第5話 曽我奏
俺は瀧岡と瀬田をつれて学校近くのマックにやってきた。
「チョーソカベ、なんでこんなところに連れてくるのよ。もう覗きになんかいかないよ」
瀧岡はそう言いながら二階の窓際のテーブル席に腰掛ける。その右隣に瀬田が黙って座る。それぞれSサイズのコールドドリンクを注文して持ってきている。
二人の正面に座った俺は
「二人とも知ってるんだろ。俺が失恋したってこと」
と切り出した。二人はいったんお互いの顔を見合わせてから俺の方に向き直った。
「失恋したって気がついてたんだ」
あいかわらず、こういうことは瀧岡が仕切るんだな。まあいいけど。
「そこまで馬鹿じゃないつもりだよ。優子のやつ、俺に自分の恋愛相談をしてきたのは暗に俺に諦めてほしいっていうメッセージだったんだろ?」
「あたしたちも今日、はじめて知ったんだよ。あんたに相談してたなんて」
瀧岡は弁解するようにそう言った。
「別に優子やお前たちを非難してるわけじゃないんだ。むしろ俺を傷つけないように配慮してくれたんだと思ってる」
そりゃ告白する機会を与えてもらえなかったのは腹立たしいが、それも俺がぐずぐずしてたからだ。誰を恨みようもない。
「ただ、せっかくお前たちを連れ出してきたんだ。こうなったら俺の愚痴を徹底的に聞いてもらおうと思ってな」
「……愚痴?南月の悪口なら聞く耳持たないよ」
「そんなわけないだろ。とにかくあいつのどんなところを好きになったか、告白できなかった自分の不甲斐なさを聞いてもらいたいだけだよ」
「……だけって、そんなめんどくさいこと」
「私、聞きます」瀧岡が断ろうとするのを遮るように瀬田が了承してきた。「それでシラベエくんが南月ちゃんのことを少しでも吹っ切れるなら喜んで協力します」
瀬田のいつもと違う勢いに圧倒されたのか瀧岡が
「……フィレオフィッシュ」
とテーブルを指差しながら言ってきた。
「聞き代としてフィレオフィッシュ一つを所望じゃ。すぐに用意いたせ」
それは俺に奢れって言ってんだよな。まあ、フィレオフィッシュ一つくらいなら安いもんだ。
「……それでしたら、私は期間限定のマスカットシェイクをいただきます」
瀬田が手を上げて珍しく瀧岡の提案に乗っかりやがった。
「それだったらポテトも追加してよ。セットで頼めば安くなるでしょう。あたしとしずかで食べるからMサイズ一つでいいよ」
図々しいことを平気な顔して言いやがって。俺は財布を持って立ち上がり一階のカウンターに向かった。
お姫様二人のためにフィレオフィッシュのセットを買ってきた俺は遠慮なく今までの思いの丈を吐き出した。本来なら優子に向かって言うつもりだったのだが。
瀧岡はフィレオフィッシュを食べきったら早々に飽きたらしく窓を見ながら相槌だけはちゃんと打っていた。どうやらフィレオフィッシュひとつ分の仕事はするようだ。
対して瀬田はただ黙ってこちらを見ながらシェイクも飲まずに俺の話を真剣に聞いてくれた。
俺は優子との思い出やどうして好きになったかを思いつくままに語っていた。今まで女々しいからと思ってずっと黙っていた分、そんな話しならいくらでも出てくる。
三十分くらい経った頃だろうか。窓をずっと見ていた瀧岡が
「あれ、なにかな?」
と、言ってきた。さすがにつまらない話しにしびれを切らしたか。そう思いながら振り向いて彼女の見ていたものを見た。
学校の斜向かいのコンビニあたりになにかが点滅しているような気がした。その点滅が終わると突然その周囲の建物が崩れだしてきた。俺は立ち上がり、目の前に座っている二人に覆いかぶさるように飛びかかった。
それはごく日常の光景のはずだった。
コンビニの向かいの横断歩道で信号が変わるのを待っていた足の不自由な年配の女性に小学校高学年と思われる女の子が、
「お手伝いします」
と言って女性の手を引こうと左手で手を握った。
その時、二人の身体からまばゆい光が点滅しだした。周囲の人々はただならぬ光景を目にして呆然とするだけだった。その点滅が終わったと思った途端、二人の身体が突然一つになったかと思うと急激に周囲の空気が彼女たちに向かって集まりだした。
一、二秒も経つと一つになった身体が巨大化し、逆にその身体から猛烈な突風が発生した。コンビニ店頭のガラスは砕け散り、駐車場に停まっていた乗用車は一瞬のうちにひっくり返りだした。
信号機のランプは割れ、電柱は根本から折れる。電線が切れなかったので電柱をぶら下げる格好になり、振り子のように電柱が揺れ周囲に被害をもたらす。
巨大化した女性と女の子が融合した身体はまるで土饅頭のような姿をコンビニの駐車場と道路を跨ぐような格好で現した。その身体から発生した突風はまだ街の中を暴れまくった。……季星館学園高等部の校舎にもその風はやってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます