第9話 怒りの復讐

 俺は、氷河の狼ヴォルグレイを仲間にした後、最も最初と言うべき、小さな集落を襲撃した。

 しかし、平和な集落の様子が、無残に殺された村長の村と記憶が重なってしまい、人間を殺す事に躊躇ってしまった。


 その結果、襲撃は失敗に終わり、最終的に、ヴォルグレイの力によって集落を氷漬けにした。

 その後、ヴォルグレイから、王国騎士の外れ者が集まる街の情報を聞いた。


 その騎士達は、王国騎士に正式登録されているものの、極悪非道の集団で、汚れ仕事中心に請け負っている騎士達の様だ。


 つまり、村長を殺した騎士達は、その外れ者の騎士達の可能性が高いと思った。

 そして、現在俺達の精神は、人間を殺す事に、躊躇う様になってしまっている。更に、村の村人達は、今でも深く王国騎士の事を恨んでいるだろう。


 俺は、その復讐心を買い、村人達全員を連れて、外れ騎士の街を襲撃する事にした。


 魔王城に、帰った俺は、村人達にこの事を報告する前に、全員分の装備を整える。

 その後、村へ帰った。


「あぁ! これは魔王さん! なんだかお久しぶりです。こちらはすっかり回復しましたよ」


「あぁ、そりゃ良かったな......」


俺は、少し不機嫌そうに返事をする。


「魔王さん? どうかしたのですか?」


「村長の復讐の事は覚えているか?」


「あ......」


「あいつらは、お前らの知っている王国騎士では無い様だ。ましてや、国内にいる奴等ではなく、外れ街にいる騎士。外れ騎士と言われているそうだ。今回、そいつらの所在地を特定した」


