三学期の章

意趣返し

正月も過ぎて冬休みも終わり、三学期が始まった。


月城こよみらは私の家で宿題も早々に終わらせていたから、皆、晴れ晴れとした顔で登校してきている。


まあそれはいいとして、実は、山下沙奈の母親とその内縁の夫と客の男には、それぞれ有罪判決が下され、三人とも現在控訴中だった。しかも、山下沙奈に乱暴を働いた奴が他にも逮捕されている。そいつらにも順次、法の裁きが下るだろう。それはそれで結構なことだ。


ただ、こういう形で続報が出る度に、山下沙奈が何をされてきたのかということはどうしても話題に上ってしまう。本人は私の庇護の下で、月城こよみらの助けもあり、直接的なイジメなどの被害には遭わずに済んでいるが、それでも陰口などはもはや日常茶飯事となってしまっていた。


女子トイレなどでの、


「六組のサナコって、サセコのクセにぶっちゃって何様って感じよね」


「そうそう、私はこんなに可哀想な女の子なんです~アピールがウザいウザい。どうせ自分も楽しんでたんでしょ?」


「でも男子ってそういうのを真に受けるんだから、ほんっとバカだよね~」


などという会話は、聞こえない日がないくらいだった。どれほどコソコソしたところで、私がその気になれば全部筒抜けなんだがな。


しかし、山下沙奈自身に、


「何か対処してもらいたいことはあるか?」


と尋ねても、こいつはただ首を横に振るだけだ。


むしろ私がそういう連中に折檻を加えるようなことをしてほしくないと思っているらしい。


故に私も、特に構うでもなくスルーしていたのだ。




しかしそんな中で、新伊崎千晶にいざきちあきだけが、


「あんたら、本当に何も分かってないんだね。そういうのが自分をクズに変えていくんだってことも…」


とか言ったりしてたらしい。まあ、新伊崎千晶が何をしてたかと知ってる人間からすれば『おまいう』とか言われるやつだが、こいつがどれほど変わったかを知ってればまた印象が変わるだろう。何しろ体験談そのものだし。


さりとて、言われた方が皆それで納得するかと言えばそんな訳も当然なく、逆に新伊崎千晶に対して反発を覚える者もいたりするのだった。


それについては放っておいたところでただの人間が千人束になろうが今のあいつに敵う筈もないし、新伊崎千晶自身もそれを自覚しているから相手にもしていなかったが、身の程を知らん奴というのもどこにでもいる。


一年三組の紫崎麗美阿しざきれみあもその一人だ。どうやらこいつ、新伊崎千晶本人のことが気に入らんらしい。何故か分からんがとにかく気に入らんようだ。しかも表立って反発する訳じゃないが、内心では相当溜め込んでるな。


『こりゃ何か起こるな…』


と思いつつ、私はその様子を見ていたのだった。


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