女子高生の恋愛事情


「ギャハハ、あれまじやばかった!!」

 愛華は手を叩きながら爆笑している。


「その理由を女子に述べさせたらセクハラになります」

 その隣で美涼が玲奈の真似をする。


「だからそれ辞めてよ、ギャハ、美涼まじモノマネうますぎ!」



 六時限目でのあの騒動があった日の帰り道。

 健三をやっつけた気になっている二人はいつも以上にテンションが高かった。


「ってゆーか、」


 璃彩は言いかけながら玲奈に目を向けた。玲奈も爆笑しながら美涼と愛華の動画を撮っている。


「セクハラになりますってどういう事だったの?」


「あー、あれね、自分でもよくわかんない」


 案外返事は素っ気なかった。彼女の首に巻き付けてある紺色のマフラーは風にゆらゆらと靡いていた。


「セクハラとか言っとけば健三もビビってあまり聞いてこないかなって思って」


「でも健三くんめちゃオコだったじゃん」


 その横で会話を聞いていた恵里菜が口を挟む。


「まあね、でもあれはあれで面白かった、アハハ!」


 玲奈は高らかに笑うと再び携帯の画面に視線を戻した。




 落ち着きを取り戻した二人と共に三人は近くの公園で時間を潰していた。

全員スマホの画面に目が釘付けである。そして長い沈黙を破るように美涼が言った。


「ねえ、雅人がさあ......」


 そう言うと美涼が突如泣き始めた。


「どーした、どーした!」


 隣に座っていた玲奈が美涼の肩を抱きながら言った。美涼のスマホの画面をちらっと覗くとそこには雅人と彼女とのトーク画面があり、一分前に彼の方から

「別れよう」

 と四文字が送られていた。


「雅人が......んぐ、別れよう......って、んぐ」


 皆絶句していた。何しろあの大らかキャラのまさエモンの方から別れを告げることは絶対にないと思っていたからだ。


「あたし雅人大好きやったのに......」


 美涼は静かに続けた。


「たくさんデートして、大切にしてくれて、毎日大好きって言ってくれて......あれ全部ウソだったの......」


「違う」


 愛華が珍しく真面目な顔つきになっていた。


「きっとまさエモンの中で何か気持ちの変化があったんだよ。まさエモン頭いいじゃん?しかもトップ大学狙ってるみたいじゃん?恋愛してる暇が無くなってきちゃったんじゃね?」


「何それ、愛華にしてはまともなコト言うじゃん」


 恵里菜がボソっと言った。


「どういうこと?」


 美涼は愛華に対して質問する。


「だからさー、わかんない?トップ大学狙ってんならそれなりに勉強しなきゃじゃん?それで美涼に対しての対応が適当になったり、美涼と過ごす時間が少なくなるのが嫌で、美涼にも悲しい思いさせたくないからなんじゃない、分かんないけど」


愛華は自分の髪を指でクルクルと回しながらカラッと言った。


「んーそうなのかな。あたし雅人に電話してくるわ、グスッ」

 

 そういうと美涼は立ち上がりフラフラと歩くとブランコに腰掛けた。



 十分後美涼が帰ってきた。先程とは打って変わって顔が晴れ晴れしている。


「あーすっきりしたわ!」

 両手を伸ばすとはつらつとした声で言い放った。


「で、理由はなんだったの?」


「愛華の言う通りだった。勉強に集中したいんだって」


「やっぱりね......」

 愛華はどことなく寂しそうだった。


「でもいいの、」

 美涼の声は柔らかかった。


「雅人には自分の選んだ道に進んで成功してほしいし、私なんかよりもっと良い人待ってると思うし。だから、いいの」


 どこか遠くを見据えていた彼女の目には涙がいっぱいたまり、夕日の光をキラキラ反射していた。


「でも幸せだった。誰かにこんなに好かれてもらって、必要とされて。雅人本気で最高だった。もっともっと思い出作りたかったけど私は雅人の決断に反対しないし応援する」


「美涼......」


「あんためちゃ成長したんじゃね?今の全部録音しとけば良かったレベルでいいこと言ってたよ!」

 玲奈が切ない空気をぶち壊す様に大声で言った。


「そう?思ったこと言っただけえ」


 テヘヘ、と笑いながら舌を出す美涼。いつもの皆の姿が戻ってきた。


「しかもさ、今回ばかりは関西弁風じゃなかったよね、まじウケ〜」


「それ地味に思ってたー」


 恵里菜が両手を温めながら賛同した。


「ねね、カラオケ行かない?美涼をもっと元気付けるためにもさ!」

 愛華がパッと明るい口調で言った。同時に美涼は涙を腕で拭った。


「え、行こ行こ!!」

「こっからダッシュで二分のとこにあるっぽいよお」

「えーダッシュ無理ー」

「じゃあ璃彩たん置いてけぼりでえ!」

「はあ、やってやろうじゃないか、恵里菜たん」

「皆さん用意はいいですかあ」

「ではいきま~す、よーい、どん!」



 一斉に地面を蹴り上げた彼女等の脚は夕日でオレンジ色に染まっていた。

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