本当にヤバイ

エルディミアンにしてみればあくまで意趣返しのつもりだったんだろうが、そもそも人間の記憶さえ操作できる月城こよみに対してやるにはやや詰めが甘かったな。


もっとも、いくら後から記憶を操作できようと、誰も覚えてなかろうと、『その時点で誰かに見られた』という事実は本人の中ではなくならん訳で、そういう意味ではなるほど道理に適った方法かもしれん。


しかし、私達の前に現れたのは、けしからん乳をした、<歩く猥褻物>とでも言うべきウサギ女に変じながらもそれをまるで意に介していない玖島楓恋くじまかれんだった。


ふむ。こいつまで巻き込まれてるとなると、必ずしも月城こよみが目的とは限らんかもしれん。むしろ月城こよみについては『ついで』だった可能性があるな。


まあそれはさておき、あんまりにも堂々としてるから何か普通にも見えてしまうが、玖島楓恋の姿は本当にヤバイぞ。なにしろ、その後ろを、顔を真っ赤にして思春期の情念を滾らせまくった男子生徒がぞろぞろとついてきてるんだからな。


しかも、人気のないところに玖島楓恋が入ろうものならそのまま押し倒しかねんほどにグラグラと煮え滾ってる状態だ。


無理もないか。いくら毛皮に覆われていても、実際にはただの幻覚と同じものでも、パッと見には裸同然なんだからな。それでこれだけ堂々とできるとは、こいつ、疎いにもほどがある。


こうなると、もう、放ってはおけなかった。私と月城こよみだけなら隠密行動も可能だが、どうやらそれどころじゃなさそうだ。


「ああもう! 玖島先輩まで巻き込むとか…!」


無神経なまでにお人好しで、お節介焼きで、たまにその所為でイラっとすることはあっても、月城こよみも玖島楓恋のことは嫌いではなかった。むしろ、自分の母親からはまったく感じ取れない母性には惹かれるものも感じていた。それが男子生徒共(いや、よく見ると男子生徒と変わらんギラギラした視線を送る女子生徒もちらほらといるが)の欲望の的にされているのだから、黙ってはいられない。


「あ、先輩! 先輩も参加してたんですか?」


床に降り立ち、シレっとした顔で声を掛ける。『玖島先輩一人に恥をかかせられない!』との想いからだった。


お前も大概、お人よしだよ。月城こよみ。


突然現れたさらなるケモケモ少女に、男子生徒(一部女子生徒も含む)が「おお~っ!」とどよめいた。スタイル自体は平凡でも、玖島楓恋のそれより毛足が短くさらに体のシルエットがはっきりと分かってしまうからだろう。


が、同時に現れた、まるで刃物でできた鎧でも着込んでいるかのような私の姿には、明らかに引いているものも少なくなかったがな。


それでも、さすがに私と月城こよみとが同一人物だと気付いた者はいないようであった。


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