負け犬の馴れ合い
月城こよみも
実に困った奴らだよ。
それにしても、サタニキール=ヴェルナギュアヌェが出てくるとは、奴らの悪因縁もむしろ大したものだという気がするな。
サタニキール=ヴェルナギュアヌェは、人間共が<サタン>と呼ぶだけあって、人間を堕落させ怠惰で享楽的に貶めることそのものを餌にしている化生だ。他の惑星ではその星すべての人間を堕落させ緩慢な死を迎えさせ滅ぼしたこともある。
だが、今回の奴は、人間が限度を超えて怠惰になることを私が望んでないことを承知していて、あまり大規模にはやらないようにしていたようだ。
ならばなぜこんなに私がいる近くでやってたのかと疑問に思うかも知れんが、私にとってはこの地球上であれば、それがどこであろうが関係ない。気に障りさえしなければ隣で何をやっていても興味も持たんし、逆に無視できぬレベルで余計な真似をしていればたとえ地球の反対側にいようとも捻り潰すだけだ。私は身勝手なのだ。
私がそんなことを考えていると、月城こよみと肥土透と黄三縞亜蓮の三人は、今日も、
「カラオケに行ってくるからね~」
と言って出て行った。その姿がまた、友達と言うよりもまるで仲の良い家族のようにも見えて、私は思わず苦笑いをしていた。
「お茶にしますか?」
二人きりになり、静かになったリビングで山下沙奈が私に問うてきた。
「そうだな。頼む」
と答えた私の為に、彼女は紅茶を入れ始めた。その姿を見詰めていると、ある考えが私の頭をよぎる。
『私がこうなってしまったのは、もしやこいつが原因か…?』
こうなってしまった。つまり、俗っぽくなってしまったのは、山下沙奈の影響によるものかも知れないと私は思ったのだ。
そう、以前にも触れたが、こいつは<特異点>だ。人間でありながら私のような超越者の因果律にも影響を与えうる特殊な存在なのである。こいつと関わってしまったことで、私は変化させられているかもしれないということだ。
本来なら、人間に影響を受けているなどそれこそ業腹な話なのだが、何故かこの時の私はあまりそう感じなかった。これはこれで悪くないかも知れんと思ってしまったのだ。
それに、もし影響が事実だとしても、そのこと自体は一時的なものだ。こいつが人間としての寿命を終えて私の前からいなくなれば、いずれまたその影響も失われ元に戻っていく。いや、元に戻るというのはおかしいか。また次の私へと変化していくというべきかも知れん。
ショ=クォ=ヨ=ムイと別れた頃の私と今の私とが違っているように、私も常に変化しているのである。だから山下沙奈の影響を受けて俗っぽくなってしまったとしても、それはあくまで変化していく私の一態様にしか過ぎん。ましてや彼女が生きている間の話となれば、それこそ一瞬のことでしかない。さほどムキになる必要もないということだ。
なるほど。だから碧空寺由紀嘉のことが気になってしまったというのもあるのかも知れんな。まあ、それならそれで構わんか。
『よし、そういうことならもう少し付き合ってやるとしよう』
以前の私なら考えもしなかったことを思いつつ、私は山下沙奈が淹れてくれた紅茶を味わった。
そんな私を、彼女は穏やかに見詰めていたのだった。
とは言え、こんな呑気に人間共の家族ごっこをただ見守ってるというのもやはり性に合わんからな。
山下沙奈、新伊崎千晶、千歳らと一緒の夕食を終え、風呂に入った後、私は再び女子高生としての私の<影>を作り、外出していた。今回は私の本体の方にも意識を残して、もし何かあってもすぐに本体の方で対処できるようにしている。
またちゃんとした体を作ってもう一人の私を作っても良かったのだが、実は時間はさほどかからないものの手間は結構かかるのだ。いつでもどこでもいくらでも同時に存在できるのは事実でも、あくまでその手間を代償として払えばのことである。それに比べれば、力は髪の毛一本分程度しかなくとも影の方が簡単に作れるので手軽という訳だ。
もっとも、それとて手間は必要なので、気が向かないと作ろうとも思わんのだがな。
その点で言えば、昨日、この影の体で存分に力を振るったことが割と気持ち良かったというのもある。思い切り体を動かしたかったにも拘わらず残念な最期を迎えたことが、やはりどこか心残りになっていたのだろう。そういうことを考えるようになったという点自体が、山下沙奈の影響だとも言えるかも知れんが。
とにかく、夜道を歩きながらその辺の無線LANの電波を拾いネットワークに侵入、
「石脇佑香、碧空寺由紀嘉が今どうしているか、ネットから探れるか?」
その問い掛けに、石脇佑香は即座に応えた。
『今は自宅にいるみたいですね~。昨日の件であの店が潰れたって、ネットでぶーたれてます』
ほお? 私に目をつけられたということで根城を替えたか? まあいい。碧空寺由紀嘉が家にいるのならこのまま……
と思ったその時、石脇佑香が声を発した。
『古塩貴生から碧空寺由紀嘉宛てにメッセージが届きました。今から会えないかということです。即OKしましたね。さっそく家を抜け出しました。他の家族は家にいないようです』
もう八時も過ぎてるというのにか。やれやれ。中学生の分際で。
などと年寄り臭いことを考えつつ、私は碧空寺由紀嘉の気配を捉えて空間を超越する。居場所だけならそれで分かるのだがな。
しかし自転車に乗ってるらしく、結構な速度で移動中だ。そこで私は髪を四枚の黒い羽根に変え、宙に舞い上がった。気配のする方へと飛ぶと、すぐに本人の姿も確認できた。夜道を無灯火のまま自転車で走っている。それを上空から見ていると、やがてあるマンションの敷地内へと入っていった。
そこの駐輪場に自転車を停め、エントランスのインターホンを押す。そこから「入れよ」と聞こえてきたのは古塩貴生の声だった。相変わらずの態度だが、自分がどれほど落ちぶれたのかも理解できんか。
私は認識阻害を使い気配を消して碧空寺由紀嘉について行った。するとある部屋の前に立ち、インターホンを押すと鍵が開けられた。ドアの向こうには、全裸の古塩貴生が立っていた。
『って、全裸待機かよ!?』
…まあそれはいい。
だが、昨日見た時も感じたが、こいつ、すっかり精彩を失ったな。体も筋肉が落ち、以前に比べると明らかに締まりがなくなった。それでも、鍛えてすらいない奴らに比べれば十分に引き締まって見えるだろうが。
「脱げよ」
碧空寺由紀嘉が部屋に入るなり、古塩貴生がそう命じた。
「え? でも、シャワー浴びなきゃ…」
と戸惑う碧空寺由紀嘉の言葉には耳を貸さずさらに命じる。
「いいから脱げって言ってんだよ。俺が使ってやるって言ってんだからありがたく従え!」
だと。私がすぐ傍で見ているとも知らずに不様な奴だ。それでももじもじとしている碧空寺由紀嘉の体を掴んでベッドに突き飛ばし、露わになった下着を乱暴にはぎ取って、ベッドの脇に落ちていたボトルを拾って中の液体を手に取り、それを碧空寺由紀嘉の股間と自分の一物に塗りたくって、前置きもなくねじ込んだ。
「い、った…!」
いくらローションを使っていると言ってもさすがにここまでいきなりでは痛みもあるだろう。だが、古塩貴生はそんなことには全く構うことなく、まだまだ未熟な幼い尻に、乱暴に腰を打ち付けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます