失敗

父親の行為が終わりシャワーを浴びて出たところに、ちょうど母親がパートから帰ってきた。


『ただいま』の一言もなく、鉢合わせた全裸の娘に対して母親の視線はまるで汚いものでも見るかのように嫌悪感をまるで隠そうとしない冷徹なものだった。


しかも……


「まったく…その歳でよくそこまでメスの顔ができるね……さすが血は争えないってことかしら……」


と、冷たく吐き捨てるようにそんな言葉まで幼い娘に浴びせた。


この時の母親は、自分の母親、つまり明花さやかにとっては祖母に当たる女性のことを思い浮かべていたようだ。


明花さやかの祖母は、<母親>にはなれない女性だった。男に依存し、男に必要とされてないと自我が保てないタイプの女性だった。だから明花さやかの母親は、母親にまともに育ててもらっていなかった。その所為もあって、母親としてどう子供に接すればいいのか分からなかったというのもあったのだろう。


男をとっかえひっかえしていた自分の母親を反面教師として、それなりに値打ち物と思った男を捉まえてその男で満足するようにしてはいたのだが、結局、男を見る目はなかったのだと思われた。


それでも、自分の母親と同じ轍は踏みたくないと我慢してきたものの、家庭という形を取り繕うだけで手一杯で、自分の子供の心まで気遣う余裕はなかったようだ。


実の父親に性の玩具として弄ばれ、実の母親からは十歳にも満たない子供のクセに男を誘惑する魔性と見下され、明花さやかの心は寄る辺を失っていった。


十一歳の誕生日には『プレゼント』と称し実の父親のモノを体の奥深くにまで捻じ込まれ、さらに初潮さえ訪れていなかった幼い体に精を注がれもした。


いっそ、そういうものだと受け入れて楽しんでしまえれば楽にもなれたのかもしれない。だが、明花さやかにはそれができなかった。どうしてもそれを正しいものとして受け入れることができなかった。


父親のモノを初めて受け入れさせられてしまった日の夜。明花さやかは自分の小遣いで買ってきたカミソリで自分の手首を切った。


鋭い痛みと真っ赤な血が彼女の心を鷲掴みにした。何もかもが曖昧で歪んで見えていた彼女の視界と感覚に、強烈な覚醒をもたらしてくれた。世界が一気に拓けていくようにさえ思えた。それを最後の記憶として、彼女はゴミのような自分の人生を終わらせることを望んだのだった。


だが、湯船の中で再び目覚めた時、手首から滴っていた筈の血は止まり、明花さやかは自分が失敗したのだということを思い知らされたのだった。


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