第10話 一夜明けて……

 お日さんが昇ってすぐに家を出た。結局、昨夜は一睡もでけへんかった。始発で学校のある町に向かう。

 あれからパソコンでホンマにニュースサイトをチェックしたけど最初の爆風の被害は半径三百メートルくらいらしい。爆風はその一回らしいから、僕らが融合したときにはどうやら爆風は起きへんかったみたいや。

 せやから学校から二キロメートルほど離れてる駅や線路は無傷やった。それでも混乱はしとったみたいで一時、運転見合わせしとったらしい。今はもう通常運行しとった。

 学校に向かうバスはやっぱり走っとらんかった。手書きで作った迂回図を見て一番近いバス停を確認してから乗り込む。

 バス停を降りてしばらく歩くと例のコンビニに着いた。着いたいうてもさすがに一帯は立ち入り禁止に指定されとる。「KEEP OUT 立入禁止」のテープがあっちこっちに張り巡らされとる。

 僕は一番近うにコンビニが見えるところまで来た。もう融合体は自衛隊が運び出したらしく、そこには無かった。その融合体があった場所に向かって頭を下げる。

「すんません、すんません……」

 心の中で何度も詫びた。そのくらいしか、でけへんから……。


 ここまで来たら学校にも寄ろう。たぶん、ここも立入禁止やと思う。案の定、立入禁止のテープが校門に幾重にも張り巡らしとった。その前に白いサマーセーターを着て、生成りのフレアスカートを穿いたボブカットの女の子が立っとった。

「優子」

 その女の子から少し離れた場所で声をかける。びっくりさせるわけにもいかんしな。彼女はこちらを振り向くと「ああ……」と声をあげた。


 声をかけてきたのは、ジーパンに白いティシャツの上にGジャンを羽織った誠司さんだった。思えば今まで学校でしか会ったことがないから私服の彼を見たのははじめてかもしれない。

「どうしたの?」

 彼がさらに声をかけてくる。

「眠れなかったから。日が昇ってからなんとなく学校に行ってみようって思って。……誠司さんは?」

「僕も同じだよ。たださっきコンビニのところまで行ってきた」

 誠司さんが融合体を倒した場所だ。

「心の中でお詫びをしてきた。……だからどうなるってものじゃないけど」

「言ってくれたら、わたしも行ったのに」

「君は関係ないよ。あの巨人を操って殺したのは僕なんだから」

「関係なくないです!」

 誠司さんは、わたしが大声を上げたのが信じられなかったのかビックリした顔をしてる。

「わたしだってあの場で巨人の中にいたんです。れっきとした当事者ですよ」

 わたしは彼の顔を見上げて、さらに問い詰める。

「それに、わたしたち恋人同士じゃないんですか?それなのに……。一人でなにもかも背負い込まないでください」

 最後は涙目になった。かっこ悪い。最悪だ。彼もどうしていいか困ってる。その時、

「南月?……北科くんも。どうしたの?」

 と、声がした。彼の背中越しに学校指定のジャージを着た、古矢ゆりか先輩が立っていた。


「なにかできることがあるんじゃないかと思って汚れてもいい格好で来たんだけど」

 古矢はそう言って笑うてる。いや、高校生ごときがなんもでけへんやろ。こんだけの惨事になっとるんやから。

 今日の彼女はいつものツインテールをやめて、髪を一つにまとめてアップにしとる。そして、僕らをジロジロと見て

「やっぱり二人ってつきあってるんだ」

 と言うてきた。やっぱりってつきあいだしたのは昨日からやぞ。

「南月も北科くんもお互い意識してたのは気がついていたけど、どっちも積極的じゃないからね。こりゃ一肌脱がんといかんかって思ってたのによくうまくいったね」

 余計なお世話や。どうもこいつは苦手や。生徒会長やから仕方のう相手しとるけど。それにしても古矢と仲の良い優子がさっきからなんも喋っとらん。

「南月、どうしたの?顔色悪いよ」

 古矢がそう言いながら優子に近づいていった。やばい。間に入ろうとしたが、僕が古矢に触れても融合してしまうかもしれへんからと考えてしもうて迂闊に近寄れへん。

 案の定、優子が彼女からサッと身を引いた。

「どしたの?私、なにかした?」

 古矢は怪訝な顔をして僕らの顔を見る。優子もどないしていいかわからんのか僕の顔を見る。しゃあないな。

「……裁量に任せるって言ってたから、言ってもいいと思うよ。……古矢、他言しないでほしいんだけど」

 そう断って僕は昨日からのことを喋りはじめた。

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