実は心優しい不良JKたちが人生ゲームを始めた結果。

高峯紅亜

足立第四工業高校

 お気に入りの白枠の姿見の前に立ち膝上30センチまで制服のスカートをあげるのが鳩山璃彩はとやまりさの毎朝の習慣だった。

そして真っ黒なブルゾンを羽織り全身をチェックする。それからカラコンがずれていないか念入りに確認するとちらりと時計に目をやった。一昨日購入した時計は既に7:45を指していた。


「化粧は途中のコンビニですればいいや」


 うわごとのように呟くとパステルカラーで描かれたマカロンの化粧ポーチを鞄に投げ入れた。階段を駆け降り扉を開くとキッチンでエプロンを巻いた母 三枝子みえこが朝食を作っていた。互いに短い挨拶を交わすと璃彩は茶碗にホクホクの白米を盛り三枝子の作ったできたての目玉焼きをその上に乗せ、醤油をかけた。三枝子はガスコンロの火を消し璃彩の前に向かい合って座った。


「ごめんね、毎朝こんな質素な朝食で」


 璃彩は黙って食べ続けた。


「できることならもっとりーちゃんに食べさせてあげたいんだけどねえ......。弁当も少ししか入ってないけどごめんね」


「りーちゃんって呼ぶの中3までって言ったじゃん、あたし高2なんだけど」


 冷たく言い放つと三枝子は寂しそうな顔をし部屋に戻ってしまった。きつく言いすぎたかなと反省しながら食べ続けた。


 璃彩は質素な朝食を済ませ、弁当を鞄に突っ込むと家を飛び出した。左手にしている花柄の腕時計を見るとあと数分で8時になるところだった。家の横にもたれかかるようにして置いてある自転車に跨り勢い良く漕ぎ出した。

 同時に吐き出した璃彩の息は白く仄めいた。




 チョークが黒板を叩く音が教室に響き渡る。目に活気のない生徒たちはぼんやりと宙を眺めていたり、手遊びをしていたり、突っ伏して寝ていたり、メイクをしていたりと個々で自由に授業が終わるのを待ち侘びていた。教師が生徒に対して質問を投げかけても誰ひとりとして応答しない。こうなると謎の団結力が生まれ、今まで個人で活動していた者は皆一斉に集団に紛れ込む。


 足立区内の下位校、足立第四工業高校は年々人気が下がっていた。汚い外装に偏差値の低さ、生徒たちの犯罪率の高さから毎年の入学生は減っており、璃彩たちの代の生徒数はたったの四十三人だった。

A組とB組の二クラスから成る六十八期生に所属する璃彩はB組だった。



「ねー、授業あと何分で終わるん?」


 何故かわからないが最近大阪弁を使うのにハマり始めた平塚美涼ひらつかみすずは語尾をわざと強調し、璃彩の耳元で囁いた。身長は然程高くなく小柄な彼女のトレードマークは真っ赤な口紅だった。


「あと五分くらいで終わるよ」

 

 璃彩は嬉しそうに囁き返すと美涼は横目で彼女を見て小さくピースサインをした。

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