愛ゆえに… その3

夢の中では私は<人形>になってるみたいだから、話しかけたりはできない。でも、少しずつ動くことならできて、そうやってゆっくりと、じりじりと、真綿で首を締めるように、恐怖に歪む顔を堪能しながら近付いて行けた。


ああ、楽しい。


彼につきまとうクソ女も同じだった。


「なに? なんなの?」


とか、怯えたその顔が最高にブッサイクで笑える。


喋れないけど、


『彼に近付かないで。彼は迷惑してるんだから』


って念だけは送ってやった。


学校での様子も、すごくやつれた顔になってて、それでも彼につきまとって、だけど彼は優しいから、


「大丈夫? 体調悪い?」


とか気遣ってあげてた。


いいんだよ。そんな女のことなんて気遣わなくて。もうすぐいなくなるんだから。


そして毎晩毎晩、私はその女に近付いていった。


なのに……


「妙な気配がすると思ったら、ワヌゥラフリヌィヘか。まったく。貴様ごときに手間をかけるとは、私も落ちぶれたものだな」


とか、さっきまで恐怖にひきつった顔をしてたあの女が面倒臭そうにぼりぼりと頭を掻いて…


って、あの女じゃない? 誰なの?


「誰も何も、私だ私。クォ=ヨ=ムィだ。しっかりしろ。なんでこんな奴に憑かれてる? 月城こよみ」


……はい?


「ワヌゥラフリヌィヘごとき下らん夢魔に憑かれてるんじゃない。今日から夏休みだろうが。確かにお前が見ているその記憶は、かつて人間として転生を繰り返していた私の記憶の一部だが、お前、<月城こよみ>のものじゃない」


…え? …え?


……あ、そうか……


とその瞬間、私の意識はふわあっと浮き上がるような感覚にとらわれていった。


それと同時に、<正しい記憶>が再構成されていくのを感じる。


そうだ。私の名前は月城こよみ。吉泉きっせん中学校の二年生。お弁当を作ってあげたりするほどの好きな人も彼氏もいない。


で、自然科学部の部室で一人、居眠りをしてた自分に気付いた。


ガバリと体を起こした私の前には、もう一人の私。いや、クォ=ヨ=ムイが。


「いくら<もう一人の私>がほぼ消失したからといって、ワヌゥラフリヌィヘごとき小物に憑かれるとは、心底情けないぞ」


やれやれと頭を振りながら肩をすくめる彼女に、


「だって、面白いホラー小説見付けて朝方まで一気に読んじゃったんだもん」


って応える。


でも、なんて言うか、


『夢オチなんてサイテー!!』


って気分だよね。


「まあ、ワヌゥラフリヌィヘは、憑いた人間が心の中で無意識に願ってる願望を夢の中で叶えてその喜びを食う夢魔の一種だ。大して害もないし、人間で言えばちょっと風邪をひいた程度のことだから気にする必要もないといえばないんだがな。


あと、ちなみにだが、お前の夢に出てきた男と女は、代田真登美しろたまとみの両親だぞ。父親の方の苗字が違ってたのは父親の母親が再婚したからだな」


…はい? って、えええええ!?


……意外なところで因縁があったんだね。


それにしても、愛ゆえの怨念か。


私にはまだ理解できない感覚だな。


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