報復攻撃

要するに、彼が心配性なだけなのだろう。


軍人の、いや、既に彼女が所属していたアメリカ海軍は<軍>としての機能は失われていたので、元軍人ということにはなるのだろうが、アリーネがいればサバイバル生活には何の心配もないと思われる。


当のアリーネも、ほぼ復活したようだし。


ちなみに、世界中の軍隊も、地下に施設が設けられていた基地などでは生存者もいたものの、指揮系統が完全に破壊されたために現状を把握することに全精力を費やしている状態だった。


もっともそれさえ、地上設備は完膚なきまでに破壊されていたこともあって、遅々として進まない状態だったが。


神河内錬治かみこうちれんじが案じたように、『敵国からの攻撃を受けたのでは?』との憶測も飛び交ったところもあったのは事実でも、それにしてもあまりにも状況が異常過ぎるということで、逆に冷静になったようだ。


それでも一部の国では報復攻撃を行おうとしたところもあったものの、実際には既にそのための施設が機能せずに未遂に終わっているし、例外的にミサイルなどの発射に成功した事例も、当のミサイルそのものが不具合を起こして墜落するという有様だった。


つまり、確実に動作する高性能なミサイルなどを完璧に整備できるほどのしっかりした軍事力を持った国の軍隊は冷静に状況把握に努め、それができないような脆弱な体制の軍は報復攻撃に踏み切ろうとしたものの殆どが失敗に終わったということである。


なお、海中に潜航中だった潜水艦、および宇宙ステーションや人工衛星なども無事だったが、人工衛星が無事だったことで軍用の衛星通信の一部が機能したことも、冷静さを保つことに一役買ったようだ。


なにしろ、そのおかげで、敵と想定していた国の方もほぼ機能を失っていることが分かったのだから。


つまり、今回のこれが<攻撃>だとしても、敵として想定していた相手側も同じような被害を受けていると判断できる以上は、まったく別の勢力からの攻撃であると見做すのが相応だという判断だったようだ。


もっとも、それが果たして何者の攻撃であったのかを知ることができた勢力は一つとしてなかったが。


故に、時間の経過と共にこれは未知の自然現象による<災害>との認識も広まっていったのだった。


いずれにせよ、幸か不幸かすぐさま戦争状態に入るようなことはなかったのである。


まあ、戦争などしようにも、災害発生時点で生き残った人間は、全人口約百億人中の僅か三億人程度。


人員も装備も指揮系統もない状態で戦争をするほど、今の人間の多くは無謀でもなかったということだ。


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