「そう、ですか......」


「なんだ? 何か不満があるのか?」


「その、みんなもう、吹っ切れて閉まった様で、村長の分も、この村をみんなで残そうって......」


 村を残す? 一体なんの意味があるんだ? 文化も文明も無いこの村を残した所でどうせいつか王国騎士に滅ぼされるだけだ。


「それは、無理だ。そんな意味の無い事は止めろ」


「意味の無いって、そんな言い方!」


 意味が無い物はそれだけで、それ以上の価値は以降も生まれない。復讐せずに村を残し続けるなんて、それこそ相手の思うつぼってやつだろ。

 見せつけるんだ。魔族に喧嘩を売ったらどうなるかを。王国はかつての俺がやったことを恐れているようだが、ならばまた思い出させてやるまでだ。


「俺は、無意味に殺された村長の仇を取りたいんだ。あの時は本来、魔王である俺が殺されるべきだったのに、あれ以来、人間を殺す事に躊躇いを持つ様になってしまったんだ」


「仇を取り、魔王の本当の恐ろしさを私達を使って取り戻すと?」


「そうではない。いずれ仇を取らねば、王国騎士に滅ぼされるのを待つだけだと言ったんだ。さっきは言い過ぎた。すまん......」


 ただ村の人たちをその計画に巻き込むことはしない。あくまでも本題は仇を取ることだ。


「いえいえ、私達も一度は必ず王国騎士を返り討ちにしてやると思っていたので、今更、吹っ切れたなど、勝手な事をすみません」


 なら、話は成立だ。さっさと殴りに行くか。


「そうか......よし、なら行くか」


「はい?」


「今すぐ装備を整えろ! 外れ騎士共に俺達の苦しみをぶつけてやろうぜ!」


「ウオオォ!」


 部下達は叫ぶ。しかし、村人達は突然の事に戸惑う。


「そ、装備を整えました! 戦闘経験無いんですが良いんですか?」


「そんなの恨みをそのまんま、ぶちまけりゃあ良いんだよ!」


「お、お、おおおお!」


 そうして、俺達は、王国の外れにある街へ、ヴォルグレイに連れてって貰った。


 道中・・・


「っておい。何故私が全員背中に乗せて運んでいるのだ」


「だって正直言って何処にあるか聞いて無いし、移動手段として最適なのはお前しか居ない」


「この襲撃が終わったら新たな部下を作れ......」


「そだねー。ドラゴンとかいたら格好良いよなぁ」


 ヴォルグレイの背中は高級絨毯のようにふわもふしており、巨体のおかげが揺れもあまり無い。寝るには最適な場所だった。

 なので俺は、目的地に着くまで、ヴォルグレイの背中で寝る事にした。


 そうして、しばらく経つと、ヴォルグレイは、急ブレーキをかけ、その衝撃で俺は、地面に叩きつけられる。


 そこで目を覚ました。


「ん? ......着いたのか?」


「魔王よ、これから襲撃だと言うのに呑気だな。着いたぞ、目の前だ」


 俺は、目を擦りながら焦点を合わせ、目の前の建物を見た。それは、正に要塞だった。


「わお。こりゃ凄いな」


「こ、ここが外れ騎士の街......今からここに突撃するんですね......」


「さぁて、今度こそお前ら、自由に暴れる時だ。ウルフも腹一杯食えるぞ」


「ガウッ! グルルル......」


 そして、俺は、街の大門をノックする。


「何方かいらっしゃいませんかぁ?」


「何処のどいつだ......」


 大門越しに曇った声が聞こえた。


「えーと、魔族の者ですがぁ、襲撃をしに来たので、開けてもらえませんかねぇ」


「なんだと!? はっ、馬鹿だなぁ。大門開けたらすぐにぶっ殺してやるよ!」


 そして、ゆっくりと扉が開く。


「ヴォルグレイ。一発目から頼む」


「命令は契約してからにしてくれ、これが最後だぞ!」


 ゆっくりと開く扉の隙間に集落襲撃の時に放った氷の塊を飛ばす。


 その瞬間に、爆発音と同時に勢い良く扉が全開すると、中の騎士、約50人程が、凍っていた。


「あとは、上空から雪を降らしておこう。魔王よ、健闘を祈る」


「よっしゃあ! 全員! 突撃ぃ!」


 俺が合図を出すと、部下達と、村人達が一気に、街内に雪崩れ込む。

 門から入れば、街の中央で出待ちをしていた騎士は、トロールに吹き飛ばされた。


 各々屋内の騎士は、ゴブリンに殴り殺される。


 そして、大きな施設内では、次々とウルフが、騎士の首を飛ばしては、食い散らかす。


「な、なんなんだ! コイツらは!」


「村人の野郎もいんぞ! あいつらを先に片付けろ!」


 そうはさせるか! 俺が騎士の目の前に立ち塞がろうとすると、俺は、簡単に吹き飛ばされた。


「え、俺ってなんでこんなに弱いの......?」


「魔王さんを守れ!」


 やめてえええ。魔王の事守らないでええ!


 そうして、約二時間程で制圧完了。


「アオオオオン!」


「あ〜、終わった〜」


 制圧後は、広場、屋内、街全域は血の海と化していたが、村人と魔王は無傷。


 俺は、村人に守られていたから。村人は、集団の力と言うもので、俺の事を完璧にまで、守っていた。


 こうして、俺の襲撃は、初めて成功した。


 しかし、その時、大門の方で新たな敵の気配を感じた。まさか王国騎士の者達か?......

 俺は、部下達と集団で大門へ向かうと、最悪な事によく顔を知っている騎士に会ってしまった。


「これは一体......。は! 貴方は!」


「や、やぁ。久しぶりだね」


 その瞬間、騎士は俺に剣を構える。


「おい! 貴様! これはどう言う事だ!」


「へっ、どうも何も、襲撃しただけだよ! 見ろよ! 全滅だせ?」


「ふざけるな! ここで騒ぎあると聞いて来て見たらこれは......! それも、近くにいるのはウルフ君じゃないか!」


「俺は、言ってなかったけど魔王だからな。とりあえず世界を征服するつもりでいるんだ」


「魔王......? でも、何故? そこまで騎士に恨みでもあるのか?」


「へっ、魔王に恨みなんてあるわけねえだろ。あるのは、こっちの村人の方だよ」


 村人が一人騎士の前に出る。


「騎士さん! 外れ騎士とは一体何者なんですか! ある日、私達の村に支援物資を送る騎士が来たんです。その時、既に私達は魔族と関係を持っていたのですが、村長が魔族と協力しているだけと言う理由で殺されました。

 『魔族と協力していると発覚した者はその場で処刑』なんて法律いつ出来たんですか!」


「外れ騎士。それは、汚れ仕事専門とする、非道襲撃部隊です。ただ、そちらの村に派遣した覚えは無いのですが、そんな事があったなんて......本当に申し訳ありません」


 謝る騎士に更に村人が叫ぶ。


「謝って済むと思ってんのか! 魔王さんがあの時居なかったら俺達は、全員殺されていたかもしれないんだぞ!」


「そうだ! そうだ! 外れ騎士なんて、何で作ったんだ! これは、お前らの自業自得だな!」


「お前らの正義って何だったんだ!? 弱者を排除する事か!?」


 どんどん村人の罵声がエスカレートしていく。

 しかし、俺は止めない。王国騎士の間違いで、無意味に人が死んだんだ。俺は、魔王だけど、無意味な殺害は好まない。


「王国騎士何て消えちまえ! 俺ら独りで充分だ!」


 ん?


「俺達は、魔王の手下なんだからな! この恨みは、征服するまで消えねぇよ!」


 え?


「全部ぶっ壊してやる!」


 おい待て! お前らぁ! 王国騎士に謝罪を求めるんじゃなくて喧嘩売ってるよ!?


「お前ら、そこまでだ。俺は、騎士に喧嘩を売るためにここに来た訳じゃ無い。復讐を果たす為だ。と言う訳で、さっき村人の言った事は、前言撤回だ。『まだ』お前らに喧嘩売るつもりは無い。だから見逃してくんね?」


「魔王、だったな。そうはいかない。外れ騎士は全滅した。恐らく、君たちの脅威は無くなっただろう。少しの間、こちらで拘束させて貰う。逃げはさせないぞ?」


「あ、はい。すみませんでした」


 下手に逃げて攻撃食らうより、謝った方が妥当な判断と言えるだろう。


 と言う訳で俺と、部下と、村人全員は、王国騎士に拘束された。





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