第12話 図書館
翌日の夕方。学校を後にした
図書館へは
「素敵な図書館だね」
第一印象を口にした沙羅の瞳は輝いていた。
曲線的なデザインを黒で引き締めたシックな外観。敷地内の庭には複数のアート作品が飾られており、季節感を醸し出す周囲の植物たちがその魅力をさらに高めている。美術館だと言われても納得できるような、とても洒落た建物だ。
「二年前に老朽化した古い図書館から建て替えられてな。建物のデザインは館長自ら行ったらしい。ちなみに飾られている作品も館長のコレクションの一部だそうだ」
「だとしたら、凄くセンスの良い人なんだね」
建築に詳しいというわけでは無いので偉そうなことは言えないが、沙羅は図書館のデザインにとても心惹かれていた。
「見物は今度にしろよ。今日は仕事で来てるんだから」
「わ、分かってるよ」
じっくり見学したいという思いを沙羅は必死に抑え込んだ。灯夜の言う通り今日は遊びで来ているわけではないのだ。
「行くぞ」
灯夜はさっさと入口の方へと向かってしまった。
「ちょっと待って
入口付近の立て看板を見て沙羅は灯夜を呼び止める。
看板によると、開館が午前9時で閉館が午後5時。現在の時刻は午後6時を少し回ったところなので閉館時間はとっくに過ぎている。
「それを狙って少し遅めに来たんだよ」
「どういうこと?」
「とりあえず入ろうぜ」
灯夜は躊躇なく、堂々と正面入り口から館内へと入って行った。
「ま、待ってよ」
閉館後の図書館に立ち入っていいものか決心がつかぬまま、沙羅も灯夜に続いた。
エントランスに入ると数人の司書が作業をしており、閉館時刻を過ぎてからの奇妙な来館者に対していっせいに視線が注がれた。
「……完全に浮いているんですど」
話が違うじゃないかと言わんばかりに、沙羅は灯夜を横目で見やる。周りの視線が痛いとはまさしく今の状況だ。
「申し訳ありません。本日はもう閉館なのですが」
状況を見かねたのだろう。三十代くらいと思われる男性司書が柔らかい物腰で声をかけてきた。この場の対応としては適切だろう。
「館長さんに話があるんです。
「
司書は
「……本当に大丈夫なのかな?」
進展しない状況に沙羅は気まずさを感じていたが、そんな居心地の悪さは、あっさりと解消されることとなった。
「おや、灯夜くんじゃないか」
奥の部屋から、長身の壮年男性が姿を現した。
男性は丸眼鏡をかけ、セットアップのグレーのベストとスラックスを着用。日本人のようだが顔の堀りも深めで、どこか英国紳士的な雰囲気を感じさせる。
「こんばんわ、灰塚さん。今日は灰塚さんにお話しがあって伺いました」
目上の相手に対する言葉使いくらいは心得ているようで、灯夜は普段よりも丁寧な口調で要件を告げた。
「いつでも大歓迎だよ」
知的な笑みを浮かべると、灰塚は快く要件を聞き入れた。
「そちらのお嬢さんは、初めましてだね」
「久世くんの同級生の
「館長の
優しい微笑みで灰塚は右手を差し出し、沙羅もそれに応えて握手を交わす。
「館長、お知り合いなんですか?」
灯夜と灰塚が親し気に会話している様子を見て、司書の男性は面食らったような顔をしている。やはり本心では灯夜のことを怪しんでいたのだろう。彼の言葉が事実だと知り驚いているようだ。
「ああ、私の大事なお客様だ。私はこれから館長室で彼らと少し話がある。君達は蔵書の点検が終わったら、今日はもう引き上げてくれても構わない。戸締りは私がしておくから」
灰塚の言葉に司書たちは「わかりました」と頷き、再び作業へと戻っていった。
「なあ、閉館後に来ても大丈夫だっただろ」
灯夜がそっと沙羅に耳打ちした。
「確かに大丈夫だったけど、何でわざわざ閉館後にここへ?」
灰塚館長を訪ねるだけなら、別に開館中でもいいだろうにと沙羅は思う。
「閉館後の方が灰塚さんがいる可能性が高いんだよ。魔術師としての仕事は、主に閉館後にやってるから」
「だったら最初にそのことを説明してよね」
相変わらず説明不足な灯夜に、沙羅は大きな溜息を漏らした。初めから説明してくれていれば、ここまで気苦労を重ねなくて良かっただろうに。
「それでは館長室に行こうか」
灰塚に案内され、灯夜と沙羅は奥の館長室へと通された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます