第8話 はじめての襲撃
俺は、雪山の魔狼の情報を聞き、とある雪山にて、氷河の狼、ヴォルグレイを仲間にした。
ヴォルグレイ。何度聞いても良い名前だ。多分、今の仲間の中でもっともまともな名前を持っているのは、ヴォルグレイだけなんじゃね?
しかも、四天王の一匹ってのが、またこれが凄い。どれだけ強いんだろうか。やっぱり仲間にした後は、最初に命令するべきだろう。
「よぉし、ヴォルグレイ、お前に最初の命令をやろう」
「それは、無理だ」
即答かよ。いや違う何だって言うんだ。
「我が四天王程に強い魔族は、貴様が、それ相応の力を持っていなければ命令を下そうとも、それを受ける事が出来ないのだ」
「力ねぇ......どうすりゃ上げられるんだ?」
「魔王の力とは、魔王自身の物理攻撃力では無く、従わせている魔族とどれだけ征服しているかによって変わる。つまり、今の貴様の統率力は、『襲撃を一度もした事が無い下等魔物召喚士』だ」
魔族ですら無え! 襲撃かぁ......確かに、襲撃しようとした事はあるが、成功した事は一度無い。
だからと言って大きな街を狙うと、返り討ちに会い、俺の征服日記は噂で終わるだろう。
そうだ。村が無理なのならば、集落何てどうだ? 集落なら、集団性があるから少し厄介だが、俺たちなら出来るだろう。
「分かった。なら、集落を襲おうと思う。恐らく、王国の供給支援対象にもなって無いだろうし、少しでも、物資とか、破壊すれば、彼らの怒りと恐怖を買う事が出来る」
「なら、私は貴様に支援だけはしてやろう」
「それは、助かる。じゃあ、ゴブリン、トロール、ウルフ、行くぞ!」
そして、実は、だだっ広い平原に点々とある集落を襲う事にした。
これが、最初のはじめての襲撃になる。
はずだった。
そして、とある集落に着くと、かなり貧困しており、ここを襲ったりなんかしたら、一撃で枯渇するだろうとすぐに分かった。
俺は、すぐに集落の裏に回り込み、小さな食料庫に細工しようとすると、人に見つかった。
「おい、あんたここで何してるんだ? どこの村の奴らだ」
「え? あ、いや、その......」
俺が戸惑っていると、俺に声をかけた男の娘であろう子がウルフに近づく。
そこでウルフもすぐに身構える。
「見てみて! お父さん! 可愛いワンちゃんがいるよ!」
子供は、満面の笑みでウルフを撫で回す。ウルフも最初は警戒していたが、今は何故か満足そうに撫でられている。
「ガッフッフゥ〜......」
おいいぃい!? ウルフ! 目を覚ませ! 俺は、小さな声でウルフに声をかけるが、もう聞こえていないようだ。
俺は、ほかの仲間の事を思い出し、はっと後ろを向く。すると、既に消えていた。
集落の中心に行くと、ゴブリン達は、子供達と楽しく遊んでいた。
「ギャギャギャ!ギャ」
「あははは!」
トロールは、子供に振り回されながら、その親達と世間話をしていた。
「おい、お前ら! くっつくな!」
「ガハハハ! トロール殿は、面倒見が良いですなぁ!」
あれは、集落の主だろうか。魔物を怖がらないと言う所が村長と似て、少し胸が痛くなった。
あぁクソッ! 今度こそは成功してやるからな!
「ヴォルグレイ! 天候変化だ!」
「行くぞ!」
その瞬間、集落に凄まじい寒気と吹雪が吹き荒れる。
「な、なんだ! 急に!」
「お前ら! 良く聞け! 我が名は魔王だ! すまないが、貴様らと戯れる気はこちらには一切ない! ここで潰れてもらう!」
他の仲間は、幸せからどん底に落ちた集落を見て、我に帰ったのか、戦闘モードに切り替わる。
「お前らやれ!」
ゴブリンは、次々と家を壊して行き、トロールは、集落の人達スレスレに剣を振り回し、ウルフは、遠吠えをして恐怖を更に奮い立たせる。
と、良く見ると、みんな出来る限り恐怖をだけを与え、被害は少なめにしている。
恐らく、村長処刑の時の記憶が頭から離れないのだろうか。
あの時以来だ。村長が殺され、魔族が覚醒し、そして人間を殺す事に躊躇う様になってしまった。
だめだ。これでは魔王である俺の存在意味が無くなってしまう!
「ヴォルグレイ! 俺たちには無理だ! お願いだ、集落の奴等を凍らせてくれ!」
「ふむ......仕方がないな」
そして、ヴォルグレイが、上空に向かって、白い氷の様な塊を飛ばすと、集落上空真上で爆発し、ダイヤモンドダストが降り注ぐ。
すると、それを浴びた集落の者達は、一瞬にして氷漬けにされた。
逃げ惑う人達、絶望の表情を浮かべる人達が、一斉に氷漬けにされたその景色は、残酷で、あるはずも無い良心が握り潰される様だった。
「どうした魔王よ。何故、殺さない?」
「分からねえ。なんなんだこの痛みは......」
「すまない、魔王。俺もアレ以来、人間を殺していい物なのか分からなくなっちまった......」
「ワウ......」
ウルフも悲しげな表情で、こちらに寄ってくる。
ただこのままでは流石にこれから部下にするヴォルグレイに示しがつかないので、事の末端を話す。
「そんな事があったのか......なるほど、分かった。貴様等の精神を鍛えるには丁度良い襲撃場所がある」
「襲撃場所?」
「あぁ、貴様等の大嫌いな屑の王国騎士の外れ者が集まる街だ」
「そんな街があるのか」
「外れ者と言っても、今も王国騎士に正式登録されている奴等だ。つまり、村長を殺した騎士もそいつらかもな」
王国騎士の外れ者......そいつらのせいで村長が無意味な死を遂げた......。
ヴォルグレイの言葉を聞くと俺は、静かな怒りを感じた。
「行くぞ......村の奴らにこれを報告する。全員で殴りに行く」
「分かった。なら、それは、復讐と言う事になるのだな?」
「当たり前だろ」
「なら、私の支援も必要無いと見える。権力者一人の怒りによって起こる戦争よりも、村や、街全体の怒りによって起こる戦いほど恐ろしい物は無い。行ってこい。集落の者は私が片付けておこう」
俺が集落から立ち去り、後ろを向いた瞬間、沢山の氷の塊が一気に砕ける音がした。俺は、振り向く事無く、その場を後にした。
こうして、王国騎士への復讐心を持ちながら、魔王城へ帰り、次の襲撃地点は、王国騎士の外れ者の街にした。
そして、もう無意味な人間の殺害は決してやらないと決める。だって心が痛むだけだから。
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