愛ゆえに… その2
私がその<力>に気付いたのは、小学校六年に上がる少し前だった。私を<
毎晩、夢に兄が出てくるんだけど、だけど兄は私を見て恐怖に引きつった顔をするだけだった。しかも、その兄の顔が夢を見るごとに近付いてくる。
いや、私の方が兄に近付いて行ってるのか。
なのに兄は、いつも私にしてるみたいに体を押さえ付けて弄ってきたりしない。それどころか後ずさって逃げようとすらする。なのに体が動かないみたいでほとんど逃げることもできないみたい。
そんな兄の姿を見るのが嬉しくて、私はその夢を楽しみにしていた。兄に体を弄ばれながらも。
そして兄はみるみるやつれていった。
兄が言う。
「毎日毎日、夢の中に気持ち悪い人形が出てきて寝られないんだ。お前によく似た気持ち悪い人形がよ! お前、何かしてんのか!?」
その言葉を聞いて私はピンときた。兄は私と同じ夢を、ううん、『同じ』というのはちょっと違うかな。<視点>が違うんだ。私が見てる夢は私視点だけど、兄が見てるのは兄視点の夢なんだろう。しかも、夢の中の私は人形になってるんだって気付いた。
そうこうしてるうちにも兄の姿は明らかにおかしくなっていって、両親は病院にも連れて行ったけど、原因はまったく不明。
「ストレスによる精神的なものかも知れませんね」
とか言われて心療内科にかかったのにやっぱり良くならなくて、その間にも夢の中では私と兄の距離はどんどん近付いていって、とうとう、人形になって小さくなった私の手でも届く距離になった朝、兄はもう目覚めることがなかった。
その時の兄の顔ったら、今でも思い出す度に笑えてきちゃう。最後には泣きながら、
「助けて…」
だって。
うふふふふ。
あはははは。
いい気味。
だけどもしそれだけだったらただの偶然だったかもしれない。でもその後、私が、
『こいつは許せない』
と思った相手が夢に出てきて、兄と同じように触れられそうなほど近付いたらその朝には死んでたってことが二度もあったんだ。
一人は、依怙贔屓がひどくてみんなから嫌われてた教師。
もう一人は、家がヤクザだってことで誰も逆らえないからって好き勝手してた同じ学校の女子生徒。
こんな偶然、ある訳ない。
私が<良い子>だから、きっと神様が悪い奴を懲らしめる為の<力>を授けてくれたんだと思った。
それに気付いてから、私はすごく気持ちに余裕ができたと思う。だから爪を噛む癖も治まったんだろうな。なのに今度は、私の大切な人に付きまとうストーカークソ女が現れたんだ。
これはもう、私のあの<力>で<神罰>を与えてやらないといけない。
そして私は、あの女の夢の中に現れたのだった。
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