第36話 氷狼の唸り声
俺は、最初のヴォルグレイを探す為に、氷山へ向かった。
しかし、あまりの異常な寒さで、俺は完全凍結し、意識を失った。
眼が覚めると、そこは見知らぬ天井に、全体が木で作られた部屋に居た。
部屋には二段ベットが二つ置いてあり、一つだけある窓からは、外の景色すらまともに見えない程の吹雪と霧しか見えなかった。
「俺、生きてる!?此処は何処だ!?」
部屋には俺一人しか居なかったので、此処に寝ていた者はもう起きたのだろうか。
俺はとりあえず、ゆっくりと起き上がり、部屋を出た。
部屋を出ると、また木で出来た廊下が続いており、同時に隣の部屋の扉が開いた。
「あーあ、今日も吹雪は荒いなぁ」
「誰お前?」
「お?新入りか?俺はケイト。お前は?」
「俺は魔王だ。此処は何処なんだ?」
「此処は氷山の小屋。正直、氷山の何処あたりなんて分からん」
「へぇ〜......そうだ!俺は、氷山の中で凍って目を覚ましたら此処に居たんだ!どうなってんだ?」
「此処はそういう感じに遭難したり、凍っちまった奴らが運ばれてくる場所だ。小屋の位置すら分からねぇから、外にも容易に出られねえんだ。お前は何で氷山に来たんだ?」
「此処で俺のペットが居なくなっちまったんだ。大きさはそこの氷山山頂に丁度乗っかるくらいかな?」
「おおう......結構でけぇな......。因みに俺は、氷探ししてたら、いつの間に氷山の一部になってたんだ」
俺とケイトがそう話していると、此処の家の主と思われる、お爺さんが来た。
「おぉ、目覚めたか!若者よ。お主が布一枚の服で凍っていた時はびっくりわい」
「お?爺さんが此処の主か?何なら今すぐ此処を出してくれ。探さなくちゃいけない仲間が居るんだ」
「まぁ、待て若者よ。お主は、凍結から立ち直ったばっかりじゃ......まずは、体力の回復をしなくては......」
「いや、爺さん。その心配は無い。俺は元気百パーセントの完全復活している!」
「ほほほ!流石じゃのお!良えじゃろう。行きたい場所はあるかの?」
「山頂だ。絶対そこに俺の仲間がいる」
「そうかそうか......そこまで急いでいるのなら、早速行くとしよう」
世界征服自体は急ぐ必要は無い。しかし、あの仮面をした案内人が仲間は全員散らばっていると言っていた。
つまり、あのブラックホールに吸い込まれた者は全員、この世界にいると言っても可笑しくは無い。
もしこの世界にあの勇者がいるなら、アイツの性格上、片っ端から部下を叩き潰すに違いない。その前に、全部下を見つけなくてはならない。
そして、俺と爺さんは、ふかふかのダウンコートを着て、家の外に出た。
外に出た瞬間、家の中は暖房が効いていたものの、比べ物にならない程の突風と吹雪が俺を襲った。
「お?全然寒くねぇ!」
「ほほほ、このコートは、凍結耐性の魔法が付いたコートじゃからのぉ」
「そんなすげぇもん持ってんのか爺さんは......」
「いや、儂が作った物では無く、無謀に氷山を調査しに来た騎士団の物を剥いだだけじゃがの」
「ははは......流石は、氷像と化した俺たちを毎日の様に回収してる事はあるな」
氷山山頂に向けて吹雪の中を歩いていると、氷山の方から、獣の様な唸り声が聞こえた。
「そういえばお主は仲間が山頂におると言ったの?」
「あぁ、そうだけど?」
「まさかとは思うが......山頂に居るのは最近居座る様になったアレしか居ないんじゃが......」
家の主は、俺から山頂の方に向けて指を指した。
指を指す方向には、丁度山の山頂に乗っかる形で、巨大な獣が眠っていた。
「あぁ、正にアレだ」
「ほっほっほ......分かった良いじゃろう......アレがお主の仲間と分かれば此処から山頂まで登る必要は無い。もし途中にお主の仲間がいれば、此処から登ろうと思ったが、山頂の近道を通る事にしよう」
「おぉ!分かった」
俺は、爺さんを追って行くと、途中で洞窟の入り口があったが、それを無視して、爺さんは、かなり急な山の斜面に足を掛けた。
「え?此処の中から行くんじゃ無いの?」
「そこが、本来通ろうとしていた道じゃ......近道とは......この山の斜面を直接登ることじゃあッ!ぬうううん!」
爺さんは、俺に張り切って登ると宣言し、歳で震える足を必死に上げ斜面を登ろうとする。
「爺ちゃん!もう無理しなくて良いから!後は一人で行くよ!」
「じゃが!遭難したら誰が回収する!?」
「もう俺爺ちゃんから貰った防寒具もあるし、遭難する事無いから!それに、あの獣こそが俺のペットだからな!一気に下山するよ!」
「ほほほ......そうなのか?なら儂はお言葉に甘えて帰るとするかのぉ......」
「じゃあ、またな!爺ちゃん!」
「おぉ、またの」
こうして、氷山の家の主の爺さんと別れた。
さて、別に山頂まで登る必要は無いだろう......此処から起こせば良い。
俺は、山頂に眠るヴォルグレイに向けて、大声で叫んだ。
「おお起きろおおおお!!」
するとヴォルグレイは、俺の声に反応し、むっくりと起き上がり、目覚めの雄叫びを上げた。
「ウオオオオオ!!」
同時に、雄叫びの振動で、雪崩が起きる。
ちょちょちょ!待てよ!このままだと、爺ちゃんの家が!
