第28話 灯夜と沙羅
「出来ることなら付き添ってあげたいけど、警備部の仕事が残ってるから……
「はい、任せてください」
付き添いで一名が乗り込むことになったのだが、
「本当にお疲れ様。事件の処理が片付いたら、直ぐにお見舞いに行くからね」
「君は本当によくやってくれた。ゆっくり休息を取ってくれ」
車両の扉が閉まる直前に、瑠璃子と灰塚が労いの言葉をかけた。
「それでは出しますね」
救護班の男性の言葉とともに車両は発進。病院を目指す。
「……流石に今回は疲れたな」
車両の天井を見つめ、灯夜は気怠そうな声を漏らす。疲れたで済むような怪我ではないのだが、灯夜が言うと本当に疲れているだけのように聞こえるのだから不思議だ。
「……無茶し過ぎだよ」
沙羅は灯夜の顔を覗き込み、複雑そうな表情で微笑む。灯夜に対する感謝の気持ちと、その怪我の程度を心配する気持ちが混在している。
「
「何だ?」
「久世くんはどうしてそこまで頑張れるの? この街を守るためなのは分かるけど、一歩間違えたら死んでたんだよ」
自分だって力を持っているのなら、それを人助けのために役立てたいとは思う。だからといって命まで懸けられるのかと問われれば、それはまた別問題だ。それだけの覚悟を持てる人間はそうはいない。
「……強いて言うなら、面倒臭いから」
「め、面倒臭い?」
思わぬ回答に沙羅の瞬きの回数が増える。何故頑張れるのかという問いに対して、対極の言葉が返ってきてしまった。
「面倒臭いから頑張れるんだよ、俺は」
「哲学かな?」
何となく深い言葉のようにも感じられるが、冷静に考えればただの矛盾である。
「例えば今回の事件だってさ、マナが暴走してたら
「う~ん、言いたいことは分からないでもないけど」
あれだけの出来事を面倒事と片づけてしまうあたりは何とも灯夜らしいが、それだけでは頑張れる理由としてはいまいち弱い気がする。もちろん価値観は人それぞれなので、灯夜自身がそうだと言うのならそうなのかもしれないが。
「もっとシンプルに言うとさ――」
思ったよりも混乱している沙羅を見かねて、灯夜は自分なりの、一番分かりやすい言葉を絞り出した。
「俺は当たり前のように『面倒臭い』ってぼやける、この平和な日常を守りたいんだよ……」
口に出してみると思った以上に恥ずかしかったようで、灯夜はそのまま口籠り、沙羅から目線を逸らしてしまった。
「うん、それなら分かる気がする」
灯夜の顔を覗き込み、沙羅は晴れやかな笑顔で言った。
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