第10話 魔王の暇つぶし

 俺は、ヴォルグレイに教えて貰った外れ騎士の街を襲撃した。

 襲撃結果は、見事に全滅の血の海。これによって魔王の初めての襲撃が成功した。


 これを、世界征服進行度1%と考え、慢心していたところ、王国騎士に見つかり、拘束された。


 騎士に拘束されると、薄暗く、ひんやりとした空間に、頑丈な鉄格子で出られなくされた。これが牢屋という物だろう。

 しかし、俺は、嫌な気分では無かった。むしろ落ち着く。魔王城とほぼ同じ環境だからである。


 だが一つだけ嫌な事があると言えば、すぐ近くにウルフが居ない事だった。獣専用の牢屋にいると聞いているが、酷い事をされていないか物凄く心配だ。


「何にもする事ねぇ......」


 魔王が拘束、牢屋にぶち込まれ、暇を潰せない程、退屈と言うこの状況は、普通あり得ないだろう。


 こんな結果になるんだったら、もっと俺が力をつけていれば、今頃半分くらい支配していると思う。


 そうして、今の状況を考えていると、丁度看守が前を通りすぎる。


「あのーすみません」


「あぁ? こっちは忙しいんだよ!」


「いや、ちょっとね。チョークとか、書く物無いっすか? 牢屋の中って暇で暇で......」


「チョークぅ? 牢屋に落書きするつもりか?」


「はい。どうせすぐに消せるでしょ」


「ったく......チョーク何てある訳ねぇだろ! 紙とペンならある。これでいいか?」


「あぁ、十分です! ありがとうございまーす」


 俺は、看守から紙とペンを獲得した。

 何故書く物が必要だったか? それは、単なる落書きしたいからでは無い。俺は、唯一道具さえ揃えば、どこでも魔族召喚が可能なのである。つまり、そういう事だ。


「よし! どんな奴召喚しようかな〜」


 俺は、貰ったA4サイズ程の紙いっぱいに魔法陣をフリーハンドで書く。


 床に書く魔法陣より、遥かに小さいが、大丈夫だろうか。


 そして、俺は、次の部下を想像する。


 やっぱり、移動手段が欲しいから、ドラゴンとか、良いだろう。

 この時、俺は、牢屋の広さを一切考えに入れていなかった。


「煉獄の炎を纏う赤き龍よ! 今、此処に君臨せん!」


 今までで一番最高のイメージだ。やっぱり、ドラゴンに憧れていたからだろう。

 紙に書かれた魔法陣は、牢屋全体を照らす程、眩しく輝き始めた。その光は、徐々に強さを増していき、直視出来ない程になる。


 そして、ドラゴンが召喚された。


 光が収まったのを確認し、目の前を見ると、何故か俺は、牢屋の外にいた。いや、牢屋の壁を突き抜けて、建物の外にいる。


「あれ、ここはどこだ?」


 もう一度、良く回りを見回すと、目の前に訳の分からない程の大きな龍がいる事に気付いた。


「ウオオオォオ!」


「でっけえええ!」


 しばらくすると、王国は、大騒ぎとなり、すぐさまドラゴンは拘束され、俺も一緒に、新たな牢屋へ移された。


「魔王! 一体なんなんだ! あの化け物は!」


「いや〜暇つぶしに召喚したら予想以上の大きさで......」


「召喚だと? そう言う事だったのか。今まで見た魔族は、皆、お前が召喚させた奴だったのか」


「そゆことー」


「ならば、拘束期間は延期だ。魔王なんて、永遠に拘束しておきたい所だが、お前が魔王であると言う証拠が無い為、一般人として扱い、この様になっている。延期の理由は、一つは、牢屋区画の全壊。そして、国民の不安を沈ませなければならない」