すると、更に俺へヴォルグレイの大きな体が俺の目の前を通り過ぎ、通り過ぎ様に聞こえた声で、俺は体にしがみついた。
「魔王!掴まれ!」
「おう!」
ヴォルグレイは、俺が掴まった事を確認すると、雪崩が起きている山の方へ体を急旋回し、アイスブレスを吐く。
アイスブレスは、雪崩と衝突し、大きく衝撃波と共に爆発するが、その瞬間、吹き飛ぶ様に爆発した雪崩がその場で凍り、新たな氷山の一部が出来上がった。
うっひょお!スッゲェ!
「さぁ、帰るぞ魔王」
「あーやっと帰れる〜何でまた最初と同じ様な四天王探ししなくちゃ何ねぇんだよ......」
「次は何処に行くつもりなんだ?」
「まぁ......順番的に、フロガかな?」
「最初我々を見つけた順番か......」
「そう!別に拘りはねぇけど、何となくだな」
「じゃあ、このまま真っ直ぐ南に行くか?」
「いや!まずは情報集めだ。此処の氷山といい、この前の雪山とは比べ物にならねぇからな」
「分かった。では一旦街へ戻ろう」
そうして、俺とヴォルグレイは氷山を下山し、街へ戻った。
街へ戻ると、ヴォルグレイが歩く度に起こる地響きと同時に、街の門番が武器を構える。
「そこの貴様!一体何事だ!」
「よ!こいつは俺のペットだから安心しな!」
「ペット......?分かった......凶暴性が無ければ、通って良い。ただし、一般人が怯えてしまうからな、街の外で待ってもらう事にしよう」
お?意外と話分かるじゃん?それに、武器は構えるけど、怯える様子は無いな......もしかして、日常だったりするのか?
俺は、ヴォルグレイを置いて、街の中へ入ると、フューを誘う様に悩む仕草をする。
「あー!誰か教えてくんねーかなぁー!」
「......分かりやすい仕草ですねぇ〜私を呼ぶのなら、直接呼んでくれても良いんですよ?」
俺が瞬きすると、いつの間に目の前にフューが現れる。
「うおわ!一体いつから?」
「まぁ、それは置いといて、グラントス騎士団本部前にある掲示板の鈴を鳴らせば、いつでも来ますので......」
「お、おう......分かった」
「では、今日は何について聞きたいのでしょうか?そう言えば!氷山の問題を解決してくれたそうですねぇ」
「あ!そういや、解決して欲しい問題って何だったんだ?」
「氷山の唸り声の問題です......氷山にとある家がありましてね......そこの主である、お爺さんが最近聞こえる唸り声で寝れないと言う依頼がありまして......どうやら、その爺さんと会われたようですね?それも爺さんの目の前で問題を解決してしまったと......」
「確かに、そうなるな」
「まぁ、良いでしょう!では、約束の報酬でございます。」
そう言うとフューは、俺の手の平に、一枚のチップを置いた。
「え?これだけ......?」
「これだけとは、とんでもない!これは、王家メダルと言って、一億グラトスに相当する物なのですよ?」
「ぐ、グラトス......?なんだそりゃ?」
「おっとすみません。貴方はこの世界が初めてなんですよね?グラトスとは、この世界の通貨でございます。この王家の紋章が刻まれたメダルが王家メダルと言い、銅のチップ千枚で銀、銀のチップ千枚で金。そして、金のチップ千枚で王家メダルへ変換されるのです」
「へぇ〜......面倒くせぇ」
「まぁ、銅貨、銀貨、金貨、王家と覚えればよろしいかと」
「ふ〜ん......で、どれだけの価値があるんだ?貴重だってのは分かったけど......」
フューは淡々と説明をする。
「そうですねぇ......最低限必要と考えると、一日の生活に必要なお金は銅貨三百枚、服や日用品を買うなら銀貨十枚、特別に家などを購入する場合は金百枚、又はそれ以上。と言った所ですかねぇ」
「ふむふむ、で、この王家メダルは?」
「王家メダルに関しては、金貨や銀貨に、崩される事は無いので、言わば枚数によって特権が得られます」
「特権!?例えばどんな?」
「それは自身の目でお確かめ下さい......」
「そうかぁ......!なんか面白くなってきたなぁ!」
「はぁ......魔王様は子供ですか?」
「あ?金を集める事を楽しんで何が悪い?」
「いえ?別に誰もが考える事です」
「おう!」
こうして、俺はヴォルグレイを発見し、フューの説明によって少しだけ街に馴染めた。
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