改札でちゅー
ようやくお経のような長い授業が終わり皆の最も好きな時間、昼休みの時間がやってきた。璃彩と美涼は弁当箱を手にベランダへ向う。日当たりの良い場所を見つけるとそこを陣取るために美涼が百円ショップからくすねてきたハート柄のレジャーシートを広々と敷いた。
二人で先生の声が嫌いだの、学校に来る意味がわからないだの、だらだら話しながら弁当を食べていると
玲奈はすごい剣幕をしていた。
「龍二のやつ愛華に暴言吐いたんだよ!」
ずかずかと土足でレジャーシートの上に胡座をかくなり玲奈が口を開いた。目がきつく口の悪い玲奈は耳につけている銀色の十字架のピアスが、よく似合っていた。
「それでよお、なんて言ったと思う?あいつ、そのメイクあんまり似合わないしダサいって言ったんだぜ?!まじ女子にそんなこというとか神経どうかしてるわあー」
「もーいいよ、龍二なんていつもそうだから」
愛華はふてくされて言った。いつも高めの位置でツインテールをしてため、馬鹿が余計馬鹿に見える。
箸で大きなコロッケを口に頬張った恵里奈は可愛いルックスとは裏腹に低い声で呟いた。
「でもまあ、なんとかなるっしょ」
華奢な体型なにもかかわらず、大食いの彼女は多くの女子からその太らない体質を羨ましがられている。
恵里奈の淡い茶色の髪がそよ風に靡く。色白でビー玉のような目をしている恵里奈は多くの男子を魅了していた。
「いや、呑気だなあ、お前は!」
「いやーだって男子なんて所詮そんなもんだから」
「いやお前愛華の気持ちになってみ?!翔哉にそんなこと言われたらどうするよ!」
「別に。んなこと言われたらそっこー別れてやるわ」
「は?!お前まじそれ軽すぎだから!」
恵里奈は校内一のイケメンと言われている
「改札でちゅー」だった。
か・・・かっこいい〜♡
い・・・いっしょにいたいな
さ(つ)・・・さこつふぇちなんだよね
で・・・でーとしよ
ちゅー・・・ちゅーしてい?
一般人からしてみれば呆れるような内容だが彼女たちにはこれで男を落とす自信があった。同じ時期に恵里奈が翔哉に想いを寄せていることが発覚し、すぐさま
「改札でちゅー」を実行することになったのだ。
作戦はこうだった。毎日ラインで翔哉と連絡を取るようにし、必ずこの言葉をさりげなく入れながら会話を勧める。もし「でーとしよ」でデートに誘い出せた場合最後の「ちゅーしてい?」を改札の別れ際で言う、といったものだった。
結果見事に成功。恵里奈の可愛すぎるマスクとその言葉に圧倒された翔哉は改札で本当に恵里奈にキスをしてしまったらしい。
翌日二人で手を繋いで学校に登校してきた二人を見つけるなり玲奈は大声で「よっしゃあああ!!!」と叫んだのだった。
玲奈は軽く恵里奈の頭を小突くと二人でけたけた笑った。さっきまでふてくされていた愛華もつられて笑っていた。その隣でスマホを弄っていた美涼も会話を聞いていたのか、スマホの内容に笑っているのかさっぱり分からなかったがニヤニヤしていた。璃彩はそんな呑気な彼女たちを眺めているのが好きだった。
なんでこんな所に来たんだろう、始めはそんなふうにしか思っていなかったがそれは大きな間違えだった。
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