 え? 今こいつ何て言った? 牢屋区画の全壊? そんなに大きかったのか......。やらかしちまったなぁ〜。


「ははは......延期とか、マジ笑えねえわ......」


「自業自得だ。大人しくしておけば良かったものを」


「なぁ、そう言えば、ウルフはしっかり世話してるか? 餓死なんてさせたら俺マジで怒るからな?」


「大丈夫だ。安心しろ。流石に人肉を与える事は出来んが、大量の肉をウルフに与えている」


「それなら宜しい」


 大体一人で生きている奴が、犬一匹飼っていると、それは、唯一孤独を忘れさせる癒しなのだ。


 その癒しを不幸な事で失えばそれは、悲しいが、その癒しを、人に奪われた場合、飼い主の怒りは、計り知れない。

 だから、もし、騎士達がウルフを見殺しする様な事をすれば、俺は、何でもどうでも良くなってしまうだろう。


 そう考えていると、ウルフに会いたくなって来た。


「なぁ、一回だけでも良いから、ウルフに会わせてくれないか?」


「なら、写真だけ撮って来てやるよ」


「写真? なんだそれは?」


「は? 魔王は何も知らないんだな。写真ってのは、魔法で動物や景色の情報を、一定範囲取得し、それらの視覚的情報を、紙一枚に移すんだ」


「オーケー分からねえから、さっさと写真とやら、撮って来い。不安でおかしくなりそうだ」


「はいよ」


 しばらくすると、騎士がとあるカラフルな紙を持ってきた。


 それを見ると、元気そうなウルフの姿が映っていた。この紙に映るウルフでは詳しく安否を確認出来ないが、心からほっと安心した。


「魔王でも、優しい所はあるんだな」


「当たり前だ。ウルフは、仔犬の時から一緒だからな。まぁ、ある日突然、でかくなったけど......」


 そうして、結果、四ヵ月も拘束されてしまった。部下達は先に魔王城に戻っているらしく、ドラゴンだけ拘束から逃げられたらしい。ま、どうせ魔王城にいるだろう。


 俺は、牢屋を出て、街に戻ると四ヵ月も、放置していたのが原因か、誰一人として、外れ騎士の全滅の事を覚えている者は居なかった。


 みんな忘れるの早すぎね? 騎士達の中でも、殆どの者が、何故か俺が牢屋に居るのかも覚えていない。


 この時、俺は、外れ騎士の全滅と言う成果は、周りから単なる悪戯程度にしか思われいて居ないと思った。つまり、まだ、俺の存在が街一つにすら侵食していないのだ。


 これは早く魔王城に戻り、作戦会議とかをしなくては。

 そうして、俺は魔王城へ戻った。

 そこで魔王城目の前で魔王城の変化に気付く。


 あのドラゴンである。ドラゴンが、魔王城真上を休み処にしているのか、それだけで遠くから見ると、魔王城とドラゴンの影って感じで、すげぇ格好いい。


 こう見ると、ドラゴン召喚して、本来二ヶ月の拘束から、召喚が原因のプラス二ヶ月されたのは間違いでは無かったと、確信した。


 それから俺は魔王城へ入ると、ウルフがはっとこちらに気がつく反応を見せた直後、すぐに飛びついてきた。


「ワウウゥゥ!」


 あぁ、こんなに懐かれるとこんな最高だなんて......やっぱりこいつはもはや犬にしか見えん。


「さて、俺は、戻って来たぞ!」


「魔王よ、いつの間にドラゴン何て召喚していたんだな」


「あぁ、移動手段がどうしても欲しかったからな。あいつが、俺の拘束期間延期の原因とも言えるが......」


「そうだったのか」


「と言う訳で早速だか、緊急作戦会議を開く。俺が活動して居ないあいだ。全員俺の存在を忘れている! 外れ騎士なんざ、皆んな早く消えてスッキリ見たいな顔をしていた!」


「と言う事は、また一からと言いたいのか?」


「そ、そうなんだろ?」


「魔王よ、そんな心配は要らない。我らの目的は、世界を征服する事。人類を全滅又は、完全支配する事だ。我らの存在なぞ忘れられた所で、問題視する必要はない。『何に支配されているのか』ではなく、『支配されているか』が大事だからな」


