第12話 魔法の剣

 俺は召喚したドラゴンと、南の火山地帯を探索中、魔王部下四天王の一匹『熱烈の大猿フロガ』に出会った。


 フロガは、ヴォルグレイが呆れる程の脳筋で、俺を魔王と認めはするが、もう一度部下にするならば俺様を倒せと言ってきた。


 しかし勝負の末、あっさりと俺は負け、最終的にドラゴンに盾になってもらってしまった。


 その後俺は、魔王城に帰り、ヴォルグレイにフロガとの戦闘の事について聞くと、当時の魔王は、魔法の剣と言われる、全ての魔法を弾く剣を持っていたらしい。


 その魔法の剣は、俺が死んだ際、王国騎士に、魔王城を物色された時に盗まれた可能性が高いとのこと。

 と言う訳で俺は、王国へ行き、魔法の剣を探す事にした。


「ここが王国だ。次は場所を覚えておけよ?」


「あぁ、何度も来る事になりそうだしな」


 王国の大門へ着くと、外れ騎士の襲撃以来顔バレしているのか。見張りの騎士は俺の顔を見てすぐに警戒状態に入った。


「おぉっと、今日は襲撃目的じゃぁねえ。てか俺の事覚えてたのか……」


「あぁ、殆どの者はお前の事を忘れているかも知れないが、あの外れ騎士には、極悪非道では無い者も混ざっていた事を忘れるな」


「へっ、それを魔王に言ってどうなる? 魔王たる者は極悪非道の塊だ」


「そうだな。所で何をしに来たのだ」


「魔法の剣って知ってる? 魔法なら何でも弾くやつ。王国が持ってるかも知れないって思っているんだけど」


「あったらどうする?」


「返してもらおうかと」


「はっ、魔王が剣を返せだって? 何なら、力尽くで奪って見ろよ」


「いや、無駄な血は流したく無いんで。はい」


「チッ……国王に言って来よう。そこで待ってろ」


 初対面の時はウルフをあんなに可愛がってくれたのに……。まぁ、牢屋区画を全壊なんて王国にとっちゃかなりの損害だからなぁ。しかもその原因がドラゴンの召喚だ。態度が悪くなるのも当たり前か。


 そうして、騎士の一人は、城へ向かって行った。

 戻って来るまで、何をしようか考えようとした所、騎士は数分で戻って来た。


「はぁ、国王は何をするんだか。許可が下りた。城へ来い」


「あいよ。出来れば穏便に済んで欲しいねぇ〜」


「お前一人か?」


「いや、途中まで、案内してくれたよ。俺の部下が」


「部下、な……」


 そして城に着き、城門を開くと、王の間とかは無く、奥の玉座に王らしき人が座っていた。


「国王! 魔王を連れて参りました!」


「よろしい。下がれ」


「はっ!」


 国王の前では先程とは、大違いに態度が違うなぁ……。


「ククク……貴様が魔王か……」


「あれ? 初めてなのか?」


「あぁ。この様に対峙する事は今回で初だ。貴様自身は、あの時の襲撃の際、我々の軍に全く抵抗出来ずに、とある兵士に殺されたのだ。あの時はどれだけ笑ったか」


 全く抵抗出来なかった? 過去の俺は王国を襲撃したのでは無く、襲撃されたのか?


「へぇー」


「ふむ。あぁ、話は聞いている。この、魔法の剣を返して欲しいとな?」


 国王は俺に、剣を揺らしながら見せつけて来た。


「あぁ」


「フハハハハ! 我々に勝つ事は不可能だと確信し、そこまで怖気付くとはな!」


「あぁ。あの時の事は、はっきり覚えてねぇけど、実際、今の俺じゃあ勝つ事は絶対不可能だと思ってる」


「ほう? だから返して欲しいと。良いだろう」


「え?」


「しかし、一つ条件がある……」


 やっぱりそう来るか。一体何が条件なんだろうか。


 国王は、にやりと笑い、人差し指を立てて言った。


「レンタル料金、百万だ」


「は?」


「お前にこの剣は返せぬ。しかし、今この剣は、魔法から身を守るとして、一般人へのレンタルサービスを提供しているのだ」


 金かよ! そしてレンタルサービスって……。


「言っちゃ悪いが、ふざけているのか?」


「いや、本当の話だ。どうだ? 百万だそ? 因みに壊したら、千万で弁償だ」


 えええ……。てっきり、何かキツイ条件とか期待してたのに。


「しかし、その貴様の身なりからして百万……いや、十万も持っていない様に見える! ハハハハ!」


「あぁ、持ってねぇな。何なら王様が金出してくれよ」


「何故そうなる!? 金くらい自分で稼げ!」


「何なら襲撃してやるか?」


「ほう。そう言う事か。ならば、貴様に良い仕事を教えてやろう。アレを持って来い!」


「はっ!」


 国王は近くの騎士に、アレと言って、何かを取らせに行かせた。


「何だ?」


「仕事を教えてやると言っただろう?」


 ろくな仕事では無い気がする......。


 しばらくすると、騎士が俺に紙を渡した。


『王国周辺のゴミ拾い、日給五千円。サクッと小遣い欲しい方募集します』


 何だコレ……ゴミ拾いだと? それに、王国周辺って、国周辺の草原の事だよな?


「それは、貴様にピッタリなバイトだなぁ! フハハハハ!」


 一日五千円って事は……。えーっと、約半月! 牢屋に入っていた期間以上に働かなくちゃいけないのか!?


 俺は、紙を破り捨てた。


「こんなんやってられるか!」


「仕方が無い。ならば、襲撃を許可しよう。王国が管理している村や、街を最高重警備させる。我々が雇っている、精鋭部隊だ。襲撃出来るのなら、やってみろ!」


「おう! やってやるぜ!」


 そうして、俺は、出来もしない事を国王にぶつけ、王国を去った。


 さて、どうしようか。精鋭部隊なんて勝てるかな?


