第13話 勇者の誕生

 俺は、フロガを仲間にする為に、一つの街を襲撃してから、王国の王から魔法の剣を買った。


 買ったと言っても、借りたと言う方が正しいが、最初は魔法の剣の使い方も分からず、適当に殴ったら簡単に折れたので、何事も無く返せる訳が無い。


 なので、魔法の剣は、買ったと言う事にする。これこそ、借りパクと言うものだろう。

 そうして、手に入れた魔法の剣でフロガの攻撃を弾き、諦めたフロガを仲間にする事に成功した。


 一方王国では、俺が借りた剣が返って来ない事を既に奪われたと分かっており、貸し出し料金100万を稼ぐ為にやった、街襲撃の知らせも届いていたようだ。


 王国騎士・・・


「これは……なんと言う事だ……街が、全て、凍っている……!?」


「王様! どうやら、魔王が稼いだ金というのは、この街が所持していた全ての金を回収した額の様です!」


「ほう? やってくれるな魔王……。剣も返してくれないし、ここまで残酷な事をするとは……。よもや、以前の牢屋区画全壊は魔王の力を見せつける前菜であったか……」


「どうやら、氷一つ一つ全てが、少しでも叩いたら割れるほど脆い様です」


「あぁ、無理に触るな。街はもう後にしろ」


「え?」


「勇者の選考会をする。帰るぞ」


 王は、勇者の選考会の準備を始めた。


 勇者の選考会とは、簡単に言って、台座から、とある剣を引き抜くことが出来た者のみで選ばれる大会である。

 しかし、この選考会で、台座から今まで剣を引き抜いた者。いや、折った者はいるが、選ばれた事は一度もない。


 台座からいくら力任せ引き抜こうとしても何故、誰一人抜いた者が居ないのか。それは、剣と台座の接地面にべっとりと超強力瞬間接着剤が塗られているからである!


「ククク……さぁて、今回もべっとりと塗ってやるぞー」


 ヌリヌリヌリ......自分の手がくっつきそうな手間で塗るのをやめる。そして、すぐに自分の最高の剣、王の宝剣を台座に刺す。

 緊急自体だというのに、なぜこうも細工が出来るのか。しかしこれは本当の勇者を探すのが目的でもあるのだ。


「えっ、王様、そんな剣刺して大丈夫何ですか?」


「安心したまえ。これはレプリカだ。本物は流石に刺さんよ」


「ですよね……」


「開催は明日だ。玉座の前に置いておけ」


「畏まりました」


 そして、翌日の朝・・・


「さぁ、皆の者! 今年も勇者の選考会の開催だ! 選ばれし者など関係無し! 力ある者のみがこの剣を抜ける勇者となる!」


 そして、会場に集まった勇者志願者が、次々と剣を抜こうとする。


 が、ガタイの良いムキムキマンでも、勇者っぽい青年でも抜く事は出来なかった。

 そこでとある青年が、友達と思われる者に背中を押されながら台座まで来た。


「あー、面倒くせぇ……」


「さて、抜く事が出来るかな?」


 青年は、ゆっくりと台座に刺さった剣を掴み、すっと持ち上げた。


「あ……」


 すると、何の力も入れていないのに、簡単に剣は抜けてしまった。


「そんな馬鹿な……お主! なんと言う力の持ち主だ! いやぁ、こんな簡単に勇者が決まってしまうとは!」


「え?」


「お主はこれから勇者となった。さ、魔王を倒しに行きたまえ」


「は? 冗談だよな?」


「あぁ、これは運命かもしれんな。お主に拒否権は無い。拒否すれば分かっておるな?」


「ええええ……急に言われても」


「大丈夫だ。世には主人公補正と言う物があってだな、死ぬ事はないから心配は要らぬ」


「そ、そうなのか?」


 こうして、簡単に勇者は誕生した。

 この勇者の誕生は、一見ゆるく思えるが、魔王はこれにすぐに気が付いていた。


 魔王城・・・


 魔王城で俺は、いつも通り暇を潰していると、ヴォルグレイとフロガが何かに気づく。


「どうした? お前ら」


「これは……勇者が誕生したか」


 へ? 勇者? 早くね? もしかして、ちょっとやり過ぎたか……。


「それは本当か!?」


「この感覚、あの時と全く同じだ。しかし、まだ力は弱い」


「なんだ、弱いのか。なら心配要らねえな! 次の四天王を探そう」


「あ、あぁ……」


「おいおい、前の魔王よりちゃっかりしてんなぁ。魔王が負けた勇者と同じ、恐らく子孫だと感じているんだぞ?」


「子孫? でも、今から強くなって来ても間に合わねえだろ。へへっ、まぁ、とりあえず魔族を召喚して、偵察隊でも送るか」


「あぁ、そうした方がいいだろう」


 今さっきの瞬間で誕生した、勇者の子孫だと思われる新勇者。


 今は力は弱いから俺らには勝てないと。それは本音だが、実際の所、勇者としての力は弱くても、今現在の本人の力が弱いとは限らない。

 なにせ自分の力の弱さは今回の襲撃の件で思い知らされたからだ。きっと現段階で俺が唯一勝てる人間の力は、勇気の無いへっぴり腰の子供程度だろう。

 それほどじゃないと、多分。俺は仁王立ち姿勢でも突き飛ばされてしまうだろう。


 そう思って俺は、魔王城周辺に魔族の偵察隊を送る事にした。


 さて、次はどんな奴を召喚しようか。

 この偵察隊も下級魔族では、万が一、勇者に倒されても強いか弱いかは、はっきり分からない。


 ある程度強く、ある程度耐久力のある。且つ、低コストが妥当だろうか。


「よぉし、魔族召喚しまくるぜぇ! ……何が良いと思う?」


「そうだな……そう言えば殺した兵士の死体とかはまだ残ってるか?」


「ん? あぁ、残ってるけど……。あれはウルフの餌箱に打ち込んでるけど」


「ならそれを少し借りて、ゾンビを作っちまえば良いんじゃねぇか?」


「ゾンビぃ? そんなの偵察隊に使えるのか?」


「あぁ、効果はあるか分からないが、勇者も流石にゾンビと言えど、仲間の騎士をもう一度斬るなんて勇気があるかも分からない」


「なるほど! 良い考えだ!」


 という訳でウルフから一人、騎士の死体を借り、ゾンビへと転生させた後、ゾンビをコピー。魔族化させ、大量のゾンビを作った。


 そうして、作ったゾンビの数は、十万を優に超える数。魔王城を囲む程のゾンビを作ってしまった。


「ちょっと作り過ぎたかなぁ?」


「……ちょっとどころでは無いな。これでは、魔王城の場所を周りに知らせているようではないか」


「それは、大丈夫だ。これからこいつらを一斉に拡散させる。後は、勝手に増殖するんじゃね?」


「そういう事か……」


  こうして新勇者が誕生し、俺は、大量のゾンビを世界中に拡散させた。


 これ……最終的にバイオ◯ザードみたいになったら魔王必要無くなるんじゃね?

 実は内心焦りまくっていた。



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