第15話 勇者の侵攻

 俺は、何の力も見せる事は出来ず、颶風の凶鳥アエトスを部下に戻した。


 魔王城に戻る際、アエトスの力を使ったが、城に戻っても気まずさは残っていた。


 その気まずさとは、未だにアエトスが俺が殆どの力を失っている事にいつまでも溜息を出していることである。

 それほど残念な事なのか? 昔の俺は、本当にどんな奴だったのか、更に疑問が深くなる。


 馬鹿だったのは元々で、しかし、アエトスを唸らせるほどの力は持っていたと……さっぱり人物像が想像付かねえ。


 そうして城に戻ると、先に戻っていた部下のゴブリンが慌てた様子でこちらに寄って来た。


「魔王様! 大変です!」


「どうした? そんな慌てて」


「ゾンビの数が……半分以下に減ってます!」


「それマジ……? 俺の想像通りじゃねぇか! 半分以下に減れば、勇者の襲撃の合図で相当な力を持つってよ!? つーかゾンビ放ってから一週間すら経ってないんだが!?」


「現在も、少しずつですがゾンビの反応が消えてて……」


「おいおい、更に現在侵攻中かよ……。ガチの化け物じゃねぇか……」


 俺は急いで展望台に登り、周りを王国方面を眺める。そして望遠鏡を覗くと、遠くから一人の剣士が迫るのを見つけた。


 俺は、すぐ部下に、防衛命令を出す。


「防衛命令だ! ゴブリンは、勇者の迎撃準備! トロールはその前衛。ヴォルグレイとフロガを後衛で、ドラゴンとアエトスは、展望台の上にて攻撃の期を待て!」


 お? 俺今、めっちゃ魔王っぽくね? 部下を全員率いってるじゃん!

 いや今そんな事考えている場合じゃねぇ......。とにかく守らねえと!


 全力で部下で防衛線を張ると、遠くからようやく声が聞こえてきた。


「魔王!! 今すぐ貴様をぶっ倒す! 勇者になってから暇が無え程忙しいんだよおおおお! あんな剣引か抜かなきゃ良かったあああああ!!」


 なんの話か分からん……。だが勇者の力は本物だ! 走りながらでもゾンビになった騎士達をなんの躊躇も無くぶった斬っているからだ。なんとなくだが、同じ人間を仲間だとか思う以前の気力を感じる……!


 そうして最初に勇者の剣とぶつかったのは、アエトスだった。


「うおおおおおお! ......お?」


 アエトスは急降下しながら、足で勇者を鷲掴み、遠くへ一発で投げ飛ばした。


「おおおおお!? ああああ!」


「勇者になりたての若造が。この程度か」


 え……一瞬で終わってしまった......。


「流石はアエトスだ」


 ヴォルグレイは、アエトスを見て感心する。


「これは、どう言う事だ? 勇者が弱過ぎる......」


「ヴォルグレイ。アエトスは一体何者なんだ?」


「アエトスは、魔王部下四天王の中で最も戦略や、魔王の知恵として、役目を果たしていた者だ。

 しかし今の突進は、何も考えていない。掴んで投げる事を意識して行った行動だと思う。つまり勇者の力はこの程度で終わると一瞬で見抜いたのだろう」


「その通りだ、ヴォルグレイよ。勇者も我の予想通りに動き。結果、投げで終わってしまった」


 そんな馬鹿な……いやしかし、これはまだ一回目だ。これを覚えて勇者はまた襲撃しに来るだろう。


 俺の珍しい魔王の働きに防衛線の部下は、勇者が来るまでは真剣な表情だったが、今は勇者の弱さに唖然としていた。


「おいおい魔王さんよ! どうなってんだこりゃあ! まったく……勇者が来るって言うから今まで以上にテンション上がってたのにどうしてくれんだぁ? この冷めた熱は!」


「あー、再燃の準備しておいてくれ」


 城に全部下を戻し、城の魔王の座に座ろうとすると、座の後ろに大きな水槽が出来て居るのに気付いた。


 その水槽の中にはサメが居た。サメはなぜか落ち着かなそうに左右にずっと泳いでいて俺を見つけると、更に素早く回転する。


「おい、どうしたんだ? サメ」


「何故俺を呼ばない!? 勇者ってなんなんのか知らねえけど、戦うんなら俺も連れて行けよ!」


「そりゃ無理だ。お前は常に水中に居ないと死ぬだろ? それに、出せたとしてもいちいち運ぶの面倒だ」


「そりゃ無えぜ! 俺は、何のために召喚されたんだ!」


「あの荒波を突っ切る為だけだ。まぁまぁ、餌とかやるから、ここで一生過ごしてろ」


「なんならせめて、外に池でも作って放してくれ! 此処じゃあ狭過ぎる......」


「あ、出番は無くて良いんだな? 何なら今、水槽の水抜くから、下水道通じて海に出ると良い」


「おう」


 こうして、サメは海に帰ったのだった。二度と合うことは無いだろう。


 まぁ? いつでも召喚出来るし? 元々サメは失敗作であって気に入らなかったんだ。

 そしてこのまま部下に置いても需要が無いだろう。サメの餌代っていくらになるか分かったもんじゃ無い。


 さて、勇者が侵攻してくるなんて言うから、久しぶりと感じる程に本腰を入れちまった訳だが、こうも呆気なく終わってくれるとやる事が無くなってしまう。


「なんか他にやる事ある?」


「やるべきと言うなら、探すべき四天王は、あと一匹。しかしアエトスを回収に戻ってきたばかりだろ? とりあえず休んだらどうだ?」


「そうだな……ちょっとばかし寝るわ。見張り頼んだ。ふぁ〜あ」


 俺は部下に見張りを任せて休む事した。


 アエトス回収も早くは終わったが、実際三日掛かってるからな。そう考えると休む事が先決だと思うだろう。


 そうして休憩にて六時間も寝てしまった。起きると陽は暮れ、他の部下も寝ていたが、トロールだけ唯一起きて見張っていた。


 流石最初から居る相棒だぜ。


「あー、よく寝た。トロール、お前は休まなくて良いのか?」


「あ? あぁ、起きたか。お前が寝ていた間特に何も起こらなかったぜ」


「そうか。マジで何にも起こらなかったんだな。てか、勇者ってどこまで飛んで行っちまったんだ?」


「知らね。こっちに来ないかよりはマシだろ」


「そうだな! ……んじゃ、後の見張りは俺に任せろ。寝すぎてもう寝れねぇわ。明日は最後の四天王探しに行くぞ」


「あいよ」


 そうして俺は、全員の部下を寝かせ、俺だけ見張りに残り、朝を待つ事にした。



 朝になると、最初にウルフが起き、それから次々と起きて、朝の身支度をそれぞれ始める。


 そこで俺は思った。


 魔族の朝ってこんな感じなのか? 俺のイメージだったら、朝の雄叫びを上げ、魔族っぽい雰囲気を出すと思うんだけど。

 朝目覚めたら? どこからかラジオ体操の曲が流れて? 朝の運動終えてから、朝飯食って、歯を磨いて……。


 いやいやいや! 平和過ぎるだろ! 一番最初にも俺は言った。脅威が無く、この世界は平和過ぎると。


 朝起きて、身支度をし、朝飯食って、さぁ行くぞ! って……そこらの人間と生活同じじゃねぇか!


 いや、まぁ? これが普通なら良いんだけどね?


 ってな訳で……さぁ、今日も新しい一日の始まりだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る