 とりあえず、相談する為に、俺は魔王城へ戻った。


「ってな訳でぇ、金か襲撃か。って感じ?」


「しかし、金を集めるには襲撃しか手が無い……か」


「ならば、我が炎にて、焼け野原にしてしまえば良いだろう」


「そんなに上手くいくかねぇ……」


 そこで、ヴォルグレイが口を挟む。


「魔王よ、貴様はもうドラゴンを使役する程になったのだな?」


「え? まぁ、そうだけど……」


「ならばその功績を称え、一度だけ、命令を聞こう。精鋭部隊ならば、装備も最高だろう。つまり、厳重警備された街程、精鋭部隊は沢山いる」


「と言うと?」


「精鋭部隊の装備は高く売れるんじゃないか?」


「なるほど! 負ける事しか考えなかったわ!」


 まとめると、大きな厳重警備された街をヴォルグレイの力で氷漬けにし、安全に警備員の装備を剥ぎ取る。

 なかなか画期的な方法であり、またかなりの恐怖を与える事も出来るだろう。


「よし、決まりだ! いくぞ!」


 大きな街と言うと、思い付く場所は、例の街しか無かった。


 俺たちは、あくまで魔王軍であり、氷漬けにした街をもう一度救うなんて事は、想定していない。

 氷漬けにすれば、少し世話になった図書館の爺さん、武器屋のおっさん、見張りの騎士は、皆戻らぬ姿となるだろう。


 俺の目的は記憶を取り戻し、魔王の役目を果たす事。必要以上に人間に干渉する必要は無い。良心なんて物は、魔王には、元々無いのだ。

 無闇な殺生は避けるという決意をした矢先ではあるが、四天王の復帰は最優先事項である。


 だから理由のない殺しは決してしない。しかし目的のためなら心を鬼にしなければ、魔王としての示しがつかないのも理由の一つだ。

 いくら平和主義を謳う魔王でも、必要なことを自分の感情で後回しにし、日和続けるのは良くない気がする。


 ……。まぁ、そんな感じ。


 俺は街で残した、思い出を全て頭から消し、街へむかった。

 街へ着くと、厳重過ぎると思うくらいの精鋭部隊と思われる騎士が街を包囲していた。


 精鋭部隊は俺に気付いたのか、声をかけて来た。


「ようやく来たか。魔王。まさかいきなりここを襲おうとするとはな……馬鹿な奴だ。お前はここで終わりだ!」


 そう言うと、街の警鐘が鳴り響き、一斉に精鋭部隊が襲って来た。


「馬鹿な奴等は、お前らの方だ……全員、消えろ!」


 その合図と共に、ヴォルグレイは、街の中央上空に氷の塊を飛ばす。


 そして空中で大爆発が起き、瞬く間に、あの時と同じ様に、一瞬にして......。


 賑わっていた街が、静寂に包まれ、無数の精鋭部隊は、全て氷漬けとなった。


 その瞬間約十秒も無かった。


「あっという間に終わっちまったな……」


 それにしても、本当にこの魔王四天王の一匹、氷河の狼と呼ばれるコイツは強い。おそらく、あの猿も強いんだろうな。


 しかし、何故? 何故、過去の魔王は世界征服に失敗し、勇者に殺されたんだ? こんなに厳重警備の街さえも一瞬で凍らせ、猿は火山を噴火させ、灼熱地帯まで作ってしまう。


 こんなにも強いのに、勇者は殺す事が出来なかったのか? だったら勇者ってどんだけ強いんだ......。


 さて、凍らせた精鋭兵士の装備を剥ぎ取るか。


「魔王よ、上出来だ。まだ貴様は、あまる魔力を使い部下に命令する事しか出来ないが、更に魔王としての活動をし、力をつけてくれ」


「おう。分かってるよ」


 俺は、兵士の装備を剥ぎ取りながら、売ったら金が一気に手に入ると考えていると、その時、最悪の事に気付いた。


 この装備、何処で売るんだよ。まぁ、違う街行けば売れるとは思うが、本当はこの街で売ろうとしていたのに、全部何もかもも凍っちまった。


「どうした? 魔王。そんな青ざめた顔をして」


「いや、この装備どうしようかなぁって」


「売る場所が無くなった事か? それなら、その装備は持って置くと良い。金なら良い考えがある」


「な、なんだ?」


 ヴォルグレイは、にやりと笑ってから言う。


「この街の全ての金品を頂こう。施設の金、民家の金、全ての。そうすれば、余裕で一億は超えるだろう」


 お前はそれでも四天王か! そう言う事は下っ端の部下が考える事じゃねぇのかよ......。


「おぉ! その発想は無かった! 良し、ならすぐにゴブリンに命令しよう」


 俺はゴブリン達に命令する。


「おい! 野郎共! やっと大稼ぎの時間だ! この街の、金という金を全て巻き上げろ!」


「魔王様! なんて下衆な考えをなさるのですか!? 我々魔王軍は、脅威的で、高潔な存在! そんな我々が、そんな事出来ません!」


 また、出たよ。平和思考のゴブリン。全く世界征服には、邪魔にしかならん。


「う、うるせぇ! 口答えするな! お、俺が考えた事じゃねぇし? う、ヴォルグレイが考えた事だし?」


「む......」


「それに、お前は下等魔族だ。作戦を下衆なんて勝手に評価するな! 俺はもう吹っ切れたんだよ……いつまで平和、穏便なんて考えてたら、いつまで経っても征服なんか出来やしねぇ! つべこべ言わずに言う事を聞け!」


 俺は、結構本気でゴブリン達に怒鳴りつけた。


 ゴブリン達は、変わった俺をみて、驚き恐れながら、金を集めに行った。


 良いねぇ! これこそ魔王だろ! これくらい出来なきゃ、いつまでも丸めこまれる訳にもいかねぇもんな!