「なるほど! 流石に部下だな」


 俺の部下の的確なアドバイスにより、緊急作戦会議は終わった。


 実は、次は何処を襲撃するべきか言おうしたんだが、また、部下に丸め込まれてしまった。


 まぁ、最初は、部下から記憶を取り戻す事を目的としていたから、これは、これでいいんだがな。


「じゃ、じゃあ、次は何処を襲撃しようか?」


「せっかくドラゴンを召喚したんだから、遠出でもしてみたらどうだ?」


「おぉ! それいいね!」


 確かに俺は、この世界で、記憶喪失で目覚めてから知った場所は、隣の村と、例の街。 

 そして、拘束された時に行った王国都市は何処だか覚えていない。


 襲撃した場所も含めるとたったの四箇所しか知らない。


 ドラゴンを使って、世界を知るのも良いだろう。

 さて、しかしそこで一つの問題が生じる。ドラゴンは言う事聞いてくれるかなぁ?


 俺は、魔王城を出て、真上に止まっているドラゴンに声をかける。


「おーい! ドラゴン! 俺の声聞こえる?」


「貴様が我が主か。此処はなかなか居心地が良い」


「満足で何よりだ! 突然だけど、お前の背中って乗れる?」


「我の背中は地獄の様に熱い。主は、そう我を作った筈だ」


 え、紅蓮の炎を纏いしって雰囲気で言ったはずなんだけど......


「多分、大丈夫でしょ! とりあえず降りて来い!」


 そう言うと、ドラゴンは、俺の目の前で羽ばたき風を起こしてから、その巨体を地面に下ろした。


 降りた地面は軽く地割れを起こす。


「やっぱり、でけぇなぁ......」


 そう関心しながら、ドラゴンの背中を見ると、炎が激しく燃え上がり、羽も、背中ほぼ全面が炎に包まれている。


 ただ、あくまでほぼなので、肩甲骨中央あたりだけ燃えていない事に気付いた。


「あそこなら行けんじゃね?よぉし、背中に乗るぞー」


「本当に大丈夫か?」


「あぁ、心配するな」


 俺は、勢い良く背中に飛びつく。硬いウロコをしっかり掴む。


 炎は、ギリギリ触れていない為、熱くは感じない。


「よし、飛べ!」


 しかし、ドラゴンが飛ぶ際、羽を扇いだ瞬間、風で炎が思いっきり俺に触れる。


「あぁっち!」


「大丈夫か?」


「大丈夫だ! 思いっきり飛んでくれ! そうだな、南方面だ!」


「了解」


 ドラゴンは、更に羽を扇ぎ、急発進する。羽を扇ぐ度に熱風と炎に直撃し、火達磨になるんじゃないかと思うくらいだった。

 そして、しばらく飛ぶと、北の雪原地帯とは違い、火山地帯の様な区域に入った。


 地面は、完全に枯れ果て、全面に炎が敷かれ、目の前の火山が何度も噴火を起こす。そして、更に熱い。死ぬかと思うくらいだ。


「なんだよここ......まるで侵入禁止区域かよ」


「人が住む気配が一切感じないな」


「よし、じゃあ、あの火山の麓まで行くか」


「了解」


 麓まで行くと、いつぞやのヴォルグレイの様な結界が張られている事に気付いた。

 まさか此処にも四天王の一匹ってのがいるのか?


「火山に入るか?」


「いや、今日はやめておこう。あくまで探索しに来たんだから」


 結界が貼られていると言うことは、ヴォルグレイのような守護神扱いされている、魔王の四天王と呼ばれた何かがいる可能性はかなり高い。

 さらに奥へ探索しに行っても良いが、ヴォルグレイとの初対面の時も俺のことは覚えていなかった。


 だからワンチャン覚えていない=即攻撃される可能性だってある訳だ。

 現在、俺とドラゴンだけで。勿論ドラゴン一匹でもやれなくは無いと思うが、護衛が一体しかいないのはあまりにも心許ない。


 より詳細な探索は仲間を集めてからの方が良いだろう。


「了解。では、帰るか」


「おう」


 こうして俺は、南方面には火山がある事を知り、魔王城へ帰った。

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