第14話 颶風の凶鳥
俺は大猿のフロガを仲間にすると、その直後に新勇者が誕生した。
勇者が誕生したという気配を俺の部下が感じ取り、どれだけ強いかも分からないので、大量のゾンビを作り、魔王城周辺に拡散させてやった。
ゾンビでは、偵察隊としては心許ないとは思うが、大量に作れば、いくら減ったか確実に知る事ができる。
用意した数は、約十万。その内五万でも減らしたら、今回の新勇者は相当な強さと言えるだろう。質より量。数の暴力を踏破できる人は強い。そう決まっている。
「さぁて、これからどうする?」
「これからの行動を決めるのは、魔王の役目だ。本当にやる事が思い付かないのなら、新たな四天王を探す事が妥当な判断だろう」
「オッケー! よし、行くか」
偵察隊の状況を知る事も大切だが、勇者がいつ来るかなんて分からない。
待ち時間が暇なので、とりあえず四天王の捜索を、続ける事にした。
「トロール。なんか街の情報とかあるか?」
「ほう? 魔王もやっと魔王らしくなってきたか? 前までは、自分の足で探そうとした筈だ」
「なっ! 馬鹿にしてんのかお前! 仕方がねぇだろ、何も前の魔王の事覚えて無いんだし」
「ま、それもあるがな……。もっと部下を頼ってくれても良いんだぜ?」
「お、おう」
「さてと、情報だったな。四天王と疑わしき情報は、既に二つある。どっちに行くかは、魔王が決めてくれ」
「おう」
「一つは、嵐吹き荒れる豪風地帯だ。今回は山じゃなくて、とある島、丸ごとらしいぜ?」
「ほほう? 確かフロガの時も島って程ではなかったが、辺り一帯を火の海にしていたな。ただ、島って事はこの世界は海もあったのか!」
「あぁ、遠いだけで、見る事は無かったもんな」
「んで? どれだけ遠いんだ?」
「あ? あ、あぁ、めっちゃ遠いんじゃね?」
「おう! そうかそれは、移動が大変そうだ!」
「それと、その島の情報だが、またしても王国騎士でも調べる事ができなく、島の中はありえねぇ程のハリケーンが渦巻き、その周りを囲む結界は触れただけで木っ端微塵、更にその周辺は、波が荒く沈没した偵察船は、数知れないらしい」
「うっひぃ〜」
これは、今まで以上に警戒心が強いって事か? 触れたら木っ端微塵の結界なんて、たとえ結界を壊せる俺でも大丈夫なのだろうか? 結界を破壊する条件は、触れるだけ。その時に腕が吹き飛んだら元も子もないぞ?
ま、まぁ? フロガの拳をまともにくらっても死ななかったし? 大丈夫かなぁ〜。
「島は、王国から、果ての西方面にあるらしい。行ってみりゃわかるだろ」
「オーケー」
そして、今回その島に赴くメンバーは、いつも一緒のウルフ、島に詳しいトロール、移動手段のドラゴン、そして俺だ。
ドラゴンは、フロガの更なる追い討ちから、俺を守ってくれた事もあるので、盾としては十分だろう。
そうして俺は、ドラゴンの背中に乗り、その島に行く事にした。
今回の四天王、俺の部下は『颶風の凶鳥』と言われ、言わば鳥だ。
そして今回の目的地は、西の果て。この世界で、王国に連行されたり、四天王を捕まえたりと色んな場所に行ったが、どれも数時間かかる程遠い。
西の果てと言ったら一日で着くだろうか?
