覚が失われ、たまらない吐き気に襲われた。強い目眩だ。
「……う…く……」
それらを辛うじて抑え、固まったかのようにじっとしてやり過ごす。
しばらくしてようやく収まってきたところで今度は様子を窺いながら慎重に体を起こした。
すると、テントの出入り口が開いて、
「あ、ママ! ちゃんとねてなきゃダメだよ!」
と声を掛けられた。みほちゃんだった。
するとみほちゃんの背後からエレーンとシェリーもテントを覗き込み、
「アヤノ、ミホの言う通りだよ。もっとゆっくり休んでて」
「アヤノ、ネテテ…!」
と声を掛けてくる。その手には缶詰やレトルト食品が抱きかかえられている。
「アヤノ、無理するナ。お前は一人で頑張りスぎだ。私達はチームだ。仲間を信じろ」
アリーネの姿もある。その顔はすっかり以前の精悍なそれに戻っていた。
「私も迷惑をかけてしまったけど、もう大丈夫。任せてくれ」
力を感じる声でそう言われて、逆に綾乃は体から力が抜けていくのを感じた。崩れ落ちるように布団に横たわり、心配そうに自分を見詰める四人を見詰め返す。
「わたしもちゃんとおしごとできたよ。わたしもがんばるよ。だからママはねてて」
みほちゃんが小さな手にいっぱい抱えた缶詰を綾乃に見せながら自慢げに言った。綾乃が寝ている間に、四人で食料品や飲料水を回収し、風呂用の水などに使えそうな近所の学校のプールを確認し、それを誰がどうやって運ぶかなどを決めてきたのだ。
五人で力を合わせて生き抜く為に。
そして綾乃は気付かされた。自分がいかにみほちゃん達を見くびっていたのかを。子供だと思ってただただ自分が一方的に守らなくちゃいけないだけの存在だと思い込んでいたのかを。
確かに子供を守るのは大人の役目かもしれないけれど、子供だって自分にできることはやりたいと思っていたりもするのだ。なのに大人は、そのフォローが面倒だからとやらせなかったりする。
けれど今は、この五人しかいない。たとえ子供でも、本人がやると言っているのなら、できる範囲のことであれば、してもらってもバチは当たらないだろう。
「みほちゃん……みんな……」
声にならない声を上げた綾乃の目に、涙が光っていたのだった。
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