価値観
自殺に失敗した
『私は、死ぬこともできないんだ……』
こうして彼女は、何もかもを諦めて、流されるままに生きることを受け入れたのだった。
が、そんな彼女の境遇が一変する出来事が起こった。ある日彼女が学校から帰ってくると、父親が居間で倒れていた。
それは、一目見ただけでもただならぬことが起きているのが分かる様子だった。
一体、どんな恐ろしいものを見ればこんな
警察も来て現場検証を行ったが、結局、何が起こったのか判然とはせず、しかし何者かの関与を窺わせる物証も状況証拠も得られず、検死においても突然心停止したという以外の所見も得られず、結果としては<病死>として処理されることになったのだという。
しかし、それによって恩恵を得たのは、残された母娘だった。
母親が父親に生命保険を掛けていたことで保険金が入り、しかも母親のパート先の常連客だった銀行員の男性との再婚が決まり、母娘の生活環境は一変した。
それまでの爪に火を点すような倹約倹約の生活から、高級レストランでランチを気軽にとれるようになり、洋服やアクセサリーも我慢することなく好きなものが買え、母娘はその夢のような生活に酔いしれた。
ただ、そんな<棚からぼた餅>のような生活は長くは続かず、
この時には
そしてこれらの経験は
『人間は信用できない。信じられるのは<お金>だけだ』
という、先鋭化した価値観だった。
だから
『私は、母親のような失敗はしない。今度こそ満たされた生活を失ったりしない。必ず上手くやってみせる』
だが彼女は根本的に欠落した人間となっていた。
『子を愛する』ということができない人間になっていたのである。
しかしそれも、子を持たなければそんなに大きな問題にはならなかったかもしれない。
が、体裁を重視した彼女と夫は、打算的な理由から子を生してしまったのだった。
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