第13話 私、嫉妬してます。
由美那から言われた二駅ほど先の病院に着いた時はまだ昨日の今日だからか、かなりごった返していた。かなりの数の病院があまりにも多すぎる怪我人のために音を上げて受け入れを制限したのに対してこの病院はほぼ全てを受け入れたらしい。
受付で奏の病室を聞こうとした時に
「南月ちゃん」
と背後から声が聞こえた。振り向くと頭と右腕、右足に包帯を巻いたしずかが立っていた。まだセーラー服を着ているところをみると家に帰っていないみたいだ。
「しずか、大丈夫なの?」
わたしは彼女に近づいて怪我をしていない左側を触りかけた。ふと体が止まったが思い直して改めて彼女の左肩に右手で触れる。……やっぱり、なんともなかった。
「うん、私はたいしたことないです。奏くんもさっき目が覚めたの。今、ご両親がいらしているんだけど……」
しずかが言いよどむ。しばらくしてから
「ねえ、南月ちゃん。『かなで』さんって知ってますか?」
と訊かれた。いきなりその名前がしずかの口から出てくるとは思わなかったから、わたしも言いよどんだけどとりあえずうなずくことはできた。
「そっか……やっぱり知ってたんですね」
「でも、どうしてしずかがその名前を知ってるの?」
わたしの背後から咳払いが聞こえた。振り向くと見知らぬおばさんがこちらを睨んでいた。そうだここは病院の受付前だったんだ。わたしは彼女の手をひいてどこかゆっくり話ができるところを探しだした。
「奏くんもお姉さんが生きていたなんて知らなかったみたいでショックを受けたみたいなの。そうよね、生きているっていってもあんな怪物になっているなんてなったらどう反応していいかわからないもの。……だけど私、奏くんにお姉さんがいたなんて全然知らなかったから、ただ黙っていることしかできなくて。それに、南月ちゃんは知ってたってことが……」
「わたしも奏からは一言だってお姉さんのことは聞いたことないよ。うちのお母さんからの又聞きだから。奏に直接訊いてもまともに答えてくれたことないもの」
わたしたちは病院の中庭の芝生に腰掛けて話しだした。本当はベンチに座りたかったけど、ほとんど塞がっていた。
「うん、ごめんなさい。私、南月ちゃんに嫉妬してます。マックで私たち奏くんがどれだけ南月ちゃんのことが好きだったかずっと聞いてたの」
そんなこと話してたのか。よりによって、あのバカ。
「わかるよ。わたしだって誠司さんが以前、好きだった人のことを聞かされたら嫉妬で気が狂いそうになったと思うから」
「……そうだ!告白はどうなったんですか?」
わたしは左手で小さくVサインをだした。しずかは笑顔を浮かべた。
「おめでとうございます。そうか、もう『誠司さん』って呼ぶ間柄なんですね。北科先輩は南月ちゃんをなんて呼ぶようになったんですか?」
「……下の名前を呼び捨てで」
それを聞くとしずかは自分のことのように喜んでくれた。
「南月ちゃん、下の名前で呼ばれたがっていましたものね。あ、私も『優子ちゃん』って呼んだほうがいいかしら?」
「いや、それはお好きなように。『南月』って呼ばれるのも悪くないし」
実際、この名字だって好きなのだ。
それよりもまさかあの「サンプル1」に融合されていたうちの一人が奏のお姉さんだったなんて。御厨山さんは知ってるのかしら?
「それにしても南月ちゃんも北科先輩もよく無事でしたのね。私たちよりもあの場所に近いところにいたんでしょう?」
わたしは曖昧にうなずく。気を失っていたからどうやって助かったのかわからないと、またもや嘘をつく。裁量に任されてもポンポンと本当のことを言えない。
「きっと北科先輩が助けてくれたんですね。すごいです」
それはたしかにそうなんだけど、たしかにすごいんだけど。誠司さんの気持ちを考えたら素直に喜べない。
「しずかはどうするの?さすがに二日間外泊はまずいと思うんだけど」
そう言うとしずかも
「私もそう思います。南月ちゃんは奏くんのお見舞いに来たんでしょう?病室まで送ったら帰ります」
同意して提案してくれた。でも、
「わたしも帰るわ」
と言った。しずかは
「どうしてですか?奏くん、南月ちゃんに会ったらきっと元気になりますよ」
反論してきた。それじゃダメなのよ。
「わたしは誠司さんの彼女になったの。奏を元気にさせるのはもっと別な人の役目だよ」
わたしはしずかの目を見て言った。
翌日、わたしはまたもやヘリコプターの機上の人となった。
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