息抜き

夏休みに入って、月城こよみが家で両親と一緒にいるのを疎んで部室に居眠りをしに来た以外は、部活で来る連中以外は生徒もおらず、しかもこの棟にある部室はほとんど文科系のそれであまり夏休み中まで積極的に活動する部も多くないので、実に静かだった。


グランドで体育系の部活の連中がワイワイやっているくらいだ。


と思ったら、


「プール、プールぅと」


そんな風に声を上げながら現れたのは月城こよみだった。続いて、代田真登美しろたまとみ玖島楓恋くじまかれんがやってくる。


『ああ、プール開放日か』


私が月城こよみの意識に直接話しかけると、


『そうそう。女子更衣室が陸上部とかの着替えで混んでるから部室で着替えようと思ってね』


だと。


呑気な奴らだ。


まあいい。好きにしろ。


私は認識阻害を掛けて月城こよみ以外の人間からは見えない状態で、自然科学部の部室に<住んで>いた。


というのも、月城こよみが本人として、両親が戻ってきた家に帰ったから、私の<家>が無くなってしまったのだ。


こうして認識阻害を掛けた状態で帰れば両親にはバレんだろうが、そういう形で自分の家に帰るというのもなんだかなあという気分だったからな。そのまま学校に居着いてしまったのだ。


しかし、


「ねえ、なんだか私達以外の人の気配がしない?」


などと、代田真登美が言い出した。こいつ、妙なところで勘が良い。


「そうですか? 気のせいですよ」


私がいることを知りながら、月城こよみはそう言ってとぼける、もっとも、こいつが言ってることも実は<嘘>ではない。今の私は<人>ではないからな。『他に人はいない』という意味では間違ってないのだ。


「…そうね。確かにいないもんね」


カーテンを閉め切った部室を見回して安心したように代田真登美が言って、服を脱ぎ始める。


玖島楓恋は暴力的とさえ言えるそのダイナマイツ!なボディを惜しみなく晒しながら着替えた。こいつ、こういうセックスアピールの権化のような体をしているクセに性的なことについては疎いらしく、それがまた<隙>を生んで健康的な男子を惑わせるのだ。


ある意味では、ナチュラル・ハニートラップとでも言うべき存在だな。


それに比べると大人しいものかもしれないが、代田真登美は年齢の割にはどこか大人びた雰囲気を持ち、スタイルそのものはこれと言って抜きんでた印象は抱かせないものの、ほのかな色香を放っているのも事実だった。


しかも、玖島楓恋ほどではないが穏やかで緩い雰囲気もあるので、甘えたら受け入れてくれそうな錯覚を相手に与えるという面もある。


<大人のお姉さん>的な存在か。


が、月城こよみについては、二人に比べるとこれまた特筆すべき点がまるでない、実に華のない体なんだよな。


『って、ほっとけ! あんたも同じでしょうが!!』


私と意識が繋がった月城こよみが、牙でも剥き出しそうな勢いで感情をぶつけてきたのだった。


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