カラオケ


 彼女等は北千住のとあるカラオケ屋に来ていた。

 内装にはこれといった工夫やこだわりはないが、何故か壁一面に描かれている奇妙な表情をしたうさぎが印象的だった。平日のせいか、店内はがらんとしている。


「何歌うー?」


 恵里菜はマイクを手に取りながら皆に訊いた。


「やっぱりここは盛り上がる歌でしょお!」


 愛華が手をぱちぱちと叩いた。


「じゃあうちからいきま~す!」


 玲奈は恵里菜からマイクを横取りすると予約機で選択した歌を歌い始めた。



 あれから一時間後。


「ごめんなさいの、キッシンユー♪ 言葉以上に反省のしるし♪」


 五人の女子高生は大いに盛り上がっていた。レンタル場所から誰かが持ってきたタンバリンやマラカスの愉快な音が、より一層彼女等のテンションを上げっていった。


「やっぱサイコーやな、カラオケ!」


 美涼は愛華の歌声や楽器の音に掻き消されないように大きな声で隣に座る璃彩に言った。愛華と玲奈は二人で熱唱しながらソファの上で曲に合わせ、ぴょんぴょん跳ねていた。


「美涼が元気取り戻してくれて良かった!」


「いやもう雅人は吹っ切れとるから!もう心配せんでえ!」


 室内はやや暗い照明に設定されている為、美涼の顔には少々影ができていたが、その前向きでキラキラな笑顔は負けずと輝いていた。


「ね、デュエットしない?」

「おー璃彩とデュエットかあ!いいで!」

「何歌う?」


 途端に一曲歌い終わった愛華が携帯を取り出すと皆に提案した。


「ねね、今から龍二たち呼ぼうと思うんだけど、どお?」


「愛華あんた、もう本橋に怒ってないの?」

 玲奈が心配そうに訊く。


「あーなんかさっきメール来ててさ、ごめんって」


「よかよか」

 突然璃彩の頭にある考えがよぎった。


「待って!っていうことは泰希も来るの?!」


「まあそうなるよね、あそこ全員仲良いから」

 愛華はニンマリと笑った。


「いいじゃーん、チャンスチャンス!」

 璃彩は内心どこかで泰希に会いたいと思っていた。


「やったー、またしょーちゃんに会える」

 恵里菜がぽとりと呟く。


「じゃあ連絡してきまーす!」


「待て待て待てい!」

 玲奈は下を向き、片手を挙げながら愛華を止めた。


「龍二ら辺が来るんでしょ?ってことは隼也も来るじゃん!まじあいつだけはムリ」


「なんでえ、っていうかまだ皆が来るかもわかんないじゃん?」


「そーだけどさ、まあ、あいつ来たらうちソッコー帰るんで、よろしく」


「オーケー牧場ー」

 そういうと愛華は龍二に電話するために部屋を出ていった。



「来れるって!」

 数分後愛華が嬉しそうに戻ってきた。


「で、隼也来るって?」


「今一緒にいないから来ないって」


「まじ?よかったあああ」


「来るのは龍二、泰希、達也、翔哉、の四人らしいでーす。あと十分くらいで来るっ

 て。あ、あと追加料金はメンズに払わせまーす」


「何、璃彩そんなに緊張してるの?」

 プッと笑いながら玲奈は璃彩の顔を覗き込んだ。


「だって何話せばいいかわかんないしい」


「無理して話さなんでもいいんやで!」


「そーそー自然に振る舞うの!同じ空気吸ってるわ、幸せえ♡思考で!」


「なにそれ」


「じゃあ璃彩の緊張ほぐすために何曲か歌いましょー!」




 室内の時計は午後八時を示す少し手前だった。


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実は心優しい不良JKたちが人生ゲームを始めた結果。 高峯紅亜 @__miuu0521__

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