 数時間後、ゴブリン達は戻り、金の総額を伝えた。


 全ての金の総額は、王国が精鋭部隊を雇ったお陰か、総額二億ちょいだった。最高じゃねぇか!


 これでやっと、魔法の剣を借りられる。


 俺は急いで城へ向かった。


 そして、王国の城に入ると、退屈そうに俺を王が待っていた。


「持ってきたぞ! 金!」


「ほほう? 随分と速いな」


「百万なんて安すぎるぜ。ほれ、二億ちょいだぜ!」


「ほう? 何をしてそこまで一瞬で稼いだか知らんが、良いだろう。魔法の剣を一週間レンタルさせてやろう」


 ……。この王、マジで言ってんのか? どうやらヴォルグレイの氷は屋内にまでは影響は無かった。いや、城ほどの頑丈な建物の内部までは無事だったようだが。外が大騒ぎになっていることをこの王は気付かなかった?

 伝令さえも一瞬で凍ったらそりゃ気づかん……かな?


「おう!」


 これでやっと、猿に対抗できる。今行くぜ、待ってろよ?


 こうして俺は、魔法の剣を手に入れ、フロガの所へ向かった。


 火山地帯に入ると、手に持っていた剣が早速力を発揮する。


 剣を持っているだけで、燃え盛る地面の炎を退けている! こいつはすげえや!


 そうして、火山の噴火口まで行くと同じ感じにフロガは登場した。


「良い加減にしやがれ! ってお前か......」


「よぉ、次は簡単にやられねぇぞ?」


「ほう? 何を準備して来たか知らんが、次は殺すって言ったよなぁ?」


「え? そんな事言ってたっけ?」


「今、言った」


「おいおいマジかよ......」


 さて、この魔法の剣を試す時が来たが、殺されるとなったら話は別だ。急にこの剣が信頼出来なくなってきたな......。


 まぁ、こうなったら当たって砕けろだ! 失敗したら本当に砕けるけどなぁ!


 決意した時、フロガは、前と同じ様に俺に拳を振り下ろしてきた。


「この剣をくらえ!」


 剣をタイミング良く振るが、何の手ごたえも無く、俺は吹き飛ばされた。


 前回の無防備よりも、剣を持っていた事によって、衝撃を吸収出来たのか、四肢が吹っ飛びそうになるくらいの衝撃は来なかった。


 しかし、剣を見ると剣先が無くなっていた。


 剣先が無い!? どこ行った!?


 すぐ横を見ると、剣の刃の部分だけ地面に横たわっていた。俺は、次の攻撃が来る前に、すぐに拾う。


「そんな剣の何が役に立つ! 俺様の炎で溶かしてやるぜ!」


 フロガは、大きな炎の弾を、俺にいくつも飛ばしてきた。


 俺は、何が何でも雑に剣の刃を振り回すと、飛んで来る弾を次々と弾き飛ばしている。


「おぉ!? なにがどうなってんだ? やっぱりすげぇ!」


「何? なんならこれはどうだぁ!」


 その瞬間、フロガが、超巨大の弾を作り、俺に落とした。


 俺は、剣でその弾を軽々と吹き飛ばした。


「ククク......グハハハ! それこそ魔王だ! 遂に本当の力を取り戻したんだな!」


 今ので気付いてねぇのかよ......。


「あぁ、これで良いんだろ?」


「あぁ! 俺様の名は、燃え盛る大猿『フロガ』様だ! その頭に焼き付けておけ!」


 こうして、四天王の一匹、熱烈の大猿フロガは、仲間になった。


 後に、魔法の剣とは柄の部分が本物であり、刀身は活躍した数千年前に破損。今あるのは劣化レプリカであり、刀身が簡単にポッキリ折れることが前提に国王から貸し出される、立派な詐欺道具であると知ったのは別の話。

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