そうして、西の果てに到着したのは、三日後だった。
到着すると、ウルフもトロールもドラゴンも皆んな疲れはてており、これから帰る体力すら無い。
西の果ては水平線が見え、他の陸が見えない程の広い海が広がっていた。
「おい……島は何処だ?」
「おかしいな。何処にも見当たらんな……」
「ん? ……あれは?」
ドラゴンが目を見開いて何も見えない海の先をじっと見つめた。
「どうした? ドラゴン?」
「貴様等からは、見えないかもしれないが、薄っすらとだけ、陸の様な影が見える」
「お、マジ!? どれだけの距離だ!」
「うむ……二〇キロくらいか?」
「えぇ……」
ドラゴンの言葉を聞いた俺は、一瞬で希望を失った。時間はたっぷりあるものの、疲れ果てたドラゴンでは、飛びに行く事も出来ないだろう。
例え休憩しても良いが、俺が拡散させたゾンビが倒され、魔王城がバレるのも時間の問題だ。
「どうしようか……」
「魔王さんよ、そう言えばお前は何処でも召喚出来るんだよな?」
「え? あぁ、紙とペンがあればな」
「そうか。書く物と、書ける物が必要なんだな?」
「おう」
「なら、地面に指で書くんだ。それで水の魔物でも召喚したらどうだ?」
「おぉ! その手があったか! よぉしやるぞー」
俺は、トロールが考えた方法で魔法陣を書き始めた。因みにこれから召喚する魔物は、人魚だ。
人魚とは良いイメージがあり、魔族とはかけ離れている様に思えるが、俺の力で魔族化させちまえば、人魚程に水中に対して、得意な奴は居ないだろう。
「荒き波さえも、優雅に泳ぐ姿よ、今此処に召喚せん!」
ふっ、これは上手く行った筈だ。さて、どんな奴が出てくるか……。
地面に書いた魔法陣が光りだし、そしてその魔族が召喚された瞬間、叫び声が響いた。
「うおおおお! し、死ぬ! 水! 水を誰かくれ!」
選ばれたのは鮫でした。
「なんだ……鮫かよ。ったく、イメージ通りに召喚出来た事一度もねえな……」
「おい! そこの主! 聞こえてんのか!? さっさと俺を水に降ろせ!」
しかも、口が悪いと来たか。水に降ろせだと? 召喚してやった最初の言葉がそれか。
「体が! 乾く! 乾く! 熱い!」
乾く? 此処は水辺だぜ? 喉が乾くんなら自分で海水でも飲めば良いじゃねぇか。
「ヒィイイギャアアァアッ! 誰か助けてえええ」
そして、仲間が海に放り投げた水の音で俺は気付いた。
「はっ! あ? あーすまんすまん」
「ふい〜助かったぜー」
「これは鮫か!? 確かに鮫も水中での嗅覚はえげつないとは聞くが」
「いや、十分だろ。泳げれば」
「おうよ! 俺は泳げるぜ!」
「よし! なら準備は完了だ。お前の名前は……サメだ!」
「さ、サメ......? 本当にそれが俺の名前か?」
「あぁ、この魔王に名前のセンスがねえのは、勘弁してやってくれ」
「お、おう」
と言う訳なので、これで海を渡れるだろう。
「よし! サメ! あの島に向かって俺を突進させろ!」
「了解だ!」
俺は、サメの背ビレを掴み、島に向かって突進する様に突っ込んでいった。
「ひやっほおぉう! こんなに全力で泳ぐの久しぶりだぜ!」
「ヒャッハー! 良い風だ!」
一方ウルフ達は陸に置いておく事にした。まぁ、大丈夫だろう。
「魔王! そろそろ島だ! 本当に突進して良いんだな?」
「いや、俺を前に乗せろ! じゃねぇとお前もミンチ状に吹き飛ぶぞ!」
「なんだって!? それ先に言ってくれ! 駄目だ、もうぶつかるぞ!」
「ちょっと踏み台にさせてもらうぜ! うおおおお!」
俺は、突進するサメを踏み台にし、サメが結界に到達する前に結界に触れた。
すると結界は、勢い良く吹き飛び、俺も吹き飛ばされた。サメは結界線直後を通り過ぎ、例の島の陸に激突する。
吹き飛ばされた俺は、一気に深い所まで沈むがそこで俺は気付いた。
自分は、金槌であると。
「ゴポッ! お、溺れるっ! あばばばば」
「魔王! お前は此処で死んでもらっちゃ困るんだよ! ちょっと痛えかもしれねえが、いくぜ!」
「? ……ンガッ!? ちょ、おま! 体千切れるうう」
俺は水中に沈んでいる中、サメが海底から垂直真上に向かって俺の体を噛みながら、海面に出た。
「あぁ〜死ぬかと思った〜」
「へへ」
「さぁて、気をとりなおしていくぞー!」
「よぉし行ってこーい!」
「……は?」
「ん? 俺は陸には上がれねぇからな?」
しまった! これじゃあ、俺一人じゃねぇか! い、行けるかな?
