悪辣
『こりゃ何か起こるな…』
そんな風に思いつつも特に何をするでもなく捨て置いた私だったが、だからこそ騒ぎを大きくするのもつまらんし、月城こよみらには気付かれんように軽く認識阻害を掛けてやっていた。でないとどうせまた、余計なお節介をするのは目に見えている。
これはあくまで、新伊崎千晶の問題だ。今となっては人間では太刀打ちできん力を持っている以上、この程度のことは自分で解決してもらわんと話にならん。
しかしそれはさておいても、この
しかも自身では手を下さず、陰で噂を流したり誘導したりして、それぞれをいがみ合わせるように仕向けていく……
って、それは完全に、新伊崎千晶が、
なるほど、こいつは同族嫌悪とかいうやつかも知れんな。自分と似た人間故に無意識のレベルで嫌っているのだろう。
その手始めとして、
『新伊崎千晶が裏で
という噂を流したようだった。
が、今の赤島出姫織がそんなものを真に受ける筈もなく、
「くだらない……」
と一笑に付されあえなく失敗。同様に、新伊崎千晶が比較的近くにいることが多い、月城こよみ、黄三縞亜蓮、碧空寺由紀嘉や、自然科学部の他の部員に対しても陰で悪口を言っているというというような工作も行ったようである。
だがまあ、今のこいつらの繋がりの前にはさざ波程度の効果もなかったがな。こいつらはもう既にそんな程度のことを遥かに超越した部分で繋がっているのだ。今さらその程度の噂を真に受けるほど稚拙でもない。
「千晶、あなたがこんなこと言ってるっていう話があったんだけど?」
と軽く訊かれ、新伊崎千晶も、
「知らない。言ってない」
ときっぱりと応えれば、
「だよね~」
で笑って受け流されてしまう状態であった。もはや嘘も誤魔化しも必要ないのだからな。
「なんで…? どうして……?」
紫崎麗美阿はそれがまた気に入らんかったようだ。こいつからは新伊崎千晶がそれ程の人間には到底思えず、その程度の人間がそんなに信頼されていることが納得できず承服できなかったらしい。
なにしろ、こいつの周囲ではそんな噂が立とうものなら双方共に疑心暗鬼に陥り、いがみ合うのが当然で、人間とはそういうものだというのが常識だったために、ますます拗らせていったのである。
いやはや、面倒臭い奴だ。
もっとも、当の新伊崎千晶が意にも介していないので問題ですらないが。
だがこの手の奴はそういう器の違いを見せ付けられるとそれがまた感情を拗らせる原因にもなるので、始末に負えないというものだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます