第7話 氷河の狼

俺は、隣の村の村長が死んだので代わりに俺が村長になった。


村長が死んだ事で村の雰囲気が重くなってしまったので回復待ちに部下達の装備を揃えるべく、街へと出かけた。


街へ行くと、人の良い騎士もいて、なかなか良い街だった。


そこで、俺は、騎士から雪山に他の魔物がいる事を聞いた。その魔物は雪山の守護神と言われているらしく、数千年前に俺が殺された後に雪山に現れたらしい。


つまり、その魔物は、俺の過去の部下である可能性が高いと言う事だ。例え違くても、そんなに強い魔物が居るんなら早く従わせた方が良いだろう。


と言う訳で今回の目的は、雪山へ行き、魔物を仲間にする。である。


「って話を騎士から聞いたんだ。どう思う?トロール」

「記憶を取り戻す希望ねぇ......。ま、良いんじゃ無いか?俺はあんたの部下だ。何も言う事は無え」

「ならば早速雪山に行くぞ!今回は危険っぽいからな。ゴブリンには、引き続き村との関係を保って貰うとして、トロールと、ウルフで雪山に行くぞ」

「了解!」

「ワン!」


トロールとウルフは、元気良く返事をして、俺は、この三人で雪山に行く事にした。


雪山は、例の街からずっと北にあり、近づけば、寒そうなでかい山と山雲が見えるので分かりやすいそうだ。


そして道中、北に行くにつれてだんだん寒くてなって来た。因みに俺は魔王だか、何故か体の作りは人間に限りなく近く作られている為、暑さも寒さも、全て感じられるようになっている。


しかし、それはそれで不便だ。何故魔王なのに、人間に近いのか。それは、永遠の謎である。


「あぁ、やばいマジで寒くなって来たぞ?」

「俺ならまだ普通くらいだな」

「ワン!」


ウルフは、まだ元気そうだ。恐らくその皮毛が防寒着の様な役割をしているのであろう。


俺は、震え声になり、このまま雪山まで行けるだろうか?残念ながら、俺は魔王でも魔法は使えない。いや、雪山に行くのに防寒着を買わなかったのが、失敗か。魔王なのに、凍死だけはしたくない。あ、俺死なねぇのか。


「ただ不死身の体でも寒いのは嫌だああああ!」

「急にどうした?魔王」

「ああ、もう今すぐ帰りたい。雪山は、まだか?」

「もう目の前だ」


不死身の体というのは、自然や環境のせいで死ぬ事は無いと言う意味で、剣で斬られれば一撃で死ぬ。つまり、物理攻撃にめっちゃ弱いと言う事だ。


トロールの目の先を見ると、雪山が見えた。と言うか入り口だ。


雪山に近づくと門前払いを食らうとはどういう事だろう。俺は、雪山の登山口に足を踏み入れると、何か見えない壁の様な物が弾け飛んだ。


「ん?なんだ今のは......」


すると、今まで凍死しそうなくらい寒かったのが草原と同じくらいの暖かさになった。


「暖かい......」


トロールは驚いた顔で空気を感じていた。


さて、雪山に来たら絶対寒さでぶっ倒れるという心配があったが、これで心配は無くなった。守護神とやらを探そうじゃないか。


雪山に入ると、特に入り組んでいる事も無く、目の前に大きな洞窟があった。きっとあそこだな。


洞窟に入ると、またしても空気が変わり、ひんやり冷たい空気になった。これなら俺でも耐えられる。


「さて、お前ら、ここから注意しろよ。魔狼以外魔物がいる事は聞いてねぇけど、洞窟の中は、まず誰も入った事が無いからな」

「分かってるよ」

「ワウ......」


ゆっくりと洞窟の中を進んでいると、何か柔らかい物にぶつかった。


「なんだ?」


すると、その柔らかい物は、もぞもぞと動き出し、それは、すっぽりと洞窟にはまる大きさだと分かった。


まさかこいつが......?


「で、デケェ!」

「この洞窟に人とは、何者だ......。いや、この感じは、魔物か?」

「うおぉお!?俺の過去の部下ってすげぇな!」

「過去?部下?何を言っているのだ貴様は」


その正体は、洞窟と同じ位の大きさの狼。恐らくこいつが守護神だろう。


「あー、間違っていたら悪いけど、俺の事覚えてる?守護神さんよぉ!」

「貴様等知らん。帰れ」


酷っ!ここまで来るのにどんだけ苦労したと思ってんだ。簡単に帰る訳にはいかない。


「俺は、魔王だ」

「魔王?魔王様は死んだ筈だ。何故生きている?」


魔王様?どうやら部下からは、結構慕われていた様だな。


「生きている、と言うより復活したんだ。しかし、それが記憶喪失でなぁ、勇者に殺された瞬間だけ覚えてんのよ」

「記憶喪失だと?ほう。それをネタに私を騙そうと言うのか......尚更帰れ」

「さっきから帰れ帰れ酷いなぁ!ちょっとは人の話聞く耳は持たねぇのかよ!」

「ならば言おう。貴様は、魔王ではない。似ている似ていないの問題ではなく、威厳も無ければ、顔も違う。いい加減にしろ」

「顔も違う......?」

「なんだその反応は?まさか自分の姿を確認した事が無いのか。ならば特別に見せてやろう。自分の顔を見れば思い出すのでは無いか?」


すると、魔狼は俺の目の前に、魔法で鏡を出現させた。そしてその鏡で俺は、自分の顔ををじっと見つめる。


へぇ、俺って結構イケメンじゃん。


つい、自分の顔を見つめて、俺は、自慢気ににやりと笑う。


はっ!そうじゃなくて誰だこいつ......。


「......。駄目だ思い出せん。でも、これで俺は帰るつもりは無い。これでも『一応』俺は、魔王なんだ。だからお前をここで連れて帰るそれが、今回の目的なんだ」

「なるほどな。この私を服従させると」

「そう言うこった。因みにお前の知ってる魔王ってどんな奴なんだ?」

「我が魔王様は、偉大で、全魔族と人間以外の生命体を大切に思っていた方だ。そして、勇者に殺された瞬間、最後の力を振り絞り、人間に抵抗する為、魔王様以外生き残っている者全てを守ろうとした。しかし、それによって生き残った魔族は、部下の中の四天王のみ。その四天王の一人が私と言う訳だ」

「スッゲエー」


俺ってそんなすげぇ奴だったのか......マジ魔王って、感じじゃねぇか。


「私を仲間にするのであれば、問おう。私の本当の名を言え。魔王様が、私を召喚した時に、最初に付けてくださった真名の事だ。調べるもよし。チャンスは一度だ。私の真名を答える事が出来れば貴様を魔王と認めよう」

「真名か......」

「もし、答える事が出来なければ、交渉は決裂。二度と私の前に姿を見せるのを許さん」

「わお。オーケー。因みに今の名前は?」

「無い」

「は?」

「人間共につけられている名が今の名前だ」


あーなるほどな。魔王から付けられた名が真名。人間達に付けられた名が今の名前。どうせ調べても全部人間が付けた名前しか出て来ねえだろ。


でも、こいつはあくまで過去の俺の部下。人間が付けた名前の中に最も俺がしっくりくる物があったらきっとそれだろ。


一度しかチャンスは無いと言っても、それは、当たるか当たらないかの問題で、これだと思う名前を選ぶしか無い。


「分かった。任せとけ」


そうして、魔狼の真名を調べる為に、雪山を後した。


雪山の登山口から外に出た瞬間、中が暖かったせいで忘れかけていた寒さが一気に戻って来た。


「ウルフ!もうここには長く居られん!走るぞ!」

「ワン!」

「ちょ、俺を忘れるな魔王!」


そして走りながら、雪原地帯と平原地帯の境界線の様な所を抜けると、体が暖かい日に包まれた。


「あったけえぇ......」

「ワフゥ......」

「どうなっているんだここの環境は!」


トロールの言う通り、ここの自然環境は異常で、先程抜けた境界線も、目で見えるほどはっきりと、雪原地帯と平原地帯が分かれているのである。


つまり、境界線のど真ん中に立つ事で、右半身が暖かい、左半身が寒い。と言う現象が起こる。


「さてと、調べ物って言ったらやっぱり例の街しか無いかな」

「じゃあ、俺は、先に魔王城に帰ってるぜ」

「おう。ウルフはどうする?俺と一緒に行くか?」

「ワン!」


毎回の事だが、ウルフがワンと吠えれば、それは承諾したと言う意味で良いんだよな?雪山の狼は喋れるけど、ウルフは喋れない。いや、いつかあの狼と同じになるのか?


そう考えていると、街に着いた。街の見張りには、前回あった王国騎士の二人と同じ人が居た。


そして、俺は、作って貰った通行証を見張りの騎士に見せ、街の中へ入った。


「あ、そういえば、見張りさん。調べ物って出来る場所ある?」

「あぁ、図書館の事かい?」

「と、トショカン?なんだそれ」

「え?あ、本がたくさん置いてある場所の事だよ」

「あぁー、書斎みたいな所か。分かった」


俺は、街に貼ってある案内図を見て図書館と言う場所に着いた。


そこでウルフと一緒に建物に入ろうとすると、管理人の様なお爺さんに止められた。


「申し訳ありません。旅のお方。こちらは、動物を入れる事を禁止しておりまして、そちらの端の方で待たせておくなりして頂くと有り難いです」

「お、悪りい悪りい」


図書館の端の方に犬を紐で止められる様な棒が立っていたのでそこにウルフを止めようとした。


そこで俺は、少し考えた。ウルフは、あくまで魔物だ。この前、村長が死んだ時の通り、キレさせたらこいつはヤバイ。人間一人でも噛み殺せば、大騒ぎになるだろう。


なので、俺は、街の見張りの騎士にウルフの見張りを頼む事にした。


「ウルフ君を見張れだって?それなら喜んで承ろう」

「こいつは、キレさせると人間殺しかね無いから、気分を著しく損なわせる事は、どうにか防いでくれよ?」

「了解!」


そうして俺は、図書館に入った。


図書館に入ると、沢山の本が置かれていて、予想以上にびっくりした。


しかし、本の探し方がわから無いのでカウンターに聞いた。


「ここに雪山の魔狼についての本ある?」

「あぁ、それなら、少しお待ちください」


すると、カウンターの人が、勝手に本を持って来てくれた。


「お、ありがとう」


さて、本を読むかと、本を開いた瞬間、見たことも無い記号が沢山記されていた。記号の並びからして、恐らくこれが人間の文字なのだろう。


全く読めない。


どうした物か。人間の言葉は理解出来ても、文字が何が書かれているのか、まるで暗号の様だった。解読する余地も無い。


では、どうやって魔族は言葉を交わす様になったのか。文字は無いのかと言うと、『文字』で言葉を書くと言う概念は無く、言葉は、ジェスチャーか、テレパシーか。いや、何となくである。


実際、トロールや、ゴブリンの言葉を良く聞いても、正直何を言っているのかは、理解出来ない。しかし、聞いた言葉が頭で自動変換され、それが言葉として、伝わる様になっている。


この原理は、産まれながら、使っている事なので詳しくは分からない。


さて、魔族の言語に関してはどうでも良いか。全く読め無い人間の文字と睨めっこしても、何も進まない。カウンターの人にでも翻訳してもらおう。


「あのー。すまないが、文字が読めないんだ。知りたいところだけで良いから翻訳してくれないか?」

「そう......何ですか?分かりました」

「俺は、あの魔狼の真名を知りたい。人間の今つけている名前があったら順番に教えてくれ」

「分かりました。では読みますね」


犬、わんころ、狼、大狼と読み続ける。シンプル過ぎる。


雪山のワンちゃん、怖い狼、洞窟の狼。絵本か何かか?


雪山の守護神、ボスウルフ、雪山の門番。格好いいけど違う。


そして、沢山ある名前を読み続けてくれて一つだけ納得いく名前が見つかった。クリュス。


何故こんな名前を付けたのか。名前の意味も由来も考えられない。


クリュスと言う名前について聞くと、ある人の犬の名前らしい。


他人の犬の名前を借りるのは少し悪い気もするが、何故か最もしっくり来る名前だった。


「これだな」

「もう、良いのですか?」

「あぁ、助かった」


そして、すぐに図書館を出て、ウルフを解放し、雪山へ向かった。


雪原地帯は、全力疾走し、雪山の入り口に飛び込む。


そして、魔狼の棲む洞窟の中で俺は、叫ぶ。


「お前の名前はクリュスだ!合ってる?」

「かなり早く戻って来たな......クリュスか......あぁ、何て懐かしい名前だ。その名前は、真名では無いが、魔王様が、最も最初につけようとしてくれた名前だ」

「つけようと?」

「あぁ、私の名前を最初に決める時、誰かが自分の犬をそう呼んで、格好良かったから同じ名前にしてみるかと、悩んでいた魔王様を思い出す」

「えええ......その飼い主は魔王じゃなくて、本当に他人の犬かよ......」

「良いだろう。真名では無いが、最初の名を当てるとは......貴様を新たな魔王として認める。我が名は、ヴォルグレイ。『氷河の狼』の意を持つ」


ヴォルグレイ。かっけぇ!俺ならアイスウルフって名前つける所だったわ。


こうして、魔王の部下、四天王の一匹、ヴォルグレイが仲間になった。

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