第17話 新たな巨人
「おい、優子。待てよ、なんだよさっきの『わたしたちが巨人』って?」
避難先の建物に向かう途中で奏が訊いてくる。
「言葉通りだよ。わたしと誠司さんが融合して巨大化したの。あの大きな肉の塊もわたしたちが燃やしたの」
わたしは肉の塊も燃やしたことも全然覚えてないけど。そんなことまで言う必要はないと思う。誠司さんだけに負担をかけたくないもの。
「なんで、そんなことになるんだよ」
「知らないわよ、そんなこと。それよりも早く避難しないともうすぐ先輩が来るわよ」
先輩が来るから避難するって、どこの不良学生よ。でも、今はただの不良学生よりも怖い存在になってる。
わたしたちが渡り廊下で立ち話をしたために、誠司さんやしずかたちはもう避難先の建物に到着している。
その時、窓の向こうにキラリと光ったように見えた。来た!
「ほら、早く!」
わたしは奏の包帯が巻かれていない右手を掴んで引っ張る。
……わたしと奏は幼稚園のころからの幼なじみだ。時には小突いたり、逆にちょっかい出されたりして体を触ることは珍しくなかった。さすがに中等部に入ってからはそんなことはほとんどしなくなったが手を握ったり、背中を押したりなんかは日常の行為だった。
だから、こんなことになるなんて想像もしていなかった。わたしと奏が融合するなんて……。
渡り廊下の壁を壊して俺は背中から落ちた。いや、俺たちは……か。
二階から落っこちたはずなのにほとんど痛みがない。巨人の体はかなり頑丈らしい。これなら戦える。そう思った。俺は立ち上がり自分の体を見る。優子と北科先輩が融合した巨人と違って俺の体は脇から足元にかけて赤いラインがついているが、ほぼ緑一色だ。
一昨日の事故で被った痛みも全然感じない。意外と調子がいいぞ、この体。
もうすでに生徒会長と姉が融合した巨人は地面に降り立っていた。自衛隊のヘリが周囲を飛び回っているが攻撃をしていない。命令が出ていないからか。
まあ、いい。俺は自衛隊の命令を守らなくちゃいけない義理はないからな。俺が奴を倒して姉さんを助け出してみせるさ。……俺と優子がな。
俺はゆっくり奴に近づく。奴は首をかしげてこちらを見る。まさか、こんな巨人が出てくるなんて思いもしなかったんだろうな。すると突然、頭の中になにか聞こえてきた。
「そろそろ来るころだと思って寄ったんだけどね。まさか別の巨人になるなんて思わなかったよ、南月」
巨人には口がない。だから奴が喋ってるわけじゃないはずだ。これがテレパシーってやつか?
「おい、生徒会長さんよ。おとなしく人間の姿に戻って姉さんを解放しろ。そうしないと俺がお前を倒すことになるぞ」
俺も頭の中で奴に向かって語りかけてみる。奴は首を軽く上下に振った。どうやら笑っているようだ。俺のテレパシーも向こうに通じているみたいだな。
「面白いね。そうかこの子、君のお姉さんなんだ。……まあ、君が誰か知らないんだけど」
生徒会長はそう言うと腰を落として極端な前傾姿勢をとった。
「……曽我奏。へえ空手やってるんだ。そいつは怖いなあ」
会話だけじゃなくて心の中が読めるのか?
「いいね、そんな正義の味方
そう言うが早いか奴はこちらに向かって飛び込んできた。タックルする気か?俺はステップバックして奴の攻撃をかわそうとするが相手の方が速い。腰を組まれたかと思うと、あっという間に持ち上げられる。スープレックスか?だが、格闘技の経験も知識もないのだろう。本来の背後からじゃなくて正面で組むのは意味がない。俺が奴の体をつかめば威力が半減して不発に終わるからだ。
持ち上げられた俺は奴の体を両腕で挟む。すると奴は俺を持ったまま空を飛びやがった。
ある程度の高さまで上がったかと思うと奴は上下をくるりと反転させて真っ逆さまに落っこちる。俺は奴の体を引き剥がそうともがくが意外と力が強くて全然、離れない。そして、二人揃ってそのまま地面に叩きつけられた。
俺たちが開けた穴の中から最初に飛び出したのは生徒会長の方だった。俺は穿たれた穴からやっとの思いで這い上がる。すると奴はそんな俺に強烈な蹴りを加える。巨人としての体のサイズはそんなに変わらない。だが、奴の重い蹴りは俺の体をまた穴の中に叩き込んだ。
「……南月、こいつはダメだわ。私、こいついらないわ」
そんなことを言ったかと思うと頭についているツインテールの触手が俺の体に絡みつく。そして俺の体を高々と持ち上げて、またまた叩きつける。
「早く南月から離れな。あんたじゃ役者不足だよ」
穴から引っ張り出されると右の拳で殴られる。地面に倒れて、もう体がフラフラになってる。
その時、シュルルという音が聞こえたかと思うとなにか破壊する音が聞こえた。土煙があがって視界が悪くなる。見ると生徒会長ははるか遠くに飛び退いていた。
どうやらミサイルか何かが放たれたようだ。おかげで俺は止めをさされることを免れたらしい。そのまま意識が遠のいていくのを感じた。
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