これを最後に
まるで絵に描いたような『五人の結束が強まる』という光景だったけれど、これも結局、危機的な状況を生き延びる為の本能的な反応なのだろう。
となれば、厳しい状況に置かれれば助け合うことでしか生き延びる術を持たない、非力な<普通の人間>は、生きる為に互いを利用し合うという形を取ろうとするのだと思われる。
もっともそれも、それなりに『この相手ならと思える』という前提があってのことだろうが。
元々、アリーネと綾乃の間では、多少の反発もありつつも、決して歩み寄りが不可能なほどの乖離じゃなかった。
それに、こういう時には小賢しい理屈は抜きで助け合った方がいいのは自明の理というものだ。
ただ、人間というのは、『そうした方がいい』と分かっていてもその通りにできないことも多い生き物でもある。
その点でも、決定的に破綻した関係でなかったことは幸いだった。
これは、
そんな彼女達の様子を、彼は、彼女達はからは決して見えない場所から、上空数千メートルから見守っていた。触角で探知できる情報を総合的に処理することで、ほとんど目で見るのと変わらない形で<見る>ことができるのだ。
『良かった…』
そう思いつつ、しかしあまり長く見ていることはしない。でないと、『彼女達を食いたい』という欲求が抑えきれなくなりそうだったから。
そして、どうやら彼女達が自分の力で生きていってくれそうだと確認できたことで、彼は最後の決心をすることができた。
『いよいよだな……』
それは、もう既に以前から考えていたことだった。決心がつかず先延ばしにしてきただけだ。
その決心を胸に、彼は地上へ向かって走る。実行に移す為に。
『おそらく、これで最後になる。
これを最後に、僕はもう、完全に怪物になるだろう……
神河内錬治としての記憶も、彼方へと押しやってしまうだろうな……
だから……』
翌日、心の重荷を少し下ろすことができた綾乃は、どこか晴れやかな表情で、みほちゃんと一緒に食料の回収と、自分の目で周囲の状況の確認をするために、歩いていた。
昨夜は久しぶりにゆっくり眠ることができたので、足取りも軽い。
「天気もいいし、ちょっと遠くまで行ってみようか?」
綾乃がそう声を掛けると、みほちゃんは、
「うん!」
と元気よく返事をした。
周囲については、アリーネが既に何度も索敵を行い、大きな危険がないことは確認していた。
だから、今後、あの黒い獣に頼らずに自分達で生きていくために手順を確かめる目的もあったのだった。
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