「そ、そうだったな! じゃあ、行って来るぜ!」
「じゃあ、俺は、先に帰ってるわ」
「おう!」
そうして、俺とサメは別れた。
これが、三匹目の俺の部下だ。一発で交渉成立決めてやる。
島に入ると、突然突風が吹き出した。これ程だったら俺なら耐えられる。
島の中はいくつものハリケーンが起こっており、恐らくハリケーン付近が一番風が強いんだろう。
そしてしばらく歩くと、島の真上にて、島全体が影で覆う程大きな鳥が旋回しているのを見つけた。
「なんじゃありゃ……昔俺はあんなもん飼ってたのか?」
真上を旋回する大鳥は、俺に気付いたのか突然高度を下げ、広い場所に降りて来た。
「貴様は……」
「よぉ! 名前忘れたけどお前を回収しに来た! こっちには、ヴォルグレイとフロガもいる! 覚えてるか?」
「ヴォルグレイ……まさか貴様は魔王か?」
「あぁ、そうだよ!」
「あぁ、確かにお前は魔王だ……しかし、何故? 生きている?」
「説明は面倒だから省くけど、復活したんだよ!」
「復活か……良いだろう。我が名は、アエトス。疾風の大鷲アエトスなり。今は、
お? 意外と話が分かるか? と思ったら、違った。
「しかし、貴様の部下に戻る事は出来ん。今もう一度、我に魔王の力を見せよ」
「ですよねー。話が上手く進むなんてやっぱり無ぇか」
「魔王の力とは、物理的な力ではない。今、我が起こすこの異常気象を貴様の力で止めよ。我を回収する事が根本的な止め方だが、一時的でも良い。この異常気象を止めよ」
この異常気象を止める? 何言ってんだコイツ。ハリケーン複数発生して、結界が無くなった今でも、普通に近づいたら、偵察船が吹き飛ばされるんだぜ?
こんなのをどう止めろって言うんだ……。
「貴様は恐らく、ヴォルグレイを部下に戻す時でも、人間の知識や力を借りただろう。
しかし、今回はそんな誤魔化しは効かぬ。貴様の『力』で止めよ」
「なんだって? 聞こえねーな! 復活した俺は、力なんて全部消えてんだよ! いや、前の俺も力なんて持ってたか疑う所だけど!」
「戯言は聞かぬ。これを達せなければ我は戻る事あらず」
戯言って……お前なぁ。
俺は、一発で交渉を決めると言った筈だ。ここまで来るのにどれだけ苦労した思ってるんだ。三日だぞ!? 仕方ねえ無理でもやってみるか。
俺は、手に力を込め覇気みたいな物をだそうとした。
「うおおおお! はああああ!」
しかし、何も起こらなかった。
「……何をしている?」
「ん? オッカシーナー? 力がでねぇやぁ」
「そうか……貴様は本当に力が無いんだな……」
アエトスはどこか悲しげに羽を曲げて言った。
何それ……そんな残念そうにされると、俺まで悲しくなるんだけど……やめてくれない? 俺だって力を取り戻したいのは山々なんだよ!
「仕方がない。貴様が力を取り戻すまで、部下になろう。これはあくまでも仮だ。力を取り戻したら、次こそ力を見せてくれ」
「お、おう……戻ったらな」
こうして気まずい空気で、アエトスを部下に戻し、その羽の力で魔王城まで戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます