身代わりと試験







 試験結果は、順位と共に廊下に張り出される。

 結果は、一位に二人。月城聡士と「水鳥湊」だ。

 嬉しいよりも、ほっとした。やっぱり緊張はあり続けて、試験の前は手が震えそうだった。


「こうなるか。何か、誰かに並ばれるのは新鮮だな」


 声は、後ろから。

 振り向くと、月城聡士がいた。張り出された順位を見て、心の底から新鮮そうな言い方だった。


 この分では、月城聡士も湊と同じように中学までは独走状態だったのだろう。全教科満点で、その結果自体は当たり前のようだ。

 結果は並んだが、そういうところは勝てないだろうな。


「あー、おれ、謙弥君に負けちゃいましたよ」

「何だよ千里、ライバル視してたのか」

「何となくの目安です。とは言え謙弥君、次は負けないからね」


 絡まれた謙弥は、予想外のことを言われたように瞬いていた。


「俺に並んだんだ、自信持てよ」


 横を見ると、月城聡士が横に並んでいた。

 見上げると、彼はにっと笑った。

 ぱちぱちと瞬き、その顔を見て、わたしは順位表を見た。


「簡単に言ってくれる」


 そう返しながらも、ふっと、口元が緩んだ。


「だけど、一つ、荷が軽くなった気がする」


 次ミスをする可能性はあり続けるわけだから、確固たる自信なんて持てないだろう。それは、わたしがここで湊として過ごしている限り、消えないものだ。

 けれど、一度試験に臨み、試験内容に手間取ることもなく、結果も伴った。


「……何だ?」


 隣から視線を感じた。

 勘違いではなかったらしく、月城聡士に見られていた。凝視だ。


「お前がそういう風に笑うところ、初めて見た気がする」

「え?」

「これまで、作ってただろ」


 言われて、自分が笑みを零していたことに気がついた。

 朝、鏡の前で意識して作ってから浮かべ続けているものではなく、ぽろりと。


 何だ、試験が終わって、思ったよりもほっとしているのだろうか。

 何であれ、試験を無事に終えられた理由の一つは分かっていた。


「聡士、ありがとう」

「いきなり、何の礼だよ」

「あの日、言っていなかったと思って」


 わたしが倒れてしまった日、色んなことに気がつけた。少し、考え方を変えられた。

 これは、湊としてのお礼じゃない。わたしからのお礼だ。


 だから、謝るだけで言えていなかった感謝を言った──が、なぜか、彼は表情を曇らせた。


「聡士?」


 笑顔がない聡士は、わたしを見つめた。


「話がある」


 謙弥に絡んでいた鳴上千里が、ぴたりと止まってこちらを見た。





 そういえば、話があると試験前に言われていた。

 試験期間と試験の採点期間を経て、思い出させられたわたしは、放課後、月城聡士とテーブル越しに向き合っていた。


「話したいことは、白羽のこと、湊と、湊の身代わりになっているお前が今置かれている状況についてだ」

「……?」

「特にお前の今の状況について」

「わたし?」

「前、襲われたこと覚えてるか」

「忘れはしていない」


 あれ以来ないのは、決して一人にはなっていないからか。一人になっていないどころか、ほぼ他の生徒がいる場所からは離れていないし、昼休みは月城主従もいる。

 それとも、単に止められたのか。

 黒幕は白羽ではないかという推測だったが……。


「その件、おそらく俺のせいだ」

「……え?」


 月城聡士のせい、とはなんだ。理解出来ず、怪訝な目を向ける。


「どういうことだ」

「説明をするために、一つ明かしておくことがある。俺は月城家の子どもじゃないっていうことだ」




 ……は?






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